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気楽に行こうぜ

 今日は休日だった。


 朝の9時に目が覚めて、時計を見て驚いた。普段なら7時には起きているのに、今日は自然に目が覚めるまで寝ていられた。


 (あー、休日っていいな)


 《お前はいつも休みの様に緊張感ないだろ?》


 俺はベッドの中で大きく伸びをした。


 今日は任務もないし、訓練もない。完全にフリーの一日だ。


 (何しようかな)


 《乙葉とデートでもするか?》


 (付き合ってるならまだしも、この間行ったばかりだから。頻繁に誘えばがっついてるって思われてもやだし、ぷらぷら散歩でもするよ)


 《お、珍しいな。インドア派のお前が外に出るとは》


 (失礼な。俺だって外出するよ)


 《いつもスマホか鏡の前じゃねぇか》


 確かにそうだった。管理局に入ってから、1人で街を歩くことなんてほとんどなかった。


 (今日は街を散策して、今度のデートの下見かな)


 《ほう、計画的だな》


 (乙葉ちゃんが喜びそうなお店とか、チェックしておきたいし)


 俺は起き上がって、クローゼットを開けた。


 今日は私服だ。


 黒いジーンズに白いシャツ、その上にグレーのカーディガン。


 鏡で全身をチェックする。うん、悪くない。


 (男装してても、やっぱりおしゃれは楽しいな)


 《女の本性が出てるぞ》


 (うるさい。男だっておしゃれするだろ?)


 俺は髪を整えて、軽くワックスをつけた。


 サラシもちゃんと巻いて、胸のラインを隠す。


 (よし、完璧。可愛くて格好よくて俺最強)


 《ナルシストめ》


 (ナルシストじゃないよ。身だしなみは社会人として必須だから)


 俺は財布と携帯を持って、部屋を出た。


 廊下には誰もいない。みんなまだ寝ているか、それぞれの休日を過ごしているのだろう。


 管理局の玄関を出ると、爽やかな風が頬を撫でた。


 (いい天気だ)


 《散歩日和だな》


 俺は最寄りの駅に向かった。


 電車に乗って、繁華街まで出る。


 久しぶりの街の喧騒が新鮮だった。


 (やっぱり街っていいな)


 《人が多いな》


 (でも、この雑踏の中にいると、なんか安心する)


 《ああ》


 (誰も俺をみていなくて、そこまで気を張って演技しなくていいこの感じ。でもさりげなく目があったりして確かに俺を認識してくれてる。この空気感が安心する)


 俺は特に目的もなく、商店街を歩き始めた。


 雑貨屋さんの前を通ると、可愛い小物が目に入った。


 (あ、あのヘアピン可愛い)


 《乙葉に似合いそうだな》


 (だよね。今度買ってあげようかな。本当はお揃いでつけたいけど……男はつけない、よね)


 俺は店の前で立ち止まって、ショーウィンドウを眺めた。


 ピンクの花がついたヘアピンや、猫の形をしたブローチ。


 どれも乙葉ちゃんに似合いそうだった。


 (乙葉ちゃん、可愛いものが好きだから)


 《お前も好きだよな。乙葉も可愛いしな》


 (そうだが何か?)

 

 《開き直りやがった。その緩み切った顔なんとかしろよ》


 俺は慌てて表情を引き締めた。


 (1人でニヤニヤしてたら完全に不審者だしな)


 《恋する乙女だからしょうがないか》


 (乙女だがなにか?)


 次に甘味処の前を通った。


 美味しそうなケーキやパフェの写真が並んでいる。


 (ここも良さそうだな)


 《甘いもの好きの乙葉にはピッタリだな》


 (今度一緒に来よう)


 俺はスマホでお店の写真を撮った。


 デートスポットのリサーチは大事だ。


 (ここのパフェ、すごく美味しそう)


 《お前も甘いもの好きだもんな》


 (女の子は甘いものが好きなんだよ)


 《はいはい》


 そんな風に街をぶらぶら歩いていると、商店街の通りに差し掛かった。


 平日よりも人が多くて、活気がある。


 (商店街って面白いな)


 《色んなものが売ってるからな》


 その時、俺の前でおばあちゃんが大きな荷物を抱えて歩いていた。


 見るからに重そうで、よろよろしている。


 (あ、危ない)


 案の定、おばあちゃんが荷物を落としてしまった。


 中からリンゴやみかんが転がり出る。


 俺は慌てて駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


「あら、ありがとう」


 おばあちゃんが振り返る。優しそうな顔をした、小柄なおばあちゃんだった。


 俺は散らばった果物を拾い集めた。


「重そうですね。持ちましょうか?」


「いいのかい? 悪いねぇ」


「全然大丈夫です」


 俺はおばあちゃんの荷物を持って、一緒に歩いた。


 (意外と重いな)


 《よくこんな重いもの持ってたな》


 「お兄ちゃん、優しいねぇ」


 おばあちゃんが嬉しそうに言った。


「いえいえ、当然のことです」


「最近の若い人は冷たいのに、僕は親切ねえ。嬉しいよ」


 俺は照れながら答えた。


 (まあいい人ムーブは、基本中の基本だからな)


 《照れ隠しして可愛いやつだな。いや逆にキモいか?》


 おばあちゃんの家まで荷物を運んで、お礼を言われた。


「本当にありがとう。お兄ちゃんみたいな人と結婚できる女の子は幸せだねぇ」


 思わず俺は顔が赤くなった。


「そ、そんな……」


 (結婚って……)


 《乙葉のことを思い浮かべてるだろ》


 (そうだが、何か?)


 《あれ、デジャブ?》


 おばあちゃんと別れて、また街を歩き始めた。


 その時、後ろから女の子の声が聞こえてきた。


「ねぇ、今のイケメンじゃない?」


「うん、すごい優しそう」


「声かけてみようよ」


 (え? 俺のこと?)


 《自意識過剰おつ》


 俺が振り返ると、大学生風の女の子たちがこちらを見ていた。


 そして、一人の子が話しかけてきた。


「あの、すみません」


「はい?」


 俺は戸惑いながら答えた。


「もしよろしかったら、連絡先交換しませんか? 後この後お茶でも……」


 俺は慌てた。


 (え? え? 何これ? 逆ナン?)


 《ハーレム夢叶ってるじゃん》


 (初めてされた! 俺ってば罪な女。って違うよ! 俺には乙葉ちゃんが……いやでも結構可愛い……ってちがーう!)


 「あ、えーっと」


  断るにしても、理由をどう説明すればいいのか。


 (彼女がいるって言うのが一番無難?)


 《願望ですか?》


 (辛辣ぅ。好きな人いるのでとか?)


 「すみません、この後猫カフェ行く予定あるので……」


 俺は申し訳なさそうに答えた。


「あ、そうなんですね! 私達も行こうと思ってたんです。一緒にいきましょう」


 (ええ……めっちゃ食い下がってくるじゃん。そんなに俺と居たいのか。俺が素敵すぎるから……)


 《きも。ってか普通に犯罪匂わせて引き下がらせれば?》


 (それだ!)


「俺も一緒にいきたいのは山々なんですが、お姉さんたち20歳超えてる大人ですよね? 俺まだ16で、一緒にいたら迷惑かけちゃうからもう少し大人になってからでいいですか?」


 身分証を見せながら言うと、女の子たちは諦めて去っていった。


 俺はほっと息をついた。


 (危なかった……いや惜しいことをしたか?)


 《おい、そんなこと言っていいのか?》


 (そりゃ俺だもん。世界がほっとかないんだからしょうがない)


 《まあ、顔は良いからなあ、顔は。》


 (2回も言わんで良い。ってか性格もいいから!)


 俺は複雑な気持ちになった。

 男として魅力的だと思われている。自分の狙い通りなのだが、どこか淋しさを感じた。


 まあそれを抜きにしても、乙葉ちゃん以外の人に好意を向けられても困る。


 (やっぱり俺は乙葉ちゃん一筋)


 《ほんとか?》


 (……多分)


 《そこは言い切れよ》


 気を取り直して、街歩きを続けた。


 午後になって、ちょっと疲れてきた。


 どこかで休憩したいと思っていると、ちょうどお目当ての猫カフェの看板が目に入った。


 (あ、猫カフェついた)


 《前から気になってたやつか》


 (そうそう。雰囲気とかシステムとかも知っときたいし、覗いてみない?)


 《いいんじゃねぇの》


 俺は猫カフェに入った。


 店内には可愛い猫たちがのんびりと過ごしている。


 (わぁ、可愛い……)


 《動物好きだもんな、お前》


 俺は席に座ると、すぐに一匹の猫が近づいてきた。


 茶トラの子猫で、大きな目をしている。


 (可愛い!)


 猫は俺の膝の上に飛び乗ってきた。


 そして、ゴロゴロと喉を鳴らし始める。


 (うわぁ、可愛すぎる……)


 俺は猫を優しく撫でた。


 ふわふわの毛が気持ちいい。


 (癒される……)


 《俺以外を撫でてる……デレデレしてる》


 (だって可愛いんだもん)


 《俺という存在がありながら。この浮気者め!》


 (ポン吉は猫じゃないじゃん)


 《たぬきと猫、どっちが可愛い?》


 (そりゃ……)


 俺は答えに詰まった。


 ポン吉も可愛いけど、猫の可愛さは別ものだ。


 《答えに詰まってるじゃねぇか》


 (ポン吉も可愛いよ)


 《も、ってなんだ。もって》


 (本当だって。俺にはポン吉が1番。帰ったらめいいっぱい撫で回すからさ。でも猫も可愛いからしょうがないでしょ? 毎日ご飯だとたまにパン食べたくなるじゃん?)


 《……まぁ、いいや》


 ポン吉は照れたように頭を掻いた。


 俺は猫カフェで1時間ほど過ごした。


 色んな猫と触れ合って、心が洗われた気分だった。


 (猫って本当に癒されるな)


 《今度乙葉も連れてきたら?》


 (それいいね。乙葉ちゃんも動物好きだし)


 《また新しいデートスポットが見つかったな》


 俺は猫カフェを出て、帰路につくことにした。


 夕暮れの街を歩きながら、今日一日を振り返った。


 (今日は楽しかった)


 《たまにはこういう日も必要だな》


 (次は乙葉ちゃんと一緒に来よう)


 《デート計画ノートに書いとけ》


 (デート計画ノートって何だよ)


 《作れよ。雑貨屋、甘味処、猫カフェ……》


 (意外といいアイデアかも)


 俺は今日見つけたお店を思い出しながら歩いた。


 乙葉ちゃんと一緒に来たら、きっと喜んでくれるだろう。


 (早くデートしたいな)


 《誘ってみたら?》


 (そうだね。勇気を出して誘ってみよう)


 電車に乗って、管理局に戻る。


 車窓から見える夕日が綺麗だった。


 (いい一日だった)


 《お疲れさん》


 管理局に到着すると、ちょうど乙葉ちゃんとすれ違った。


「あ、昴くん。お疲れさま」


「お疲れさま。乙葉ちゃんも外出してたの?」


「うん、買い物に行ってたの」


 乙葉ちゃんが買い物袋を見せてくれる。


 (今日話しかけてみよう)


 《がんばれ》


「あの、今度よかったら……」


「うん?」


「また、一緒に街を歩いてみない? 面白そうなお店があったんだ」


 乙葉ちゃんの顔が明るくなった。


「本当? ぜひ行きたい!」


「じゃあ、今度の休みに」


「楽しみ! どんなお店があったの?」


 俺は今日見つけたお店の話をした。


 乙葉ちゃんは興味深そうに聞いてくれる。


「猫カフェいいね! 私も動物大好きなの」


「そうなんだ。今度一緒に行こう」


「約束だよ?」


「もちろん」


 俺たちは談笑しながら、それぞれの部屋に向かった。


 (うまくいった!)


 《よかったな》


 (今度のデートが楽しみだ)


 部屋に戻って、俺は今日の出来事を思い返した。


 おばあちゃんを助けたこと、女の子たちに声をかけられたこと、猫カフェでの癒しの時間。


 そして最後に、乙葉ちゃんとの約束。


 (充実した一日だった)


 《たまには2人で出歩くのもいいもんだな》


 (そうだね。色んな発見があった)


 俺はベッドに横になって、天井を見上げた。


 明日からまた任務や訓練が始まる。


 でも、今日みたいな穏やかな時間も大切だと思った。


 (人生には息抜きが必要だな)


 《そういうこった。メリハリが大事だな》


 (ポン吉も今日は付き合ってくれてありがと)


 《おう、ちゃんと後で撫でろよ?》


 (そりゃもう丁寧に撫でさせていただきますよ)


 《ほうほう。撫でられには一過言あるからな俺は》


 (なんだそれ)


 《撫でられマスター舐めんな》


 俺は微笑見ながらポン吉を撫で回した。

昴ポン仲良し回

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