第十話【試験当日】
今日はいよいよエマの魔術初級試験だ。
約一ヶ月みっちりと実技に筆記とみっちり仕込んだので落ちることはまずない。というよりも、初級はだいたい受かるようにできているので、万が一のことさえなければ大丈夫だろう。
エマの場合は魔力操作がド下手、であったが、得意属性検査のときの例の事件(エマの樹海騒動)以降は、みるみるうちに上達していってるので心配は無さそうだ。
「そろそろ出発の時間かな?」
そう言ってエマの方を向くと、そこにはぶつぶつと何やら呟いている女の子、エマ・オルベックはアホ毛を揺らしながら荷物を整理していた。
「初級魔法の構築には、主に――」
「もうすぐ、出発の時間だよ」
と、エマの頭にチョップをする。復習するのはいいが、変に空回なければいいのだけど。
「いてっ」
「忘れ物はないかい?」
「はい! 筆記用具にハンカチに御守りに」
ゴソゴソとバッグの中を今一度確認をするエマ。
「はい、これお弁当。お昼挟むからちゃんと食べるんだよ」
「ありがとうございます! もしかしてお師匠さまの手作りですか?」
ニッコリと笑顔のエマはお弁当を抱えながら聞く。
「簡単なものだけどね。ほら、行ってきな」
「エマ! 試験会場まで気をつけるんだぞ! 変なやつに声かけられたら、私かコイツの名前を出すんだぞ! あと、焦らずに落ち着いてやれ。それと、ご飯はちゃんとよく噛んで――」
「オマエはオカンか」
オロオロと余計に心配をしている女。スラリとしたスタイルで、三白眼が特徴的のケイシー・ルーアンは、わなわなと我が子を送る母のように見送りをする。
「エマ。ちょっと待ってね」
そう言ってクロークから黒いローブを取り出す。
光を通さないほどの黒い繊維に、金色の糸で紋章が装飾されたローブ。
それをエマに渡すと、彼女はローブを羽織り、扉に手をかける。
「それじゃあ行ってきます!」
エマはバッグを肩にかけて玄関の扉を開く。
「行ってらっしゃい」
「がんばれよ!! 帰ってたら三人で外」
ゴスっと、横に立つケイシーが余計なこと洩らしそうになるのを腹パンで遮る。
「てめぇ……なにをする……」
一連の出来事に、不可解そうになるエマだが、もう一度笑顔で「行ってきます」と言って玄関を出ていく。
「オマエ……サプライズだと」
そう言うとケイシーはハッとした顔になる。
「悪い悪い。忘れてた!」
と、能天気に私の肩をバシバシ叩いて言った。このバカ。純粋なあの子だからよかったもの。
「さて、溜まってた作業をやるか」
ここ数ヶ月間、忙しくてできていない作業がたんまりとある。主に錬金術関連で、魔法薬やらなんやらの調合作業が溜まっている。
筆をとり、開発途中の魔法薬を紙に書き留めていくが、先ほどからケイシーが、私の周りをチョロチョロと歩き回っていて気が散る。
紙から目を離すと、ケイシーがぶつくさと呟きながら、私の机周辺を歩き回っている。おそらくエマの合否の心配でもしているのであろう。
「ケイシー、うるさい」
「だってエマが」
「あの子なら心配いらないよ」
「でも」と、心配性の彼女の声を遮り。
「初級試験なんてオマエでも受かるようなもんだから大丈夫よ」
「どういう意味だ」
ギロリとケイシーは睨らんだ。
「それより例の案件、これからでしょ? 行かなくてもいいのかい」
「あっ、もうこんな時間か。そろそろ行かないとな」
そう言うと、ケイシーは飲みかけのアイス珈琲を流し込んだ。
「で、名前決まりそうなの?」
「今日で必ず決めさせる」
キッパリとケイシーは言った。
そう。例の事業の名前だ。
先週、しめた詐欺集団を合法ビジネスとして、新たに展開させたあの集団なのだが、企業の名前決めに無駄に議論を重ねているらしい。私の行いを水を流して前向きに取り組んでいるようでいいのだが、それにしても名前を決めることにかまけて、本業を疎かにしなければいいのだけど。
「そうだケイシー」
「どうした?」
「トレヴァンに言っておいて。希釈ポーションとかよりも、濃縮ポーションって名前のほうがインパクトがあっていい。説明書きには、濃縮した高ランクポーションを希釈しました、とか書いとけばいいだろう」
濃縮とか書いとけば、深く物事を考えない客たちは食いつくだろう。実際はポーションを希釈しているだけで、決して効能が高いように濃縮しているわけないが。
「さすが姑息なアイディアを考える」
「知り合いにいるんでね。こういう小銭稼ぎが得意な胡散臭いやつが」
「そうだった」
ケイシーは答えると、玄関に歩いていく。
「じゃあ、行ってくるわ。夕方に、中央区の時計台前で集合でいいんだよな?」
「うん。時間も言った通りにお願いね」
「おう! じゃ、またあとでな」
ケイシーはそう言って、乱暴に玄関の扉を開けて行く。あの女は……。
「よし! それじゃあアトリエでさっきの魔法薬の試作してみようか」
レシピに書いた通りに材料を用意し、下処理したものを釜に入れていく。煎じるのに時間がかかるので、他の魔法薬の材料もついでに下処理していこうか。
ブクブクと、釜に入っている液体が音をたてている。
時計を見るとそろそろお昼になる頃だ。調合ついでに昼ごはんも一緒に作ってしまおう。
鍋を沸騰させて、パスタを入れる。塩分濃度は一パーセント。
フライパンに、大きめに角切りをしたベーコンを入れて炒める。
途中、黒胡椒を振ってカリカリになるまで仕上げる。ちなみに焼き加減はお好みで構わない。カリカリと、そうでないものでグラデーションを分けるのもいい。
卵黄と削ったチーズをボウルに入れ、水を加える。水分が含むことによって混ぜやすくなるのだ。
ベーコンから油が出切ったタイミングで茹で汁を入れ、鍋の旨味をこそげとる。これがソースの肝ね。
生クリームを、少し軽めの塩梅になるよう魔法具で泡立てる。
あとはパスタだけね。
私は鍋のパスタを一本味見する。
よし。そろそろ仕上げに入ってもいいだろう。
パスタは、ちょうどいい固さに仕上げるために、二分早く取り出し、フライパンに入れる。同時に、ボウルに入れた卵黄も一緒にあえる。
火を小さくして、ボソボソにならないように丁寧に火を入れていく。
ゆっくりと火入れしたため、卵黄とチーズがとろっとパスタに絡みついている。
あとはこれを皿に盛り付けて、再度黒胡椒を振る。そしてその上に、泡立てた生クリームを乗せる。
これが、レイヴンウッド風カルボナーラ。見た目にインパクトを与える料理が、この国の特徴だ。
これで完成だ。
ボソボソにならず、完璧なとろみのカルボナーラ。泡立てた生クリームを溶かすように混ぜる。
「いただきます」
パスタをフォークに絡めて口に運ぶ。うん、美味しい。さすが私。調合が得意なだけあって料理もできるのである。
ただ、独身で手の込んだ料理と猫を買い出したら結婚できないと聞くので、今の私はリーチがかかっている。いや、ケイシーは猫みたいなものだから、もしかしたらもうビンゴなのかもしれない。別に結婚願望はないのだが、周りの人間が結婚しだすとなぜかこちらも焦ってくる。別に結婚願望はないのだけど(二回目)
そういえば、今頃エマもランチタイムか。午後からは実技だから、ちゃんとお昼食べていればいいのだけど。
午前の部はペーパーテスト。お昼を挟んで午後の部は実技試験。三時のおやつ前には合否が発表される流れであるから、試験自体は意外とすぐ終わるものだ。これが上級以上となると合否に一ヶ月や半年かかるものになる。
まぁ、贔屓目なしに見てもエマは受かるであろう。 気長に待っていようか。
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「失敗ね」
私は目の前にある魔法薬を樽に捨てる。
実験に失敗した魔法薬をその辺に棄てたり、一般家庭ゴミに廃棄するのは、法律で禁じられている為、面倒だが専用の施設で廃棄しなければならない。
それでも、改善点は見えてきたので、結果としては前進しているであろう。
時計を見ると、とっくに合否が発表されている時間だ。今日はもう作業をやめて、イスから立ち上がろうとすると、勢いよく扉が開かれた。
「ただいまです! お師匠さま!!」
元気いっぱい。太陽のような満面の笑みでエマがアトリエ入ってくる。こんなに元気ということは結果は聞かなくてもわかる。
「どうだったと思います?」
ニコニコとエマは笑顔で言った。うん、聞かなくても受かったことは伝わってくるよ。逆にそれで落選していたら怖いよ。
「受かったのかい?」
そう言うと、デデーンと言わんばかりにエマはバッチを見せてきた。
緑色の初級バッチだ。
「受かりました! これもお師匠さまのお陰です。ありがとうございました!」
ぺこりと下げたエマの頭を撫でる。
「これからもがんばりたまえ」
激励の言葉を授けるとエマは、「ははー」と言って平伏した。ちょっとテンション上がってない?
「エマ」
私が名前を呼ぶと彼女は、ひれ伏した顔を上げ、どうしましたかと言わんばかりに首を傾げた。
「これを授けよう」
上目遣いでこちらを見ているエマの頭からネックレスを通す。チェーンの中央にはシルバーのリングがきらりと輝いていた。
「な、なんですか、これは?」
戸惑いながら、ネックレスを触る。
「初級祝い。魔術師は弟子にリングを送るのが習慣なのよ。リングは魔法具でつけることがこの先あると思うからネックレスに括り付けたわ」
エマの目からぶわっと涙を浮かべだき着いてきた。
「お師匠さま〜! ありがとうございまぅ〜」
「よしよし。おめでとう」
エマの頭をぽんぽんと撫でる。ほんとによくやったよ。あの事件で魔法のことを恐れないで前に進んだんだ。この子は本当に偉い。
「それじゃあ、出かけようか」
「え? どこか行くんですか?」
エマは涙を拭いながら言った。
「お買い物。荷物置いて行くよ」
「あっ、着替え」
「いいから早く」
着替えに行こうとするエマを引きずって玄関の扉を開けた。
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レイブンウッド王国は広大な城壁に囲まれた国であり、五つの地区に分けられている。
正門がある南地区は冒険者協会や、錬金術師協会などの公的機関が建ち並んでいる街だ。
西地区は、主に労働者階級の者たちが住んでいる住宅街。その一番端には、スラム街が存在している。
東地区は、商業施設が乱雑と建ち並んでおり、飲食店から服飾店や魔法関係の店と、様々な店が建っている。ちなみにうちの店もこの地区だ。
北地区は閑静な街であり、貴族や権力者が住んでいる邸宅街。軍事施設や教会があり、中央にはレイブンウッド魔術師協会本部がある。一番奥の大きな階段を登った先には、レイブンウッド城が威風堂々とそびえ立っている。
そして、全ての地区が交差するレイブンウッドの中央に位置するのが中央区だ。この地区は、最新のトレンドが流動的に溢れているこの国の中心地で、カジュアルな価格帯のものからラグジュアリーな価格帯のものまで揃っていている、若者の憧れの地区だ。
「ここが中央地区……! 一度は行ってみたかったんです!」
硝子の時計台の下で、エマは感嘆の声を上げていた。
「感想は?」
私がエマに聞くと、彼女は興奮気味に手をばたつかせる。
「キラキラしててすごいです! 歩いてる人たちもみんなオシャレで!」
他の地区と違って、この地区の街灯は青い光で街を照らし、建物もある程度均一したスタイリッシュな建物が多い。街行く人もオシャレで今年のトレンドカラーの緑色もコーデに入れている、流行に敏感な者たちばかりだ。
「それじゃあ、行こうか」
「どこに行くんですか?」
「オマエの服を見繕いに行くのよ」
そう言うと、エマはキラキラと目を輝かせながら、腕にしがみついてきた。
「ありがとうございます!」
「だけれど、普段使いの服じゃないからね」
エマはキョトンとした顔でこちらを見上げて言った。
「それってどんな服ですか?」
「こんか感じよ」
私は店のショーウィンドウに指を指す。そこには、エレガントでヒラヒラと裾を靡かせたお姫様が着るようなドレスから、王子様が着るようなフォーマルでモダンな燕尾服が飾ってある。
「え!? お師匠さま、マジですか!?」
ガバッとエマが私に詰め寄る。
「あの、着る機会なんて……」
「いいから入るよ」
「ちょ、ちょっと……」
私は狼狽えているエマを引っ張って店に入っていく。
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「いらっしゃませ。お待ちしておりました、アストレア様」
クラシカルなブラックタイを着こなした初老の男性は、私たちに会釈をして、どうぞと店の中にエスコートする。
「な、なんだか緊張しますぅ〜」
エマは身を縮ませてびっしり私にくっついて歩く。小さな体がさらに小さく見える。ちょっと、歩きにくいから離れて。
「堂々としていなさい。こっちは客だぞ」
くっつき虫みたいに、がっしりと腕に引っ付いているエマを引き剥がす。
「本日は、どういったのにいたしますか?」
「セミオーダーで、この子にイブニングドレスを一着見繕ってくれ」
「かしこまりました。こちらのお部屋から、お好みのドレスをお選びください」
指し示した部屋には、様々なドレスが飾ってあった。
「ど。どんなのがいいと思いますか?」
いや、私に聞かれても。オマエの好きにしたらいいでしょ。
「予算は気にしなくていい。好きなものを選びなさい」
「わ、わかりました。でも、どんなのがいいとかありますか?」
戸惑いながらエマは飾ってあるドレスを見比べている。そうだな……。この子も来年には大人になるからな。少し大人びたもので、着馴れさせた方がいいかもね。
「これとかはとうですか?」
黄色か。確かに元気な彼女には合うのだろうけれど、少し背伸びさせて、大人びたものにしたほうがいいだろう。
「似合うと思うけど、ふだんオマエが着ない大人びたものにもそろそろ慣れたほうがいいんじゃないか? 黄色系ならシャンパンゴールドとか」
「た、確かに……。そろそろ私も大人の女性に目覚めないと……!」
エマは謎に気合を入れて、部屋の奥へ奥へ進んでいき、ひとつのドレスを指し示した。
「これは、どうでしょう」
そこには、上品な濃紺のドレスが飾ってあった。
「ネイビーブルーね。いいんじゃない。似合うと思うよ」
そう言うと、エマはドレスと自分を見比べて大きく笑顔を浮かべさせた。
「これにします!」
「承知致しました。では、こちらで採寸致しますのでどうぞ」
初老のスタッフはニコリと笑顔を浮かべ、スタスタと衣装部屋までエスコートする。チラっと隣のエマを見ると、入店当初とは打って変わって、ワクワクした面立ちで歩いていた。わかる。服は買うときと開封するときがいちばん楽しいよね。でも、普段外出しないから、買ったこと忘れてしばらく着ないんだよね。
「では、こちらへどうぞ」
案内されたお立ち台の上にエマが立つと、天井からメジャーが伸びてきて、彼女の体を採寸し始める。測ったサイズをペンが紙に自動で書き留めていく。
「お師匠さま! すごいです!」
「全部魔法具がやってくれるからあとは待つだけだよ」
スタッフはエマを椅子まで案内し、彼女はちょこんと座った。
「完成してる型から、オマエ用に魔法具が自動で服を作っていくから、あとは待つだけだ」
「服を仕立てるのにおおよそ二時間ほどです。エマ様はこちらのカタログからデザインのパターンを一つお選びください」
スタッフはエマにカタログを渡すと、こちらに向かって歩いてきた。
「アストレア様は別室をご用意していますので、そちらでお休みください」
「じゃあ、またあとでな」
エマに声をかけ、スタッフに着いていく。
休憩室、にしては絢爛豪華な部屋に案内されソファに腰をかける。
「お飲み物はどうされます? アルコールもご用意しています」
「アイス珈琲でお願い」
「かしこまりました。そちらのチョコレートはご自由につまんでもよろしいのでどうぞお召し上がりください」
テーブルの上には、円形型のティースタンドが置いてあり、透明の蓋の中にはチョコレートが収められていた。
「ありがとうございます。エマのこと、よろしくね」
「かしこまりました。では、ごゆっくりとお寛ぎくださいませ」
「失礼いたします」と言ってスタッフは部屋から出ていく。
「これは、冷却用魔法具か」
ティースタンドの蓋を開けると、中から冷気が漏れ出た。様々な種類のチョコレートを一つ手に取り口に入れる。トリュフチョコだ。さすが、王都の中でも三本の指に入る一流の服飾店。サービスのチョコレートまでも一流品だ。
「おいしっ」
パクパクとチョコレートをつまむ。あんまり食べすぎると、食い意地はってると思われそうなので、手を止めて荷物から本を取り出す。
本でも読んで待っていようか。
アイス珈琲が届けられ、時間がくるまで本を読み始めた。
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服が作り終えたっぽいので、エマのいる衣装部屋に赴く。
そこには、普段の天真爛漫な彼女ではなく、おしゃまで、子供と大人の境界線に立つ、モラトリアムでどこか儚げと美しさを宿した女の子がそこに立っていた。
鎖骨まで露出させ、胸元から腰まで斜めに濃紺の薔薇が刺繍された、足首までの長さまであるネイビーブルーのスレンダーラインドレスだ。
大きな胸元には、私が上げたネックレスをつけており、中央のリングが彼女のふくよかな胸の間に挟まっていて、非常にドエロ……いや、けしかん。
「どうです、お師匠さま!」
エマは両手を腰に添えてどっしり構える。
「だめだめ。もっと腰を強調させて。そうそう。片方に重心を乗せて、お尻を強調させて前屈みに」
「ちょっと、セクハラですよ!」
いやいや、これはただのポージング指導なだけあって、そこには一切邪な心は入ってなんかない。恐らく。
「靴はどんな感じがいいと思います?」
「靴か……キッチリとしたラインのドレスだからピンヒールで、つま先は尖った感じのシックなものがいいんじゃないか?」
コイツは背も低いからピンヒールで身長を詐欺ればもっと大人っぽく見えるだろう。
スタッフを読んで私は要望を伝える。
「ピンヒールでポインテッドトゥ型のシンプルなデザインのものはあるか?」
「色はどうされますか?」
「色はそうだね……黒で頼むよ」
「かしこまりました。いくつか見繕います」
そう言ってスタッフは靴を取りに行き、何種類かを持ってくる。
「これがいいです!」
そう言ってエマは靴を履き、私に見せてきた。
「おーけー。では、彼女に着付けとヘアメイクを頼むよ」
「かしこまりました」
スタッフがエマを連れて部屋を出ていく。
「サービスいいですね!」
外からエマのどデカい声が聞こえてくる。ぐいぐい店員に話しかけにいけるのすごいなぁ。私は話しかけにもいかないし、話しかけられないようにもする。
エマをエスコートした初老の男性スタッフと入れ替わりに、妙齢の女性スタッフが入ってきた。
「アストレア様。ドレッシングルームにご案内いたします」
「どうぞ」と言って歩いていく。
扉を開け、支度専用のドレッシングブースに入り、空間拡張魔法を施したバッグから服を取り出す。
「ヘアメイクはどういたしますか?」
外から女性スタッフが話しかけてくる。
「主役は彼女だからね。私はナチュラルめで頼むよ」
「承知いたしました」
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ヘアメイクが終わると、着付け室の扉が開かれた。部屋に入ってきたのはエマだ。
「おぉ……」
「イメチェンしました!」
いつものツインテールではなく、髪を下ろしたダウンスタイルだ。アホ毛は直っていないようだけど。
「ナイスですねぇ〜」
ジロジロと舐めまわすように見ていると、初老のスタッフが小切手を持ってくる。そこにサインをしているとエマが私に声をかけてきた。
「あの〜。ここまでしてくれて、まずはありがとうございます」
ペコッと綺麗にお辞儀をするエマ。お辞儀をする拍子に胸元の大きなメロンが二房顔を覗かせる。うん。今年も豊作だ。
「こんなにおめかしして、なにかあるんですか?」
「ん? それはね……」
サインを書き終えてエマがいるほうに歩いていく。
「着くまで秘密」
私は彼女の唇に人差し指を当ててそう言った。




