12. まっさらな大地
あのとき私を囲んだ令嬢たちは、エヴァリーナ様の侯爵家の傘下にある下位貴族家の令嬢たちだったのだ。
だからと言って、あの当時のエヴァリーナ様に何が出来ただろう?
下位貴族家の子女らの前で、平民の血の流れる公爵令嬢を庇う姿など見せられたはずがない。
彼女たちに遠回しにでも行いを注意すれば、かえって暴走する可能性も考えられた。
あのとき静観していたのは、侯爵令嬢として正しい解だったと、私でも思っている。
「エヴァリーナ様のお振舞いは正しいことです。わたくしも何も気にしてもおりませんので、謝罪は不要ですわ」
エヴァリーナ様は、可憐に首を振られました。
「いいえ、わたくしはもっと上手く彼女たちを導くことも出来ましたわ。それなのにわたくしは……あなたが自分から望み、平民の血を持って生まれてきたわけでもないのに。わたくしったら、何も悪いことをしていないあなたを許せないと思っていたの。だから意地悪くあの子たちを放置して利用したんだわ。侯爵家の者として、わたくしは最低なことをしましたのよ」
あえて言わずともいいことを伝えてくれたエヴァリーナ様を、私は勝手に心配していた。
この素直な気質で侯爵令嬢であるのは辛かろうと思ったのだ。
けれどもこれだって高位貴族らしい戦略のひとつだったかもしれない。
なにせ私はもうこの時から、エヴァリーナ様を疑えなくなっていた。
「わたくしはね、マリアンヌ様。ずっと勝手に信じてきましたのよ。マリアンヌ様はご両親に愛されて、我がまま放題に育っているものだと。だから学園で少しくらい痛い目を見た方がいいのよなんて。本当に最低だったわ。マリアンヌ様、ごめんなさい」
こんなに水分が溢れてくるのに、どうしてこうも美しく見えるのだろう。
私も泣き方のマナーを学ぶべきではないか。
自分でも見当違いの方向に思考を飛ばしていることは理解していた。
理解しても止められない。
エヴァリーナ様の泣き方は、それほどに麗しかったのだ。
「それならわたくしも謝らなければなりませんわね。マリアンヌ様。うちの子たちを統制出来ず、長く嫌な想いをさせてしまったこと、ここにお詫びいたしますわ。大変申し訳ありません」
カトリーヌ様まで私に向かって頭を下げた。
予想より重い謝罪に狼狽えた私は、「謝罪は結構ですわ」と即座に返してしまった。
これではまるで許さないと言っているようである。
説明しなければと思ったところに、オーウェン様とアドルファス様も同じように謝罪を述べた。
謝罪を受け止めて許すこと。
公爵家の令嬢として求められていることは分かっていた。
なのにこのときの私は、何故かそうすることに抵抗感を覚え、言葉を返せなかったのだ。
目を逸らしたくなる沈黙は、私が終わらせなければ終わらないことも分かっていたのに。
言葉が出て来ない。
そこにアラン殿下が言った。
一時は助かったと思った。
「皆、いいよ。マリアンヌ嬢に詫びなければならないのは私だからね」
これだけ対応に困った日は、後にも先にもない。




