愛されたい想い
一応R15にしましたが、多分全年齢で大丈夫な筈です。
「今度は・・・・・・しました・・・・」
-医者の言っている意味が分からなかった・・・・
ホント意味わかんない
あたしって・・・何で・・・・・
何で・・・・生まれてきたんだろ・・・・
「なあ、藤悟」
「あん?なんだよ?」
「お前もう来んなっ!!」
「はあ?何いってんだお前」
「いいからっ!!もう来んな!
今日ももういいっ!!!とっとと出てけっ!!!!」
「何なんだよ?わけわかんねっ!!
何いきなりキレてんだよ!!?」
「いいからっ!
いいから、もう出てけっ!!!」
-あたしは枕を藤悟に投げつけた
枕は藤悟の顔面に当たった
流石に藤悟も怒るだろう
折角見舞いに来てやっている惨めな女に、情けをかけてやってるのに・・・
そいつがいきなり激昂して
物まで投げつけて・・・・
「何があった?」
藤悟は、怒らなかった
それどころか、落ちた枕を拾い、軽く叩いて佐枝のもとに戻すと共に、落ち着いた真面目な声で、優しく問いかけた
「何なんだよ?」
-ホントこいつは何なんだよ?
ふざけんなっ
「どうした?」
「お前は何なんだよっ?
何で、怒んねーんだよっ!!?
うぜーだろっ?
ちょっと優しくしてやったら、調子こいてさ
何様だって?思うだろ?
こんな、出来損ないの女擬きなんてさっ!!」
「お前は女だよ
正真正銘、女だよ」
-だから、何なんだよ?
こいつはさ?
ふざけるな
ざけんな
ざけんなっ
ざけんなっ!
「・・・っざけんなよっ!!」
佐枝の声は小さかった
嗚咽を堪える様に
「夢・・・見させんじゃね~よ!!?」
無理矢理に絞り出す様に
「そんな、無責任なこと・・・
いってんじゃね~・・・・よっ・・・」
その瞳いっぱいを潤ませながら、それでも涙が溢れないように
「だったら、抱いて見せろよ?」
限界だった
藤悟に向けられた佐枝の頬には、涙が伝っていた
-分かってる
そんなの無理だってことぐらい
こいつが、ここにいるのは、単なる同情だ
暇つぶしの一つだ
でも、もしかしたらこいつなら・・・
「・・・ごめん
それは出来ない」
「でてけっーーーーー」
藤悟は重い足取りで出て行った
何か言い残したが、佐枝には聞こえていなかった
-分かってた
そんなの当たり前じゃん
分かってたのにさ
覚悟してたのにさ
でもやっぱ、私はあいつが好きなんだ・・・
悔しいよ・・・
辛いよ・・・・
なんで、こんな想い、しなくちゃならないんだよ?
もしも、私が・・・普通の・・・
見かけだけでも、普通の女だったら・・・
そしたら、あいつは抱いてくれたかな?
そりゃ、嫌だよね・・・
胸・・・おっぱい・・両方取っちゃったもんね・・・
体中、醜い傷だらけだもんね・・・
足だって、動かない
性格だって悪い
こんな女、誰もいるわけないんだ・・・
顔だけは無事だったから
それは嬉しかった
でも、そのせいかな・・・?
自分がまだ、女だと思ってしまうのは
なまじいい顔してたから、いい気になってた
男なんて幾らでも寄ってきてた
だから、こんな性格悪くなっちゃったんだよな・・・
もっと可愛い性格だったら、誰か貰ってくれたの・・・・かな・・・
佐枝は中学のときに、突然倒れ事故にあった
事故の怪我が酷く、佐枝はそのとき、消せぬ傷を体中に負い
そして、足を動かせなくなった
倒れた原因はガンだった
怪我で体力も気力も奪われた佐枝のガンは瞬く間に広まり
両の乳房を切除するはになった・・・
しかし、それだけは終わらなかった
今ある腫瘍は全て摘出された
だが、いずれ再発する
医者にそう告げられていた
自分の良いところは外見だけだ
それは入院してから、嫌という程思い知らされた
絶望していた
生きることに意味を見いだせなくなっていた
でも、あるとき外ではしゃいでる同じ年くらいの少年を見つけた
パジャマ姿で、小さな子供たちと楽しそうにボール遊びをしていた
佐枝は始めは嫉妬していた
パジャマを着ているのだから、同じ入院患者だろう
しかし、彼はあんなに楽しそうにしている
こんな不公平があっていいのだろうか?っと
きっかけは、看護師のお節介だった
馴れ馴れしい看護師が、嫌がる佐枝を車いすで外に連れ出し
彼ら・・・藤悟たちの一団のもとに連れた行ったのだ
-藤悟は不思議な奴だった
中から見てるだけのときは、絶対好きになれないと思ってた
あんな幸せそうな奴・・・絶対ないと思ってた
でも、気づいたら好きになってた
然も呆れることにそんなに時間は経ってなかったな・・・
あれから、三年か・・・
早いな・・・・
殆ど毎日会ってるのに、全然飽きなくて
こんな私にでも、普通の友達と同じように接してくれた
でも、もう終わりだ・・・
終わりにしてしまった
佐枝は藤悟との思い出を振り返り、ずっと泣いていた
アレは楽しかったなと泣き
あのバカっと当時を思い出し怒りながら泣き
そして、これからのことを思い泣いた
-藤悟と会ってから体の調子が良かったから、すっかり忘れてた
自分は普通の女じゃないんだった・・・
それにしても・・・
よりにもよって・・・
そこは・・・・ないよ・・・
佐枝は医者に告げられていた
ガンが再発したと
そして、今度は・・・
決定的だった
それはつまり、自身の唯一残された
最後の希望を奪われたことに他ならないのだから
-もう、何にもなくなっちゃう
ホントにもう私は・・・・
女じゃ・・・人間じゃなくなっちゃうよ・・・
バカみたい
もうこんな体になってる時点で
誰もセックスなんてしれくれるわけないのに
それでも、どこか・・・
希望を感じちゃってたんだな・・・
藤悟ならって・・・・
バカみたい
ホント、バカみたい
数日が過ぎた
あれから佐枝は抜け殻のような生活を送っていた
流石に藤悟も顔を出していなかった
もうこのままだと思っていた
抜け殻のように、何も感じずに・・・
ずっとこのままなのだと
しかし、佐枝の感情を揺さぶることがあった
看護師に散歩に連れられている佐枝の耳に別の看護師たちの話が聞こえてきた
「可哀想ね朝霧くん」
-朝霧?・・・朝霧藤悟?
「そうね、もう少しだったのにね」
「あんなに良い子なんだもん
元気になってほしかったな」
「仕方ないとは言え、辛いわよね
ドナーの遺族には拒否する権利があるとはいえ、あそこまで来てまさか拒否するなんて」
「ホントよね・・・
でも、感情はそんな簡単に割り切れるものじゃないからね・・・」
「そうね。次のドナー早く見つかるといいわね・・・」
「本当・・・
そう言えば、彼言ってたわ
心臓が治ったら、好きな娘に告白するんだって」
-心臓?
知らなかった・・・
あいつ心臓が悪かったのか
でも、あいつ子供たちとボール遊びしてた・・・・っ!!!
思い返してみれば、藤悟はいつも輪の中にいても、ボールをさわっていなかった
-いつも笑ってた
いつも楽しそうにしてたから
ずっと気づかなかった
いつもいつも元気そうに見えたから・・・
そんなことあるわかないじゃないかっ!!
ここは病院なんだぞっ
健康なやつが入院なんてしてるかよっ
バカっ!!
「え~残念。彼狙ってたのに(笑)
好きな娘ね、誰だれ?」
「教えてくれなかったわ
怒られちゃったらしくって、振られてみんなにばれたら恥ずかしいって」
「怒らせた?彼が?何で?」
「苦労したわよ~それ訊くの
人に不快な想いをさせる子じゃないから、気になってかなりしつこくしてたら、やっと教えてくれたのよ」
「っで?なになに?」
「それがね?
迫られたらしいの・・・」
「迫られた?
朝霧くんが?その好きな子にってこと?」
「そう。」
「うわー・・・・それは、洒落にならないわね・・・」
「ホントよね・・・どれだけ、好でも彼『・・・・・』んだものね」
-なんて、顔して会えばいいんだよ・・・
あんな一方的に酷いことしておいて
なんて・・・
「佐枝」
「っ!!」
藤悟の病室の前で戸惑っていると、後ろから藤悟に声を掛けられた
「会いに来てくれるとは思ってなかった
入って行くか?」
佐枝はこくっと、頷いて返事を返した
「この前は悪かった
お前の気持ち踏みにじったりして」
部屋に入ると、藤悟は佐枝に深々と頭を下げた
「やめろよっ!!やめろよなっ!!そいうの!!!
お前何も悪くないじゃないか!!?
悪いのは全部あたしじゃないか
勝手に、好きになって
勝手に、お前ならって気持ちになって
勝手に、失望して・・・・
お前の方が何倍も辛かったはずなのに・・・」
涙が溢れてくる、この前もの一生分を流しきったと思った涙は、今も止めどなく溢れ、佐枝の頬をぬらす
「どれだけ、辛くても
ずっと・・・・ずっと・・・・笑ってて
あたし、バカだから
全然気づかなくて・・・
それで・・・・それで・・・」
「お前は何も悪くない・・・
俺、知っちまったんだ。
お前のこと・・・・
今度は・・・・子宮なんだってな・・・・
ごめん、俺・・・ホントごめん」
「だから、お前が謝るなよっ!!」
佐枝は藤悟ににじり寄り、その胸ぐらを掴み、泣きながら怒鳴りつけた
「ホントにさ
あたし、バカだから、本当に
ごめんなさい」
看護師たちから聴いてしまった話を藤悟にする。
「あたしも、聴いちゃったんだ
ナースたちがお前の話をしてるのを・・・・
心臓悪いんだってな?」
「ああ・・・」
「ごめん、今までずっとお前が・・・
うらやましかった
何にも、悩みなんかなさそうで
ずっと笑っていられて
ねたましかった」
「そうか・・・」
「でも、そんなお前が好きになって
自分が辛いのを、お前に助けてもらうことばかり考えて」
「嬉しいよ」
「それなのに、あたしあんたに
あんな・・・あんな・・・酷いこと言っちゃって・・・・」
「俺は大丈夫だよ」
「本当に、ごめんなさい
貴方のことを何も知らなくて、ごめんなさい」
「それは、お互い様だよ
俺はあのとき、自分のことしか考えてなかったから」
「そんなことないっ!!
もしっ・・・・私が逆の立場だったら
私は・・・私はきっと、逆上してた
出来ないことを、自分が望んでも出来ないことを
逃げるために、要求されたんじゃ・・・
私はきっと耐えられなかった・・・」
「っ・・・・そっちまで、聴いちゃったんだ・・・・」
言葉が出てこなかったから、頷いてかえした
「でも、これでお相子かな?
ある意味、ベルトカップルになれるんじゃないか?俺たち」
「えっ?」
「嫌か?
妊娠できない胸もない女と男根のない男
俺はお似合いだと思うんだけどな?」
「・・・・嫌じゃない・・・
嫌じゃないよ
でも、いいの?
子供が出来ないだけじゃない
・・・私の体・・・・
魅力ない・・・・醜いよ」
「じゃあ、見せてくれないか?」
藤悟は佐枝を胸から離し、その瞳を真剣な眼差しで見つめた
佐枝は一瞬躊躇った
先ずは女としての羞恥心から
そして、自分の醜い姿を晒すことへの恐怖で
-我ながら、バカだと思う
こんな体になってなお、まだ女の羞恥心なんてもんがあるなんて
それに、この後に及んで怖いだなんて
見て貰おう
例え、それで藤悟が私を嫌悪しても、きっとそれは・・・
一生、彼の中で私が生き続けるってことだから
「いいわ」
佐枝は眼を閉じた
自分の胸元に手が掛けられたのは分かる
それは順々に下へと向かっていった
パジャマのボタンを全て外し終わった藤悟の手が離れる
しかし、なかなか前を開けられた感じはしない
佐枝が閉じた眼を恐れながらゆっくり開いていくと、藤悟は右手を心臓に当てていた
「藤悟?」
苦しいのかと思った
「大丈夫、あんまり激しいと危ないから
ちょっと、妄想してた
俺、女の人の裸を生で見るの初めてだから・・・・
もしかしらた、変なことするかも知れないぞ?」
「もし、そんな気分になってくれたら・・・
私は・・・・・・・いいよ」
そういって、佐枝はまた眼を閉じた
今度はその後直ぐに、服に手がかけられた
肩のところまでおろして、手を離しても隠れないようにした
少ししたら、胸の近くに生暖かい息がかかる
「ひゃっ!!」
藤悟は胸元の傷の一つに舌を這わせた
「んっ!うっ・・・くずぐったい」
藤悟はその反応を楽しむように、暫くそうしいた
そして、その動きは急に止まった
腹部には、暖かい感触がある
「藤悟?」
ゆっくりと眼を開ける
藤悟は佐枝のその腹部に頭をしずめていた
両手は、佐枝の腰に回され、佐枝は正直少し苦しかった
しかし、抱きしめられる感触はとても心地良かった
藤悟の頭を撫でた
自分受け入れてくれた
愛しい男
とても、嬉しい
これ以上の幸せなない筈だと思うのに
でも、自分のどん欲差に呆れてしまう
「ねえ?藤悟?」
「なんだ?」
「私嬉しい・・・
凄く嬉しい・・・」
「俺もだ」
「でもね・・・駄目なの・・・」
藤悟は顔を上げる
いったい何が駄目なのか?と
「本当に嬉しいの、でもそれだけじゃ駄目なの・・・
言葉が欲しいの・・・
貴方に言葉を掛けて欲しいの」
藤悟は立ち上がり、佐枝に覆い被さるようにして、佐枝の顔を見つめる
「綺麗だよ
誰が何と言おうと、君自身がそれを愛せなくても
俺はその全てが愛おしいよ
愛してる、佐枝」
二人は口づけを交わす
初めて同士で、ぎこちないものだった
それでもお互いを求めて、二人の口づけはつづいた
呼んで頂きありがとうございました。