表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/70

兄さん兄さん兄さん兄さん

 高城依里は自分の部屋に戻ると、そっとドアを閉めて深く息をついた。

 初任務、お疲れさま。


 依里は今日の出来事を振り返って居た。

 

 昴くんの初めての任務だったけれど、すごく頑張っていた。一人で魔物を倒すなんて、普通の人にはできないことだ。


 私が初めて任務に参加した時は、兄さんにおんぶに抱っこで、何もできなかった。ただ兄さんの後ろに隠れているだけで。


 あの時の兄さん、かっこよかったなぁ。


 今日も本当にかっこよかった。


 現場での冷静な指示、迷いのない判断、頼もしい背中。そして戦闘中の圧倒的な強さ。欲望解放した状態の兄さんは、まさに竜そのものだった。


 4体の魔物を一瞬で倒してしまう力。あんなに強い兄さんなのに、私にはいつも優しい。


 依里は胸に手を当てた。心臓がまだドキドキしている。

 兄さんは素敵すぎる。強くて、優しくて、かっこよくて。

 でも、私たちは兄妹。血のつながった、本当の兄妹。

 だから、私の気持ちは叶わない。叶ってはいけない。

 この想いが私の憂鬱の源泉。叶わない恋への絶望。添い遂げられない想いへの苦しみ。


 そんなことを考えていると、隣の部屋から物音が聞こえてきた。


 なんとなく依里は、兄さんが帰ってきたのかもしれない、そう思った。


 しばらくして、コンコンとノックの音が響いた。


「依里、起きてるか?」


 誇の声。依里の心臓が跳ね上がる。


 「はい、起きています」


 依里は慌てて立ち上がって、ドアを開けた。


 そこには報告を終えたらしい誇が立っていた。まだ戦闘服のままで、少し疲れた様子を見せている。


 「お疲れさまでした、兄さん」


 「ああ、お疲れさま。今日はありがとうな、依里」


 誇が微笑む。その笑顔を見ると、依里の胸が温かくなる。


 「私は何も大したことしてませんよ」


 「そんなことはない。お前の能力がなかったら、大変なことになってた」


 誇が依里の頭に手を置く。


 その瞬間、依里は電気が走ったような感覚を覚えた。


 「兄さん……」


 「ん?」


 「その……今日は本当にかっこよかったです」


 依里は顔を赤くしながら言う。


 「おい、なんだ急に」


 誇が照れたような表情を見せる。


 「でも、昴くんへの対応、少し厳しすぎたんじゃ……」


 「ああ、あれか」


 誇が少し困ったような顔をする。


 「確かに配慮が足りなかった。初任務であれだけできれば十分だったのに」


 「昴くん、頑張ってましたものね」


 「そうだな。後でフォローしておくか」


 誇が廊下の奥を見る。


 「そういえば、昴の部屋はどっちだ?」


 「確か、あちらの方だったと思います」


 依里が指差す。


 その時、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。


 「あ、乙葉ちゃん」


 満服乙葉が現れる。手にはお盆を持っている。


 「依里ちゃん、誇先輩、お疲れさまです」


 「乙葉、お疲れさま」


 誇が答える。


 「昴くんにおやつを持って行こうと思うんですけど、一緒に行きませんか?」


 乙葉が提案する。


 「おやつ?」


 「はい。初任務だったから、お疲れさまの意味で」


 乙葉が嬉しそうに笑う。


 依里は少し複雑な気持ちになった。乙葉は昴くんを気にかけている。それは優しさからだと分かっているけれど。


 「そうだな、俺からも一言謝っておきたい」


 誇が頷く。


 「じゃあ、みんなで行きましょう」


 乙葉が嬉しそうに言う。


 3人は昴の部屋に向かった。


 昴の部屋のドアをノックすると、中から返事が聞こえる。


 「はい、どちらさま」


 「昴くん、乙葉です。おやつ持ってきたよ!」


 「あ、乙葉ちゃん。ちょっと待って」


 しばらくして、ドアが開く。


 「乙葉ちゃん、どうしたの? あ、誇さんと依里ちゃんも」


 昴が少し驚いた様子を見せる。


 「お疲れさまの意味で、おやつを作ってきちゃった」


 乙葉がお盆を差し出す。


 「わぁ、ありがとう。そしたら、みんなで食べよう。誇さんと依里もいいですか?」


 昴が部屋に招き入れる。


 昴の部屋は整理整頓されていて、シンプルだった。


 「座って、座って」


 昴が椅子を勧める。


 乙葉がお盆からクッキーとお茶を出す。


 「手作りなんですか?」


 依里が聞く。


 「はい。昴くんの好みが分からなかったから、無難にクッキーにしました」


 「美味しそう」


 昴がクッキーを一つ取る。


 「その……なんだ、昴」


 誇が口を開く。


 「はい、なんです?」


 「さっきは済まなかった。きつい言い方をしてしまった」


 「えっと……なんかありました?」


 昴が戸惑ったような顔をする。


 「初任務であれだけできれば十分だった。俺の言葉が不適切だった」


 誇が頭を下げる。


 依里は驚いた。兄さんが頭を下げるなんて、滅多にないことだ。


 「ああ! そんなことで……ちょ、頭を上げてください」


 昴が慌てる。


 「確かに時間はかかったかもしれませんが、誇さんの指摘は的確でした」


 「でも……」


 「それに、誇さんの戦い方、すごかったです。あんな風に戦えるようになりたいって思いました」


 昴が素直に言う。


 依里の胸が温かくなった。昴くんは優しい人だ。兄さんの謝罪を素直に受け入れて、逆に兄さんを立てている。


 「そうか。ありがとう」


 誇が安堵の表情を見せる。


 「昴くん、本当にすごかったですよ」


 依里が言う。


 「初任務で一人で魔物を倒すなんて、普通じゃできませんから」


 「依里ちゃんの能力も完璧でした」


 昴が笑顔で答える。


 「あの広範囲の憂鬱能力、すごいですね」


 「ありがとうございます」


 依里が頬を赤らめる。


 「乙葉ちゃんも、おやつまで作ってくれて。みんな優しいなぁ」


 昴が嬉しそうに言う。


 「昴くんが頑張ったからだよ」


 乙葉が微笑む。


 4人でクッキーを食べながら、今日の任務について話す。


 「昴くん、怪我は大丈夫ですか?」


 依里が気になって聞く。


 「はい、もう全然痛くないです」


 昴が頬を触る。


 「でも、無理しちゃダメ」


 乙葉が心配そうに言う。


 「ありがとう、大丈夫」


 昴が安心させるように答える。


 その時、誇が時計を見る。


 「もう遅いな。そろそろ休むか」


 「そうですね」


 依里が立ち上がる。


 「昴くん、今日はお疲れさまでした」


 「こちらこそ、ありがとうございました」


 昴が深くお辞儀する。


 「今度また一緒に任務できるといいね」


 乙葉が嬉しそうに言う。


 「うん、その時はよろしくね!」


 3人は昴の部屋を出た。


 「乙葉ちゃん、おやつありがとうございました」


 依里が言う。


 「いえいえ。また作りますね」


 乙葉が手を振って自分の部屋に向かう。


 廊下に依里と誇が残される。


 「兄さん」


 「ん?」


 「今日は本当にお疲れさまでした」


 「ああ、ありがとう。依里も」


 誇が優しく微笑む。


 その笑顔を見ると、依里の心は騒ぎ出す。


 兄さん、大好き。この気持ちを言葉に出せたら、そう思う。

 言葉にしてもなんら問題ない。家族なのだから。でも家族に向けた言葉と思われることが、たまらなく悔しい 。


 「では、おやすみなさい」


 「おやすみ、依里」


 誇が依里の部屋の前で止まる。


 「今日は頼りになったよ。ありがとう」


 そう言って、誇は依里の頭をポンポンと撫でる。


 依里の心臓が激しく鐘打つ。


 「に、兄さん……」


 「ん?」


 「あの……」


 依里は何かを言いかけて、やめた。


 「何でもありません。おやすみなさい」


 「おやすみ」


 誇が自分の部屋に入っていく。


 依里は自分の部屋のドアに手をかけて、振り返る。

 兄さんの部屋のドアが閉まる音が聞こえた。

 部屋に入って、依里はベッドに座る。

 兄さんが頭を撫でてくれた感触が、まだ残っている。

 温かくて、優しくて。

 

 でも、それは兄が妹を可愛がる時の撫で方。


 恋人同士の触れ合いとは違う。


 依里は胸を押さえた。苦しい。

 兄さんは私のことを、妹としか見ていない。

 当たり前のことだけれど、それがこんなに苦しいなんて。

 今日も、兄さんと一緒に任務ができて嬉しかった。

 兄さんの隣で、兄さんの役に立てて。


 でも同時に、胸が苦しかった。


 こんな気持ちを抱えたまま、兄さんの傍にいていいのだろうか。そう考えていた。


 依里は思う。

 昴くんと乙葉ちゃんを見ていると、普通の関係が羨ましくなる。

 あの二人は、きっと恋愛関係になれる。

 お互いを普通に好きになって、普通に付き合って、普通に結婚することもできる。

 でも、私と兄さんには、それが許されない。

 いつか、兄さんにふさわしい人が現れるかもしれない。

 美しくて、賢くて、兄さんと並んで歩けるような、素晴らしい女性が。

 その時、私はどうすればいいのだろう。


 依里は枕を抱きしめた。


 兄さんの匂いがした気がした。。洗剤の匂いと、少しだけ汗の匂い。


 隣の部屋から、かすかに物音が聞こえる。

 兄さんが着替えているのかもしれない。


 お疲れさま、兄さん。

 今日も一日、ありがとう。

 私を守ってくれて、ありがとう。

 でも、兄さんは気づいていない。

 私を守ろうとしてくれる兄さん自身が、私を一番苦しめているということに。

 兄さんが優しければ優しいほど、私の気持ちは深くなる。

 兄さんがかっこよければかっこよいほど、私は他の人を愛せなくなる。


 依里は窓の外を見た。


 夜が深くなっている。


 どうして私たちは兄妹に生まれたのだろう。

 もし赤の他人だったら、私は兄さんに想いを伝えることができたかもしれない。

 振られるかもしれないけれど、少なくとも想いを伝える権利はあった。

 でも、兄妹では無理。

 社会が許さない。常識が許さない。

 そして、きっと兄さん自身も許さない。


 依里は制服を脱いで、パジャマに着替える。


 鏡に映った自分を見る。

 兄さんに似ている部分もある。目の形とか、鼻筋とか。

 でも、兄さんの方がずっと整っている。

 私なんて、兄さんの劣化版みたいなもの。

 ベッドに入って、依里は天井を見上げた。

 明日もまた、兄さんと普通の兄妹として過ごすのだろう。

 よそよそしく、でも自然に。

 この想いを隠しながら。

 それが私の運命。

 愛しているからこそ、苦しい。

 でも、愛しているからこそ、生きていける。

 兄さん、おやすみなさい。

 隣の部屋にいるあなたに、この想いが届きますように。

 でも、届かないでください。

 届いてしまったら、きっと兄さんは困ってしまう。

 だから、私の気持ちは、私だけの秘密。


 依里は静かに目を閉じた。


 今日も、兄さんの夢を見るのだろう。

 でも、朝になれば現実に戻る。

 兄さんは私の兄で、私は兄さんの妹。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 でも、それでもいい。

 兄さんの傍にいられるだけで、幸せだから。

 たとえ恋人にはなれなくても、一生兄さんの妹でいられる。

 それが私の生きる道。


 依里は静かに涙を流した。

 毎晩のことだった。兄さんのことを考えると、いつも涙が出る。

 嬉しくて、苦しくて、愛しくて、切ない。

 これが憂鬱の正体。

 叶わない恋に苦しむ、妹の心。

 でも明日もまた、兄さんの妹として頑張ろう。

 兄さんに迷惑をかけないように。

 兄さんに気づかれないように。

 この想いを胸の奥に秘めて。

 それが、高城依里の生き方だった。



ヤンデレ妹ちゃん

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ