14. 鳥たちが種を運んだ
「役目なんか知るかと思って過ごしてきたよ。その証拠にマリアンヌ嬢に接触しようとしたこともなかっただろう?」
接触を望んだとして、あの父が許したかどうか。
父のことだから王家の考えは読めていただろう。
王家は近い将来あの夢物語を上書きしようとしていた。
「王族の役目からも逃げていた。将来が決まっているなら、何をしても意味がないと思っていたんだ」
アラン殿下は左手を側頭部に伸ばして髪をくしゃりと握った。
「そのくせ理解はあった。その決まった将来のため、本当なら私はもっと功績を上げて、民に人気の王子でいなければならない。だというのに、民の前に出ることも拒んで来たよ。君たちも知っている通り、貴族との交流も最低限に抑えてきた。事情を知らない城仕えの者たちは、自室に籠ってばかりの役に立たない王子だと呆れていただろうなぁ。いや事情を知っている大人たちの方が何もしないことに呆れていたかな?」
陛下がこれを咎めなかったところに、父と重なるものを感じ取ってしまった。
大変不敬だし、あの父とだけは一緒にするなとお叱りを受けることだろう。
父もまた、私との接触をなるべく避けていたように感じる。
公爵として忙しかったと言われればそれまでだが、父が私と会う機会は母よりも少なかった。
よく守ってくれていたことは知っていても、父の態度からは私を可愛がる気など最初から無かったのではないかと思える。
ならばどうして産ませたの?
それはずっと私が分からないこと。
「君が学園に入ると分かって、いよいよ逃げられない状況に追い込まれたと感じた私はますます不貞腐れた。マリアンヌ嬢がどういう目に合っているかよく知っていたのに、見て見ぬふりをして何もしなかった」
手を下ろしたアラン殿下は、大袈裟とも言える動きで両肩を上げて落とした。
「そして今も、愚痴なんか零して同情を誘い、一方的に謝罪をして、君に許して貰おうとしている。本当に最低だよね?」
同意なんて出来ない。
もっと最低な人間が、無知だった私だ。
「だから──マリアンヌ嬢があのとき、自分の考えを話してくれて。目を覚ませ、現実を見ろと頬を張られた気分だったよ。私一人が可哀想な王子だと嘆き、何もしてこなかったことが、恥ずかしくて悔しくて堪らなくて、そしてあの日私はこれまでの自分が嫌いになった。あぁ、今も大嫌いだね」
「──今のわたくしです」
それは考える前に口から出ていた。
すぐにお詫びしようとする私を、笑い声が止めた。
アラン殿下のそれは、息が掠れるような笑い方だった。
「一緒だね。私たちは分かり合える同志にもなれるかな?」
「わたくしめには身に余る栄誉にございます」
「身分を忘れて話そうよ」
「無知で恥ずかしいのですが、どのように話せばよろしいか教えていただけますでしょうか?」
「いくらでも教えるよ。私たちはとても仲良くやれそうだね」
「ぐすっ」
驚いて横を向けば、エヴァリーナ様がまた泣いていらした。
アラン殿下が笑って、オーウェン様、アドルファス様も続き、カトリーヌ様も笑った。
エヴァリーナ様も途中から美しく泣きながら笑っていて、なんて器用な方なのだろうと感心した。
あるところで皆が急に笑い声を止め私を凝視した。
首を傾げると、皆がまた一斉に笑いはじめる。
私も笑えるようになりたいと思った。
迷惑を掛けるだけの存在なのに、分も弁えず、皆と一緒に笑いたいと願った。




