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アイリーの魔法具店  作者: ガミ、ガミ男
第1章【レイヴンウッド裏通り魔法具専門店編】
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第六話【爆竜の魔術師】

 小一時間ほど昼休憩を挟んで、授業を再開する。ちなみに今日の昼はミネストローネ。爽やかなトマトの酸味が、前日の酒で荒れた胃にじんわり染みる。


「それじゃあ、魔法の等級について、だったね。よし、始めようか」


 黒板の前に立ち、私はチョークを走らせる。


「魔術師は、魔術師協会が実施する試験に合格することで、等級に応じた権限を得られるの。たとえば、協会からの依頼を受けたり、禁止区域や特別施設への入館許可、制限付きの研究、禁書や危険物の取り扱いなどが可能になる」


 もちろん、魔術師の等級だけで何でもできるわけじゃない。他の資格や信頼が必要なことも多い。でも、国内外での身分や権威を示す肩書きとして、魔術師の等級は非常に強い。


「等級は下から、初級・中級・上級。ここまでは普通に勉強していれば誰でもなれるわ。そしてその上に、星級と冥級。ここからは通り名が与えられるようになって、ある程度の権威も伴う。身分証明としても使えるのよ。そして、最高位が“竜級”。この位だけ、“竜”の名を冠することが許されるの。たとえば、火属性を竜級まで極めた魔術師なら、“火竜の魔術師”と呼ばれるわ」


 「ふむふむ」とエマはノートにペンを走らせる。


「剣士も同じで、初級から冥級まであって、最高位が“龍級”。剣士の場合は“剣龍”と呼ばれる」


「ケンリン?」


「そう。剣士は流派ごとに技を習得して、一つ上の等級の剣士を倒すことで昇格するの」


「じゃあ、あたしにはあまり関係ないですね」


 エマはノートを閉じかける。


「そんなことはない。オマエにも法術は覚えてもらう」


「あたし、魔術師になりたいんですけど……」


「あまい!」


「へっ!?」


 エマはびくりと肩を跳ねさせる。


「いいかい。魔術師が高確率で死ぬ原因は三つある」


 私は三本指を立てる。


「一つ、魔力の暴走事故。二つ、魔法や魔術の実験事故。そして三つ、法術を軽視して近接戦で嬲り殺されること」


 魔術師の弱点は、距離を詰められること。未熟な魔術師は接近戦に持ち込まれて、詠唱もできずに斬られる。焦って詠唱を噛んだり、不完全な魔法で不発になったりする。


 「熟練の魔術師は、無詠唱で応戦したり、そもそも接近戦に持ち込ませない戦い方をする。でも、なにより大事なのは——」


 私は静かに息を整えてから、言葉を続ける。


「魔法を過信しすぎないことよ。上位の魔術師は、法術も高いレベルで扱えるし、近接戦の心得もある。近接を怠る魔術師は、総じて皆、早死にする」


「お師匠さまもそうなんですか?」


「うん。接近戦に持ち込まれないように戦えるし、剣術もいろんな流派から取り入れてるから、特定の流派はないけど、上級クラスよ」


「すごい……。でも法術って、どんな感じなんですか?」


 エマはキョトンとして首を傾げる。


「これは鍛錬して身につけるものだから、言葉で説明しずらいな……簡単に言えば、外に放出する魔法とは逆で、魔力を内側に循環させて身体を強化する技術。実際に見せた方が早いね」


 私は目の前に丸太を生成する。


「ちょっと待ってね」


 戸棚に剣が……あった。よし、状態も大丈夫。


「これが法術。ちゃんとみててね」


 体内の魔力を血流のように巡らせ、全身へと行き渡らせる。骨の奥まで染み渡った魔力が熱を帯び、空気がわずかに震えた。


「でりゃっ」


 剣を横なぎに振る。空気を切る音のあと、丸太は静かに二つに割れた。


「お見事っ!!」


 ぱちぱちと拍手をするエマ。


「ふっ……また、つまらぬものを斬ってしまった」


「案外、簡単そうですね」


 ケロッとした顔でエマが言う。こいつ……まだ一度もやったことないくせに、よくそんなことが言えるな。オマエ、まだ何もできないだろ。

 杖で頭をこずくように剣を構える。


「ちょっ、お師匠さま! ストップストップ!それ杖じゃないから! 剣ですってば!?」


 「杖で殴るのも使い方間違ってますけど」と、エマは手をブンブン振りながら後ずさる。ああ、今持ってるのは剣か。


「危ない危ない。また、つまらぬものを斬るところだったよ」


「どういう意味ですか!」


 エマが抗議するように声を上げる。


「今のが法術。ちなみに、さっきの闇魔法の足止めも、法術なら無理やり脱出できる」


 しかし、法術は……どう教えたものか。せっかくなら、ちゃんと教えたいんだが。

 ふと、一人の女の顔が浮かぶ。いや、一匹の野良猫と言った方が正しいか。


「法術は、ケイシーに教えてもらいなさい。あの子、星級だから」


「星級!? ケイシーさん、すごいです!!」


 エマが尊敬の眼差しを浮かべる。……なんだろう。私より慕われてるような気がするのは、気のせいだろうか。


「一流の魔術師になりたいなら、法術も鍛えないとね。通り名がつく魔術師は、みんな法術も魔法も満遍なく鍛えてるから」


「通り名……あたしもほしいです!」


 キラキラと目を輝かせ、エマは声を弾ませる。


「でしょ? だから、来月の試験で初級をもぎ取ってきて」


「えっ、来月!?」


 エマがイスから跳ね上がる。


「うん。初級なら、少し勉強すれば受かるから大丈夫」


「じゃあ、これから魔法を教えてくれるんですか!」


 バンッと音を立てて、エマが机に手をつく。こんな狭い部屋で魔法を使わせたら、部屋が吹き飛ぶよ。


「魔法は来週ね。ちょっと準備があるから」


 エマは残念そうに肩を落とす。


「どういう修行をやるんですか?」


「オマエには、魔力に振り回されんように、魔力のコントロールを重点的にやってもらう。目標は、こんな感じ」


 一本の指を立て、そこから各属性の魔法を順番に放出してみせた。


「お師匠さま、ほんとに器用ですよね。全属性扱えるんですか?」


「一応ね。苦手属性もあるけど、基本属性と光・闇・聖属性は、最低でも星級まで使えるよ」


「……は?」


 エマは口をあんぐりと開けたまま、固まっている。


「得意属性は火と風。最も得意なのは特殊属性の“爆破属性”。等級は竜よ」


「竜!?」


 今度は目を見開きながら、エマが叫んだ。


「全属性が星級以上で、得意属性が竜級!? お師匠さま、本当に人間ですか……?」


「人間だよ……。私の話はいいの。とりあえず、来月には初級を取ってもらって、来年までには、上級までいけるように鍛えていくから、がんばってね」


「一年で上級……。で、できますかね……?」


 エマは不安げに言う。魔力さえコントロールできれば、あの魔力量なら難しくない。筆記は死ぬ気で勉強すれば何とかなるし、最悪の場合は数日眠らずに済む、気合いの入る魔法薬を調合すればいい。


「いけるいける。二年後の年末には、星級になってもらうつもりだし」


「いやいやいや、それはさすがに……。というか、なんで“二年後の年末”なんですか?」


「だって、年の最後の日は百年に一度の“双竜祭”でしょ? せっかくなら、そこでお披露目したいじゃない」


「どうして、わざわざその日にやるんですか……」


「それはね、二年後までの秘密」

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