第二話【面接】
「では、適当ににかけて」
「失礼します!」
ぺこりとお辞儀をして彼女は椅子に座る。
彼女の正面に私。そして、なぜか横にケイシーも座ってる。
「じゃあ、自己紹介おねがい」
「はい! エマ・オルベックです」
「ここで働きたい理由は?」
「チラシに載っていたからです!」
さも当たり前ですみたいにエマは言う。
「理由になってねぇじゃねぇか……」
呆れた顔でツッコミを入れるケイシー。
まあ理由なんてどうでもいいんだ。意欲があるかどうかが重要だから
「何か資格はあるかい?」
「ないです!」
「ないのかい!」
またもやツッコミを入れるケイシー。なんか楽しくなってないか、こいつ。
「魔法は何級なんだい?」
「初級ですらないです! 去年、アウルム学園を退学になりました」
……うん。自信満々に言えることはいいことだ。それがたとえマイナスなことだとしても素直なのはいいことだ。たぶん。
「じゃあ、魔法に関われる仕事だからここで働きたいってことかな?」
「はい! 昔から魔法が好きだったんですけれど、退学になって。それでも魔法に関わりたくて!」
「親御さんはそのことは?」
「あ〜、実は内緒にしてまして〜」
頭をかきながら、バツの悪そうな顔で言う。
「入学も反対されて、無理を言って入れてもらったので、申し訳ない気持ちがあって……。だから、日々バイトをしながら入学金を返済して、勉強も続けて、自分のツケは自分で払おうと思ってるんです」
「偉い! 偉いぞ〜」
オヨヨヨと涙を拭くふりをするケイシー。
確かに、親に言いづらい件ではある。その中で迷惑をかけずに自立している彼女は偉い。すごく偉い。そして、すごくかわいい。
「接客はできるかい?」
「はい! 酒場でアルバイトしてました! 」
「魔法は好きかい?」
「はい! 大好きです」
「学ぶ意欲はあるかい?」
「はい! 頑張って勉強してます!」
「わたしはかわいい?」
「はい! とてもかわいいです!」
「採用っ!」
「やったー!」
エマは椅子から立ち上がり、ピョンピョンと喜びの舞を踊る。
「まじかよ! そんなんでいいのかよ!」
学ぶ意欲はさえあればいいよ。あとかわいいし。
「かわいいのが8割占めてるだろ」
呆れた顔でケイシーは腰に手をやる。否定はしない。かわいいは正義だから。
「いつから来れる?」
「いつからでも行けます」
「じゃあ今日からよろしくね」
「はい! ……え? 今日からですか?」
「だめならいいけど」
「だめじゃないです! 今から働かせて下さい」
「おーけーおーけ。とりあえず、少し質問があるんだけど」
先ほどまで笑顔だったエマが真剣な表情に変わり、かしこまる。
「はい、なんでしょうか」
「なんで退学になったの? 言いたくなかったら言わなくてもいいけど」
魔法が使えなくても、そう簡単に退学にはならないはずだ。あそこでは実戦的な魔法以外の分野も学べるし、普通に授業を受けていれば、たとえ才能がなくても卒業する頃には最低限、中級を名乗れる程度には育ててくれるはずの教育機関だ。
「実はですねー」
恥ずかしそうに俯きながら、エマは言う。
「魔法がひとつも使えなくてですね……」
「はぁ? じゃあアンタどうやって入学したんだよ」
「魔力はあるんですが、魔法を使うとなるとできなくて……」
後半につれて声が小さくなっていくエマ。とりあえず実践あるのみだ。こういうタイプは最初の失敗を引きずって、魔法を行使できないことが多い。自分に自信がないやつが魔法を使えるわけがない。魔法はイメージの世界だ。
「よし! じゃあとりあえず魔法を使って見せてくれ」
「あのっ、初級魔法ですら使えないんですよ」
「そこまでやらなくていいよ。指先に小さな火を灯してみなさい」
「わかりました!」
ぐぬぐぬ言って指先を力むエマ。
「力を入れても魔法はでないよ。イメージするんだ。体内に流れる魔力を指先に流して、そこから小さな火が灯ることをイメージするんだ」
「火が灯るイメージ……! これだ!」
エマの指先に魔力が渦巻いていく。
まずい! 魔力が暴走してる。このままじゃ火が灯るどころか、火が吹き荒れて大惨事になる。
「火が噴きだしそうですぅ〜!」
エマの指先の周囲に大きな球体の水を作り出す。
障壁魔法でもよかったが、発動の速さではこちらが勝る。
「火が溢れそうですぅ〜!」
水の膜が、内側から突き破られそうになっている。火というより、もはや暴れ狂う炎だ。
もっと厚みと強度を上げないとまずいな。しかし、なんて魔力だ。放出量なら私と同じ……いや、私以上か?
そりゃ魔法なんて使えるはずがない。こんな荒々しくて、化け物じみた魔力を制御して魔法を行使できるわけがない。
できるとしたら、そいつは魔人クラスだ。
「店長さーん! おさまりました〜」
エマの放出した火がおさまったらしい。
とんだじゃじゃ馬だ。
あんなバカみたいに魔力を消費したくせにピンピンしてる。魔力量も桁違いにあるのだろう。
かわいいアルバイトを拾ったと思ったら、最高級の光る原石だった。これは磨けばとんでもないことになるぞ。もしかしたら新しい魔人候補にもなりうる。
いい拾い物をした。
「よし、オマエ。今日から私の弟子になりなさい」
「はい!? どういうことですか店長!」
ギョッとエマは目を見開く。
「店長じゃない、師匠と呼びなさい。これからオマエは私の従業員であり、私の魔法の弟子である。わかったか?」
「じゃあ働きながら、魔法を教えてくれるということですか?」
「そうだ」
エマはぷるぷると体を揺らし、勢いよく顔をあげる。そこには満面の笑顔が貼り付いていた。
「よろしくお願いします! お師匠さま!!」
「う、うん。よろしくね」
眩しいほどの笑顔と元気な声に、少し気圧される。あまり魔術師にこんな元気な子はいないので、耐性がない。魔術師はどっちかというと、どんよりしたやつか、傲慢で口うるさいやつの方が多い。
「一石二鳥ということか?」
それまで部屋の端で避難していたケイシーが、戸惑いながら言葉を発した。
私にとっても一石二鳥だ。ぞれじゃあ、最初のレッスンといこう。
「それじゃあ、まずは実践レッスンだ」




