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こんなアーンは嫌だ

 医務室で手当てを受けた翌日、俺の火傷はかなり良くなっていた。と言うのも昨日の晩1人で欲望解放(デザイアリリース)を試してみたからだ。強化された虚飾の能力で治したから、もう痛みもほとんどない。

 (まぁ、出来ないで通してるから、包帯で誤魔化しとこ)


 《だな、急に治っても不自然すぎる》

 

 それとは別の問題で、変身後の姿が完全に女性的って所だ。いやめっちゃ似合ってて綺麗でカッコよくて最高に俺って感じなんだが、女ってバレちゃうよなぁ


 《完全にな。自分で自分に恋しそうだったろお前》


 (それな。俺って知ってなきゃぞっこんだったわ)


 改めて、姿を思い出す。

 

 鏡に写った俺は、雌狸の仮面を着けていた。顔の上部を覆って口元だけ出てるタイプで、上品で神秘的な仮面。そして体には、タキシード風のドレス。

 

 男性用のタキシードをベースにしているけれど、明らかに女性の体のラインに合わせて作られている。下半身はスーツではなくタイトでスリットが入ったロングスカートだ。

 

 靴もいつの間にかヒールになっていた。

 青を基調として、差し色としてポン吉のスカーフと同じ赤が入ったドレスだった。


 《そういやオレ仮面になってたな》

 

 (俺が変身すると同時に、ポン吉が仮面になってマジウケしたな。にしても変身しても完璧な見た目って、俺ってやっぱり神に愛された存在だよな)


 《いってろ》


 時計を見て、慌てて支度を始める。


 (急がないと、そろそろ乙葉ちゃんが食堂に行く時間だ)


 《把握してんのマジきめぇ》


 (ちよ、ちが、お前も知ってるだろ!? この時間にいつも朝食食べてるから予定が合う日は一緒に食べようって言ってたの)


 《知ってたが、早口で言い訳する所根暗処女っぽくてきめえ》


 (あー、お前全国の控えめ系処女敵に回したぞ)


 《別に、お前がいればそれでいいし》


 (お、おう)

 

 くだらないやり取りをしながら食堂に行くと、乙葉ちゃんが先に待っていた。


 (朝から可愛いマイワイフ)


 《付き合ってすらいないが?》


 朝食の時間、食堂で乙葉ちゃんと一緒にテーブルに座る。今日も可愛い。ふわふわのセーターが似合ってる。


 「おはよう、乙葉ちゃん」


 「おはよう! 腕の調子はどう?」


 乙葉ちゃんが心配そうに俺の手を見る。包帯を巻いてるから、まだ痛そうに見えるはず。


 「まだだいぶ痛いけど、もう大丈夫。乙葉ちゃんが心配してくれるなら、どんな怪我でも治るよ」


 (完璧なイケメンセリフ決まったー)


 《恥ずかしくないのかそれ》


 乙葉ちゃんが顔を赤くする。


 「も、もう……昴くんってば」


 (きゃー可愛い! 顔赤くしてる! これ確実に俺のこと好きじゃん)


 《ほんとに脈アリな気がしてきて恐怖してる》

 

 「でも本当に、無理しちゃダメだよ? まだ痛むでしょ?」


 乙葉ちゃんが俺の手に触れた瞬間、わざと顔を顰める。


 「ごめんね、そんな痛いと思わなくて。そこまでだとスプーン持つのすら辛いよね……」


 (うおおおお、罪悪感ぱないけど、これはあーんフラグだ!)


 《欲望の為には、好きな人が苦しんでもいいとかお前もう色欲の半魔になれよ》


 その時、後ろから声がかかった。


 「昴、飯食いづらいだろ。俺が手伝ってやるよ」


 烈志だった。トレイを持って、俺たちのテーブルに近づいてくる。


 (は? 何で男が男に飯食わせてくれようとしてんの? 気色悪)


 《お前が怪我したのは烈志のせいだから、責任感じてるんだろ》


 「あ、でしたら私が……」


 乙葉ちゃんが手を上げる。


 (そうだよ! 乙葉ちゃんに食べさせてもらいたいんだよ! 昴くんあーんって!)


 《諦めろ、この流れは止められない》


 「いや、俺のせいで怪我したし、俺がやるよ」


 烈志がそう言って、俺の隣に座る。近い、やだ近い。朝シャンしていい匂いなのが余計にキモイ。


 (うわ、やだ。セクハラ野郎に食べさせてもらうとか絶対嫌だ)


 《油ぎった豚にもらうよりマシだろ》


 (比較対象が人間じゃないんですが!? あ、コイツも確かに人間じゃないや! 半魔だから!)


 「ほら、何食いたい? ハンバーグか?」


 烈志がフォークを持って、俺のハンバーグを切り始める。返事聞く前からもう決定事項なのどうして……どうして……


 (マジで気持ち悪い。男に食べさせてもらうとか、人生最大の屈辱だわ)


 《明日は乙葉に貰えるといいな……無理だろうけど》


 「あーん」


 烈志がフォークを俺の口元に持ってくる。


 (死にてぇ)


 《親でもない男に、アーンしてもらって今どんな気分? ねぇどんな気分?》


 仕方なく口を開けて、ハンバーグを食べる。


 「どうだ? 美味いか?」


 全く美味しくない。目の前に乙葉ちゃんがいるのに楽しくない、美味しくない。こんな朝飯嫌だ。

 

 「……美味しいです」


 俺は作り笑いを浮かべて答える。内心では烈志を殺したくなってる。


 乙葉ちゃんが微笑ましそうに見ている。


 「烈志さん、優しいですね」


 (これは優しさじゃなく、自分の罪悪感を埋める為の自己満足行為だ! 俺の意思が伴ってない!)


 《コイツのは、罪悪感もあるがほぼ100%善意だろうな》


 結局、朝食は烈志に食べさせてもらった。地獄の時間だった。乙葉ちゃんがいなければ死んでいただろう。


 「じゃあ、今日も訓練だ。昴の能力をもっと詳しく調べてみよう」


 烈志が立ち上がる。


 「はい」


 俺も立ち上がる。早くこの時間が終わってほしい。


 (燃え尽きたぜぇ……真っ白にな)


 《お前は、ピンピンしてるけどな》

 

 地下の訓練場で、烈志が説明を始める。


 「昨日までで、お前がバリアと槍を使えることはわかってる。今日は、他に何ができるか調べてみよう」


 (ぶっちゃけー、調べるまでもーないかんじー?)


 《唐突なギャルに、ポン吉氏もびっくり》

 

 「はい」


 「まず、バリアはどこまで覆えるんだ? 自分だけか? 他人も守れるか?」


 (そんなーいちどにーいわれてもぉ、自分の事だから何ができるかとかなんとなくわかるし改めて確認する意味ってわからないよね。まさに時間の無駄って感じ)


 《ギャル風飽きるの早すぎぃ。お前知ってても周りが知らんかったら連携取れんだろがい》


 俺は手を伸ばして、バリアを展開する。最初は自分の周りだけ。次に、乙葉ちゃんにも半楕円状のバリアを貼る。

 

 「おお、他人も守れるのか」


 烈志が感心する。何に関心してるのか理解できない。


 (槍飛ばせんだから、バリアも遠隔で発動できんだろ)


 《大袈裟に褒めてくれてんだよ。察しろ》


 「範囲はどこまで広げられる? 個別に操れたりするのか?」


 俺は集中して、俺を覆っているバリアを広げてみる。訓練場の半分くらいまで覆えた。乙葉ちゃんのバリアはそのままだ。


 (槍で個別に色々調整出来てんだから、確認いらんだろ……)


 《まあ、出来ない可能性ゼロじゃないからさ。付き合ってやろうぜ》


 「すげぇな。これだけ広範囲に展開できれば、味方を守るのにも使えるし、逆に敵を包囲することにも使えそうだ」


 烈志が褒めてくる。


 (褒められても嬉しくない)


 《乙葉ちゃんも拍手してるぞ》


 ポン吉の言葉に俄然やる気が出てくる。

 次に、攻撃と防御を同時にできるかテストした。バリアを張りながら槍を生み出す。

 

 「おっ、同時にできるじゃねえか」


 (てかさ、俺って強キャラすぎん?)


 《調子乗るなよ》


 「槍以外には何を作れるんだ?」


 俺は色々試してみる。剣、弓、ハンマー。昨日作った椅子やテーブルも再現する。


 《まぁ変身なしで、最終体型の味方と張り合えるのは強いのか》


 (だろぉ?)

 

 「何でも作れるのか?」


 「えーっと……イメージできるものなら」


 俺は試しに、車を作ってみる。軽自動車くらいの大きさの車が現れる。


 《でもよぉ、漫画とかだとあんまり強すぎると、作者使い勝手悪くてラスボスに殺させたりしそうじゃね?》


 (唐突な死亡フラグ!?)

 

 「車まで!?」


 烈志が驚愕する。

 でも、車はすぐに消えてしまった。維持するのにかなり集中力を使うみたいで、疲れてしまう。


 「あ、消えちゃいました」


 「どれくらい維持できるんだ?」


 「簡単なものなら結構長く。複雑なものや大きなものは、頑張ればいけますが……後で倒れると思います」


 実際、槍やバリアは意識してれば結構な時間維持できる。でも、車みたいな複雑なものは数秒で疲れ切ってしまう。


 (所詮まがいものだし。本物じゃないし)


 《ま、そう言うもんだって認識しとけばいいだろ》


 「攻撃や防御以外には何ができる?」


 烈志がさらに質問してくる。


 (傷治せるとか言ったら面倒な事になりそうだなぁ。乙葉ちゃんが怪我したなら隅々まで治療するんだけどなぁ)


 《回復要員として、現場に出なくてよくなるぞ?》


 「人のコピーとか……」


 (戦いたくないとかそう言うのないし、俺が目立てないじゃん)


 そう言って、烈志のコピーを作ってみる。でも、欲望解放(デザイアリリース)はしてない普通の烈志。

 

 《だな、今は黙っといたらいいんじゃね?》

 

 「うわ、また俺か」


 本物の烈志が苦笑いする。烈志の動きとおんなじ動きをさせる。

 それを見た烈志が面白がって、色々動いて遊んでいた。


 (ちょっとまてよ……閃いちゃった)


 《何考えてるかわかるが、それは人としてやっちゃいけない》


 (乙葉ちゃんをコピーすればいつでもなんでもできるのでは!?)


 《よく見ろ昴。服の下は再現できないっぽいぞ。烈志の下半身コピーの方はもっこりがない》


 (よく見なくてもいいよ。ちぇーあんなことやこんな事できると思ったのに……キスはできるよね!?)

 

 一通り遊んで、烈志が満足そうに頷く。


 「お前の能力はもう任務に出ても良さそうだ。局長にも話通しとくからな」


 (任務フラグきたー)


 《目立つチャンスだな、せいぜい頑張れ》


 訓練が終わって、昼食の時間。またセクハラ野郎に食べさせてもらうのかと思うと憂鬱だったけど、今度は乙葉ちゃんが先回りしてくれた。


 「昴くん、お昼ご飯食べさせてあげる!」


 (はああああ!? 大天使乙葉ちゃん!?)


 《黙って食えよ》


 「ありがとう、乙葉ちゃん」


 乙葉ちゃんがスプーンでカレーをすくって、俺の口元に持ってくる。


 「あーん」


 (そうそう、これこれ! これが欲しかったの!)


  《別にオレだってやろうと思えばできるし》


  俺は嬉しそうに口を開ける。カレーの旨さが100倍になったかのように感じる。乙葉ちゃんの優しさと俺の咀嚼を見つめるその瞳……ちょっと興奮してきた。


 「美味しい?」


 「めちゃくちゃ美味しい。乙葉ちゃんが食べさせてくれるから」


 (エロと食事って結構密接な関係にあると思うんだけどどうだろう?)


 《まぁ口淫とかあるし、キスだってあるし、そりゃそうなんじゃね?》


 (おま、口淫とかえっちすぎんだろ!?)


 《あんだけ言ってて初心かよ》

 

 乙葉ちゃんが恥ずかしそうに笑う。


 (やっぱり乙葉ちゃんは最高だぜ)


 《良かったな》


 食事中、乙葉ちゃんとの会話を楽しむ。


 「そうだ、乙葉ちゃん。今度の休みに、街に出かけない?」


 俺は思い切って誘ってみる。断られたら死ねる自信ある。


 「えっ? 私と?」


 乙葉ちゃんが驚く。


 (え? そこでなんで驚くの?)


 《え、キモ。なんで昴なんかが私誘うわけ?》


 (やめろー)


 「うん。前に話してたケーキ屋さんに行ってみたいし」


 (大丈夫、大丈夫、大丈夫)


 《哀れだ、自分を鼓舞しなければ自我を保てなくなっている……》

 

 「あ……でも、昴くんの腕がまだ……」


 《おっとー、体良く断る為の文句かー?》

 

 「大丈夫。だって乙葉ちゃんが食べさせてくれるんでしょ?」


 俺は包帯越しに手を動かして見せる。そう実はこの手痛くない。治ってないて事にしたら裏目に出ちゃったよ。


 「全く、昴くんったら。分かった。じゃあ、今度の日曜日に」


 「本当?」


 「うん。楽しそう」


 乙葉ちゃんが笑顔で答える。


 (やったー! 乙葉ちゃんとデート確定!)


 《おめでとさん》


 午後は座学だった。半魔の歴史や、魔物の種類について学ぶ。


 講師は根倉局長。相変わらずだらしない格好で、あくびをしながら説明してる。


 「えー、魔物化の兆候についてだけど……」


 局長が黒板に図を描く。


 「人間の感情が暴走すると、その人の周辺に特殊な波動が発生する。この波動を感知できるのが、強欲の半魔である狩野貪さんだ」


 俺は糸目の狩野さんを見る。相変わらず表情が読めない。


 (この人、絶対裏切るよな。糸目を抜きにしてもそんな顔してるもん)


 《どんな顔だよ。結構重要ポジションなのに裏切ったら致命的だぞ?》


 「狩野が魔物化の兆候を察知したら、すぐに現場に向かってもらう。チーム編成は持ち回りで、次回は高城兄妹。次に出ることがあったら昴くんも一緒に現場に出てもらうからね」


 局長が俺たちの方を見る。


 誇が不満そうな顔をしてる。俺と組むのが嫌なんだろう。


 (手加減してたんだよな……嫌味なやつ)


 《お前も大概ヤベェ奴だぞ》


 依里ちゃんは相変わらず大人しく座ってる。誇のことばかり見てて、俺のことは全然見てない。


 (なぜこんなに可愛い妹の兄がこんな奴なんだ)


 《遺伝子ってのは、残酷なもんだぜ》

 

 夕方、また訓練。今度は誇と依里ちゃんも一緒だった。


 「新人、お前と組むことになったな」


 誇が偉そうに言ってくる。初対面の時より高圧的だ。


 「よろしくお願いします」


 俺は表面上は礼儀正しく答える。


 (誇そこ変われ)


 《ん? どう言う……》


 「に、兄さん……」


 依里ちゃんが誇の腕に引っ付いていた。可愛い。ダウナー系女子もアリだよね!


 「昴さんとも、仲良くしなきゃダメ」


 (依里ちゃん、良い子! ブラコンだけど、常識はあるみたい)


 《常……識? むしろ昴と距離を取る誇が正しいのでは?》

 

 誇が渋々頷く。


 「分かってる」


 チーム戦の練習をした。誇が前衛、俺が中衛、依里ちゃんが後衛で、立ち回りの練習なんかをした。


 依里ちゃんの能力も見れた。憂鬱の半魔だから、相手を落ち込ませたり、やる気を削ぐ能力らしい。


 (憂鬱……母さんと一緒だな)


 《まぁ過ぎたことはしょうがないさ》


 (だな)

 

 「すみません……私、足手まといになっちゃうかも……」


 依里ちゃんが申し訳なさそうに言う。


 「そんなことないよ。依里ちゃんの能力は、相手の戦意を削ぐのに役立つし。あと、同い年だし敬語は無しね」


 俺は優しく答える。


 (実際、補助能力として有用だよな)


 《オレたちなんか、乙葉たちが来なかったらあそこで死んでたしなぁ》


 依里ちゃんが少し嬉しそうに微笑む。


 「ありがとう、昴」


 (依里ちゃん可愛い。誇と違って素直で良い子だ)


 《節操ねぇなぁ》


 訓練後、夕食の時間。今日は自分で食べられるくらいに回復してた。が、出来ないふりをする。

 乙葉ちゃんと一緒にテーブルに座る。


 「乙葉ちゃんごめんね。今度こそお願いしていい?」


 包帯に巻かれた手をヒラヒラさせて、乙葉ちゃんにせがむ。乙葉ちゃんも「昴くんったら」といいながら食べさせてくれる。


 (もう一生手治らなければいいのに)


 《治ってるだろ》


 「日曜日のデート、楽しみにしてる」


 「デ、デート……」


 乙葉ちゃんが顔を赤くする。


 「そんな風に言われると、恥ずかしい……」


 (可愛すぎるだろ。今の表情脳内アルバムに録画しました)


 その時、館内放送が流れた。


 「緊急事態発生。魔物化の兆候を察知しました。高城兄妹、鏡昴は、至急集合してください」


 俺たちは顔を見合わせる。

 

 「昴くん、気をつけて。初めての任務が夜だなんて……」


 乙葉ちゃんが心配そうに俺を見る。


 (乙葉ちゃんのその気持ちでむてきになれるよ!)

 

 「大丈夫。誇さんや依里ちゃんもいるしね」


 俺は乙葉ちゃんに微笑みかける。そして余裕そうに手をヒラヒラさせながら、食堂を後にする。


 (魔物かぁ……元は母さんみたいに人間なんだよなぁ)


 《なっちまったら戻らないんだ。早く楽にしてやるのが情けってもんだろ》


初変身回!

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