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ポン吉無双

 午後2時、俺たちは管理局の車で田舎に向かった。


 運転席に根倉局長、助手席にいろはさん、後部座席に俺。

 車は高速道路を走る。窓の外には田園風景が広がっていて、のどかな雰囲気だ。


 (田舎だなぁ。乙葉ちゃんとのデートの余韻も冷めやらぬ中、なぜ俺は車に揺られているのか)


 《移動時間結構長そうだな。あと2時間は覚悟したほうがよさそうだな》


「昴ちゃん、退屈でしょ? 何か話そうか」


 いろはさんが振り返る。


 「そうですね、お願いします」


 俺は少し緊張しながら答える。いろはさんには、俺が女だってことがバレてる。局長もだけど。

 くだらない日常の話の後、いろはさんがぶっ込んできた。


 「そういえば、なんで男装してるの? 詳しく聞いたことなかったから」


 いろはさんが率直に聞いてくる。


 (えーそれきくぅ? まぁ、答えてやらんこともないけど?)


 《正直誰かに聞いて欲しくてたまらなかったくせにな》

 

 俺は少し考えたフリをしてから答えた。


 「えーっと……長い話になりますけど、聞きます?」


 (どこまで話していいかな)


 《この2人なら……ってか組織のみんな、大丈夫だろ。理解してくれそうだし》


 「中学生の時、クラスの女の子に告白したことがあって」


 (めっちゃ勇気振り絞ってさ)


 《1ヶ月は告白するか悩んでたな》

 

 「うんうん」


 (1番仲良くしてた、親友? 的なポジションの子だったんだよね)


 《なー》

 

 「そしたら『頭おかしい』『気持ち悪い』って言われて」


 (告白失敗しても元の友達でいられるって思ってたのに)


 《冷静に考えたら、今まで通りなんて無理なんだけどな》

 

 いろはさんが眉をひそめる。


 「ひどいわね、それは」


 (酷い? ひどかったのかなあれ)


 《しょうがないところもあったよな》

 

 「その子が他の子にも話しちゃって、クラス中にバレて」


 (これは辛かった。黒板にデカデカと鏡昴はレズビアンとか書かれてて)


 《別に女の子が女の子好きで何が悪いんだよな!?》

 

 「最悪……」


 「いじめられるようになったんです。『レズ』って呼ばれたり、更衣室で着替えてると『こっち見るな』って言われたり」

 

 (着替えだって鏡見てたほうが可愛いしな。ブス見たって嬉しかないわ!)


 《乙葉と昴どっち可愛い?》


 (可愛いのは乙葉ちゃん。綺麗なのは俺)

 

 局長がバックミラー越しに俺を見る。


 「辛かったね」


 「トイレも行けなくなって。『あいつが入ったトイレは使いたくない』って」

 

 (ブス盗撮したところでよろこばねぇってのにな。俺より可愛くなってから言えって)


 《それは無理ゲー》

  

 俺は苦笑いした。


 「それで、男装することにしたんです」


 「なるほど……でも、それでも問題はあったでしょ?」


 局長が聞く。


 「はい。男装してデートしても、女だってバレると冷たい目で見られて」


 (あの眼差しで、新たな性癖目覚めるかと思ったよ)


 《基本攻めたい派だよね。処女だけど》


 (処女は貴重なんですー。希少価値なんですー)

 

 「あー……複雑ね」


 いろはさんが理解したような顔をする。


 「『可愛い男の子』だと思って遊びでデートしてくれる子もいたんですけど、それも虚しくて」


 (遊ばれることに新た性癖……)


 《もうええわ》

  

 「本当の恋愛じゃないものね」


 「女だってバレた瞬間、『騙された』『気持ち悪い』『変態』って言われることもありました」


 (変態はないよな。真剣に男装してるのにさあ)


 《真剣じゃない男装ってどんな男装?》


 「だから、ちゃんと恋愛するのは諦めてたんです」


 「でも、今は違うのよね?」


 いろはさんが微笑む。

 

 (そう、大天使乙葉ちゃんが降臨してしまったのです)


 《出会って1ヶ月くらいだぞ、大丈夫か?》


 (恋に時間は関係ナッスィング)

 

 「昴ちゃんは、乙葉ちゃんのこと、本気で好きになったから」


 「そうなんです」


 俺は頷く。


 「ええ!? そうなの? おじさん何か手伝ったりしたほうがいい?」


 (女同士の話に入ってくるオヤジ、どう思うよ)


 《スルーですよスルー》


 いろはさんと目配せして、局長の発言はスルーすることに。


 「今までとは全然違うんです。今までは『可愛いな』『綺麗だな』って思うだけで、デートしたりしてたんです。」


 《いい感じ風に言ってっけど、性欲で動いてたよな》


 (ウルセェ。最後まで行けたことないんだ! 言うんじゃねぇ)

 

 「表面的な好意ってことね」


 「でも、乙葉ちゃんは違います。一緒にいると幸せだし、守りたいって思うし、彼女の笑顔のためなら何でもできるって思うんです」


 (ぶっちゃけ乙葉ちゃんが幸せなら、俺と付き合わなくてもいいとまで思ってる)


 《昴……それは恋じゃない。愛だぁ》


 「初めて『恋』ってものが分かりました」


 いろはさんが嬉しそうに笑う。


 (愛だったのか。通りで乙葉ちゃんのこと考えるとアソコがび)


 《そこまでだぜ、昴。卑猥な話しすぎだ。そう言うのは夜思いっきりするもんだぜ》

 

 「素敵な恋ね。私も応援してる」


 「色々相談に乗るからね。体のことでも、恋愛のことでも、何でも頼って」


 「ありがとうございます」


 (えっちなこともいいのかな?)


 《いい加減ピンク脳から戻ってこい》

  

 局長が口を挟む。


 「でも、乙葉には正体バレてないんでしょ?」


 「はい……いつかは話さないといけないと思うんですけど、怖くて」


 (これすぎる。普通に引かれたら死ねる)


 《そんときゃオレが慰めてやんよ》


 「焦らなくていいのよ。恋愛にはタイミングってものがあるから」


 いろはさんが慰めるように言う。


 「そうですね」


 (でも、いつかは話さないと)


 《その時はその時だ》


 車は田舎道をひたすら走り続ける。本当に田舎だ。コンビニも見当たらない。


 2時間ほど走って、ようやく目的地に到着した。


 小さな村の、さらに奥にある田んぼ。


 「着いたよ」


 局長が車を止める。


 辺りはとても静かで、風の音と虫の鳴き声だけが聞こえる。


 「あそこよ」


 いろはさんが田んぼを指差す。


 そこには、白い影がゆらゆらと揺れていた。


 (ひゃー、きんも)


 《クネクネしてんのこの距離でもわかるな》

 

 「本当にいるんですね」


 俺は思わず声を上げる。


 「見ちゃダメ!」


 いろはさんが慌てて俺の目を手で覆う。


 (イヒ、いろはさんが直々に手で目隠ししてくれう)


 《ほんとブレないな、お前》

 

 「そうそう。昴くん、アイマスクつけて」


 局長がアイマスクを渡してくる。


 俺は、渋々アイマスクをつける。視界が完全に暗くなった。


 《アイマスク渡されちゃったな》


 (余計なことすんなし)

 

 「これで準備完了」


 (昴は目の前が真っ暗になった)


 《某センターいかなきゃ》


 「じゃあ、作戦開始」


 局長の声が聞こえる。


 「いろは、住民対応頼む」


 「了解」


 いろはさんの足音が遠ざかる。


 (バイバイ、お姉ちゃん……)


 《いつからお前のねぇちゃんになったんだよ》


 「昴、俺の指示に従って——」


 その時、ポン吉が動いた。


 《おっと、スライムが動き始めたぞ。触手攻撃来るぞ》


 (は?)

 

 ポン吉がオレの前に、バリアを展開する。

 ベチャッという音がバリアにぶつかった。


 「え? 今の何? まだ指示出してないけど……」


 局長が困惑した声を上げる。


 (ポン吉サンキュー)


 《おう。お礼は後な。スライムが左に移動した。移動すんだなこいつ、槍で追撃するぞ》


 ポン吉が槍を生成する。


 (ポン吉合わせろよ)


 《今回もあれやんのかよ》


「お前の欲望……溶かしてやるぜ」


 腕をくねくねが居るであろう方向へ向ける。そして向けて放つ。


 「ちょっと待て、昴。なんで位置が分かるんだ?」


 (黙っとけ局長。指示遅いんだよ使えねぇ)


 《今度は右からムチ攻撃。ってかいちいち教える意味ある?》


 ポン吉は右にバリアを展開する。


(いや、知らんでいきなりきたらビクってしちゃうから教えてよ)

 

 ベチャンという音と共に、何かがバリアに絡みつく感触。餅投げつけられたみたいな音だな。


 「すげぇ……本当に見えてるみたいだ」


 局長が呟く。


 (ポン吉が全部やってるからなー。攻撃する時いちいち何するか言わんでもええでー)


 《一応な、一応。ほら、連続攻撃行くぞ》


 ポン吉が次々と槍を生成し始める。


 バシュッ、バシュッ、バシュッ。


 「待て待て、昴! 俺の指示は?」


 局長が慌てて叫ぶ。


 「えーっと、遅くて……」


 (軽くディスっとこ)


 《スライムの動きが速くなってきたぞあ。本気出してきたか?》


 (暇なんだけどー。今どんな感じ?)


 《白いムチが4本くらい出てきた》


 (それってすごいの??)


 俺は呑気に質問しながら、ぼーっと立っていた。。


 ポン吉はと言うと、バリアで防御し、槍で攻撃し、時々移動の指示する。


 「昴、すげぇな……本当に見えてないの?」


 局長が唖然とした声で聞く。


 「見えてないです。局長の指示が遅すぎるので頑張ってます」


 (真正面から言ってやったよ。そろそろ構ってくれないと寂しい)


 《今度は上から触手攻撃だぞ。そいだら、終わったらいっぱいわしゃわしゃしてくれ》


 ポン吉は、頭上にバリアを展開する。


 ベチョンという音と共に、触手がバリアに叩きつけられる。


 「上からの攻撃まで……」


 (わかった!)


 《今は手が離せないけど、オレの一番は》


 (俺!)


 《その通り。だから待ってろ》


 戦闘は延々と続いた。


 スライムは予想以上に手強かった。触手を4本も5本も伸ばして、あらゆる方向から攻撃してくる。


 でも、ポン吉の対応は完璧だった。


 《右、左、上、下。全方向から来るぞ》


 ポン吉が、全方向にバリアを展開する。


 「なんだこれ……」


 局長が呆然と呟く。


 「昴、お前本当に見えてないのか?」


 「見えてないですよ。頑張ってるんです!」


 (ポン吉の視界は借りれないのかな)


 《無理だ。仮に見れたとしたら俺が戦ってる意味》


 (確かに、クネクネ見たらいけんのに見たことになるな)


 《核が見つからん。白い体に白い核って、見つけにくすぎる》


 (がんがれー)


 《お前終わったらちゃんと労えよ》


 俺は槍を連続で生成して、適当に撃ちまくる。


 バシュッ、バシュッ、バシュッ。


 (弾幕足りなくない?)


 《意味不明だ》


 その時、スライムが大技を放ってきた。


 《でかい攻撃来る。全身を覆うバリアだ》


 俺の体が光に包まれる。全身バリア。


 ドゴォンという音と共に、強烈な衝撃が俺を襲う。


 「うわああああ」


 俺は吹き飛ばされる。


 「昴!」


 局長が駆け寄ってくる。


 「大丈夫か?」


 「だ、大丈夫です」


 (局長ってまじ無能)


 《それな》


 (何ならできるん?)


 《ハンコ押すことじゃね》


 「今の攻撃すごかったな……」


 局長が感心する。


 「でも、よく防いだ」


 (まじよく防いだとか、誰目線だ?)


 《ほんとそれ》


 俺は立ち上がって、再び戦闘態勢を取る。


 《核を発見した。たぶんスライムの中央部だ》


 (たぶん?)


 《だってほんと見づらいから……》


 ポン吉が、いつもより大きな槍を生成する。


 《これで仕留める》


 (すごく……大きいです)


 《よろしくお願いしまああああす》

 

 槍が勢いよく飛んでいく。


 そして——


 ぐちゃっという音と共に、何かが潰れる音がした。


 《あれ何で最後によろしお願いしますって言ったんだろうな》


 (願掛け的な? そもそも馬鹿が氷動かさなかったらあれで話終わってたのにな)

 

 「おお! 当たった!」


 局長が歓声を上げる。


 《それ言ったら話進まないじゃん》


 俺はアイマスクを外した。


 田んぼには、白い液体がべちゃっと散らばっているだけ。


 「やりましたね」


 (ポン吉、お疲れさん)


 《いやー、疲れた。核見つけるのに苦労した。ってか深度2でも能力ほぼ無効ならチョロだな》


 「お疲れさま」


 いろはさんが戻ってくる。


 「住民への記憶処理も完了よ。みんな昼寝してるってことにしておいた」


 「ありがとう」


 局長が頭を下げる。


 「それにしても、昴……」


 局長が俺を見る。


 「すげぇな、お前。指示なしでよく戦えた」


 (ってかあの指示の遅さで倒そうとしてたって、マジ?)


 《こいつまじ無能じゃね?》


 「指示なし?」


 「最初から最後まで、俺の指示を待たずに動いてただろ?」


 (指示なんてしてないも同然なのに何言ってんだ?)


 《わしの手柄じゃー》


 「あー、えーっと……指示なんてありました?」


 「いや、ま、そうだけど……」


 「指示待ってたら死にそうだったので頑張りました」


 (適当に答えとこう)


 《適当と言うよりか、ボコボコに言ってるよな》


 「野生の勘ってやつね。すごいじゃない」


 いろはさんが感心する。


 「でも、正直言うと俺は何も指示できなかった。お前が勝手に戦ってたから」


 局長が苦笑いする。

 

 (自覚してんならさっきの件要らなくね)


 《ちょっとでも女の子と話したいんだよ》


 (キャバクラじゃねぇんだよここはよー!)

 

 「あー……すみません」


 「いや、結果オーライだ。むしろ感心したよ」


 (ポン吉が頑張ったったことだね)


 《当然だ》


 帰りの車で、俺は今日の戦闘を振り返っていた。


 (ポン吉が全部やってくれたから、なんかした感ないや)


 《お前も一応立ってただろ》


 (文字通り立ってただけね)


 (楽して評価されていいね!)


 《お前が嬉しいと俺も嬉しいぜ》


 そうだ、結果が全てだ。


 方法なんてどうでもいい。


 魔物を倒して、みんなを守れればそれでいい。


 そして、乙葉ちゃんを守れればそれでいい。


 管理局に戻ったのは夜の8時頃だった。


 「お疲れさまでした」


 俺は局長といろはさんに挨拶する。


 「ああ、お疲れさま。今日もよくやった」


 局長が手を振る。


 「また何かあったら相談してね」


 いろはさんが微笑む。


 俺は自分の部屋に戻った。


 ベッドに倒れ込んで、今日を振り返る。


 午前中はお勉強。午後は魔物討伐。


 俺は疲れて、そのまま眠りについた。


 今日も、乙葉ちゃんの夢が見られそうだ。

可哀想は可愛い

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