15. 芽吹き
それぞれの謝罪は、こうして流れた。
曖昧に終わることの心地好さをはじめて体験した日となる。
「マリアンヌ嬢の考えを聞くまでは、私が公爵家に婿入りする予定で計画されていた。たとえ公爵が頷かずとも、公爵と同じ方法を使えばいいと考えられていてね。それなのに私が動かないから、陛下もどうしたものかと悩まれていたそうだよ」
王子が半分平民の血が流れる公爵令嬢に恋をした。
それが王家から民に与える新しい夢物語。
大恋愛のすえ王子は公爵家に婿入りを果たし二人は結婚したが、残念ながら子には恵まれなかった、という用意された結末。
この物語においても憶測からの不穏な話はいくらでも出て来ようが、一定期間これを否定する者たちを市井に多く配置すれば危機は乗り越えられるだろう。
さすがに王族の子を害そうと考える者はないよ。
公爵が娘を守れたんだ。王子さまが我が子を守れないわけがない。
私という存在が発言に説得力を増していく。
民はこれでいい。
一方で貴族向けには、子に恵まれなかった夫婦が王族の子を養子に迎え、これに公爵位を継がせると発表する。
もはや王家による公爵家の乗っ取りであろうが、それがやらかした公爵および公爵家への罰となる。
王家は正しく罰したという事実が、貴族らを安堵させるだろう。
そしてまた、貴族らが同じ過ちを繰り返すことのないようにという見せしめともなる。
「陛下はマリアンヌ嬢の案に乗り気だ。検討に入る前に、まずは私たちに提案書の作成を要望されている。期限は卒業まででいいとのこと。検討時には専門家が入るから、思い付いた案はいくらでも出せと言われたよ」
王家にとっては公爵家の乗っ取りが出来ず損をする形だが、それでも私の案に利があると捉えたということ。
公爵家の乗っ取りは必ずや禍根を残す。
虎視眈々とその座を狙ってきた親族たちは、正統な公爵家の血統を持つ自分たちを差し置いて、王族の子を次代の公爵に決めた王家に憤慨するだろう。
当主の不始末でお家断絶、一族郎党罰せられることは妥当でも、公爵家はもっとも古くから続き、最大の領地を誇る、筆頭貴族家であって、簡単に断絶していい家ではない。
さらにあのとき王家だって父を止めなかったではないかという想いもある。
父を恨むだけで済めばいいが、公爵家でのお家騒動に発展する可能性もあるし、長きに渡り王家と公爵家の仲が拗れる未来も想像出来た。
より安全でかつ本人たちが同意する案があれば、すぐに手にする利を蹴ってでも、王家とてそちらを取りたいと願うことだろう。
何より私の説得という大きな問題は、これで解消出来る。
そのうえ予想外のことが起こったときも切り捨て可能だ。
すべて発案者の私の、この血のせいとなる。
「私の考えた案を採用頂けるのでしたら、アラン殿下がご自由になられる道も選択出来るのではありませんか?」




