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8.雲は流れ星空が広がった


 またしばらくは静寂にあった。


 この静寂を破ったのもまた王子だった。



「君は子どもを諦めているのか?」


「当然でございます。これはわたくしを生かす場合の絶対条件でしょう」



 王子に問われた私はようやく気付いた。

 それが私にとっては当たり前のこと過ぎて、すでに話した気になっていたのである。


 ついに王子まで握った拳を口元に添えて黙ってしまった。


 

 慣れない聴衆のいる一人語りに気分が高揚していた私は、あの日調子に乗っていたのだろう。

 今のうちに王族に伝えたかったことをすべて言ってしまおうと、容易に考え、実行してしまったのだから。


 私はひとり勝手に話した。



「公爵位を継がない件に関しましては、民からあらぬ疑いを持たれることを避けるため、さらに二つの条件を設定します。まず施策の実行にあたり、わたくしは常に民らから見える場所にあることです。二点目としましては、その場所が公爵家の管轄を越える範囲にあることになります」


「その辺りはこちらで検討させて欲しい。まずは持ち帰り議論してくるよ」



 まだしばらくは一人で話すことになると思っていた私は、王子から返答があったことに驚き、さらに不敬にも同学年にいる王子がこの話のよく分かる御方で良かったと、そんなことまで考えていた。


 やはり私はこの日調子に乗っていたのだ。



「わたくしはまた、多くの失敗する姿を民らに見せようと考えてございます。これには多くの皆さまのご協力が必要ですので、わたくし一人で判断出来るものではございません」


「それもこちらが主体で行おう」



 よく分からないという顔をした高位貴族の子女もいたなかで、王子は正しく理解した。


 半分平民だから気付くことが出来た施策。

 これを国全体に向け実行する。

 より多くの民を救いたい。公爵位を蹴った理由だ。

 けれども半分平民だから上手くいかないことも多かった。

 そこに手を差し伸べる王族。力を貸す貴族。

 尊き血の素晴らしさと共に国が良くなったことを実感する民。


 これが私の考えた生きる未来。



「以上はあくまで、わたくしの浅はかな考えによるものにございます。わたくしとしましては、皆さまからもご意見を頂戴したく、また最終的には陛下の決定に従いたいと思っております」


「そうだね。せっかくの機会だから皆の意見も聞くとして、最終的には城で話し合おう。だが──」



 この講義の時間だけで、私の中では王子の評価がぐんと上がった。

 不敬過ぎるが、心から王子に対し感心を抱いていたのだ。


 将来貴族社会を担う若者たちが、この件にはじめから協力していれば。

 血統主義継続への安心感も持てるであろうし、新しくはじめる施策を全貴族に受け入れて貰うための労力を減らすことになる。


 しかしそこで別の懸念も生じた。

 王子はこれも理解していたのだ。



「本件は皆が分かる通り、まだ相談の段階だ。ここは内密に頼みたい。こちらが良しと言うまでは、家の者にも話さぬように」


 

 先程多くの者が不満を露わにしたように。

 平民の血の混じる公爵令嬢が功績を上げる未来を王族から約束される。

 これには貴族の大人たちも不快さを覚えることになる。


 血統主義を重んじる貴族たちにとって、たとえその主義を今後も維持していくためだとして、面白い話とはならない。

 生かす理由があっても、本音では誰もが即座にこの世から私、そして母、それだけでなく父さえも、排除したいと願っている。


 それも上位下位関係なく、今や貴族全体で共有している想いだ。


 公爵令嬢に対し、声掛けも待てず、許可なく触れた下位貴族の令嬢たちがいたように。

 浅はかな考えを持つ貴族が、王家も予想外の行動に出ることは考えられた。

 上位貴族に利用されて愚かな企みをする者も現れるだろう。


 しかし公爵家も私や母に対して鉄壁の守りを採用している状況だ。

 おそらくはどの企みも完全には成功しないだろう。


 半端な結果は事態を悪化させるばかりだ。


 貴族同士の問題が生じれば、王家も対応せざるを得なくなり、王族にとって大変難しい判断を強いられることになる。王家は貴族も大事だが、もっとも民意を無視出来ない人々なのだ。


 するとますます平民の血を入れた公爵家への遺恨を残すことになり、民とはまた別のところで、この国が不穏な未来へと導かれてしまう。



 若くても王族は王族なのだと感心し、どうか彼は父のように何かに溺れて道を間違うことがありませんように。

 また不敬にも王子の未来に余計なことまで祈っていたら、講義時間を告げる鐘が鳴り、私は酷く一方的な説明を終えることになった。



 沢山の人と話した気になっていたが、結局王子としか会話をしていないことに気付いたのは、その日の夜のこと。





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