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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好きだからキスしたい

甘く柔らかなキスの後、唇が離れて瞼を上げると整った顔が目の前にある。このとき、どこを見ていいのかいつもわからない。その眼前の端正な顔が思案するような表情をした。


「たまには実晴(みはる)からキスしてみろ」


玲央(れお)くんの言葉に固まってしまう。俺からキスをする? 玲央くんに? ぶわっと顔が熱くなった。


「そ、そんなの恥ずかしいよ……」


思わず俯いてしまう。みんなの憧れの玲央くんと付き合えていることだって恐れ多いのに、俺からキスをするなんて……。


「嫌なのか?」

「い……や、じゃない、けど」


嫌じゃない。全然嫌じゃない。嫌なわけない。でも――。


「いつも俺からだろう。というより俺からしかしたことがない。俺は実晴からのキスが欲しい」

「っ……」


顎を持たれてくいっと上を向かされ、また玲央くんと目が合う。まっすぐ見つめられると恥ずかしすぎて落ち着かない。


「そもそも、付き合って半年も経つのにキス止まりだからな」

「ま、まだ五か月だよ……」

「あと一週間と一日でちょうど半年だ」


こういうところ、昔から変わらない。つい笑ってしまうと、玲央くんの片眉が上がった。


「余裕だな」

「えっ」

「それならしてみろ」

「してみろって……」

「ほら」


玲央くんが目を閉じる。その顔がすごく綺麗で見惚れてしまう。ぼんやりと見入っていたら、瞼が上がって睨まれた。


「なんでしない?」

「だって」

「実晴」

「……恥ずかしすぎるよ」


想像しただけで頬が熱い。今すぐ逃げ出したいくらいだ。でも玲央くん逃がしてくれるはずがない。唇を指でなぞられてびくりと震えてしまう。玲央くんの表情が色っぽすぎて見ていられない。本当に同い年かなと思うときがある。


「実晴は昔から思いきりが足りないな」

「……」


玲央くんは幼馴染で、恋人。

色素の薄い髪が陽の光に当たるとキラキラするのが綺麗だといつも思っていた。その明るい茶色の瞳に特別に映るのは誰だろうと思っていたら、俺だった、なんて夢のよう。

ぼけぼけした俺をいつも助けてくれる、しっかり者の玲央くんがずっと好きだったし、今も大好き。同じ高校に行けたのも、玲央くんが勉強を見てくれたから。玲央くんは、「実晴と同じ高校じゃないと嫌だから勉強を見るのは俺のためだ」と言っていたけど、そんなのは絶対俺に気を遣わせないために決まってる。本当に、どんなに感謝しても足りない。


玲央くんから高校に入ってすぐに告白されて、すごく嬉しかったけど付き合う勇気がなくて……どう返事をしていいかわからないから悩んでいたはずが、気がついたら付き合っていた――不思議。

付き合って二か月の日に初めてキスをした。ぴったり二か月だと玲央くんが言っていたからそうだ。

誕生日や記念日を大切にする玲央くん。いつかはうちのお父さんとお母さんが結婚記念日を忘れていたのに玲央くんが覚えていたということもあった。

初めてのキスの日からもう数えきれないくらいキスはしているけれど、いつも玲央くんから。それが彼には不満だったようだ。


「実晴」

「はっ、はい」


低い声で名前を呼ばれ、ぴんと姿勢を正す。玲央くんが声変わりしたときのことを突然思い出してしまった。あのときはどきどきした。俺よりはっきり声が低くなって、“男の子”じゃなくなったとわかった。


「キスしろ」

「……」


しろ、と言いながら顔を近づけてくる玲央くん。わ、と思ったら唇が重なった。


「真似してやってみろ」

「そ、そんな……できないよ、玲央くん」


恥ずかしすぎる。頬が熱い。俺が頬を両手で押さえていると、またキスをされた。びっくりして飛び上がりそうになる。


「……仕方ない。今日は可愛い実晴が見れたことで満足ということにする」

「玲央くん……」

「送ってく」


玲央くんが俺の通学バッグを取る。もうそんな時間か。ふたりでいると時間が経つのが早い。たぶんカーテンの向こうは暗くなっている。


「隣だからひとりで帰れるよ」


わざわざ送ってもらう距離じゃない。玲央くんからバッグを受け取ろうとすると、ひょいと隠された。


「一秒でも長く一緒にいたいのは俺だけか?」

「……」


嬉しくて口元が緩んでしまう。玲央くんのこういうところ、本当に大好き。


「ううん。俺も玲央くんと少しでも長く一緒にいたいから、やっぱり送ってくれる?」

「言われなくても送る」


もう一回キスをもらってから、ふたりで玲央くんの部屋を出る。階段を下りて、玄関を出て、うちの前まで。


「また明日」

「うん。ありがとう、玲央くん」


手をぎゅっと握り合って、明日までお別れ。この後もメッセージアプリでやり取りをするんだけど、今日会えるのは最後だから。

握り合った手をじっと見る。この手を離したら、玲央くんは帰っちゃうんだよな、と思うと離したくない。でも、いつまでもこうしているわけにはいかない。玲央くんの手を見つめる。


「実晴」

「えっ」


おでこをくんっと指で押されて顔が上がる。そこには玲央くんの不機嫌顔。


「どこを見てるんだ」

「ごめん……」


頬を軽くつねられる。手が離れて、指の腹で唇をなぞられた。


「明日は期待している」

「えっ」

「じゃあな」


玲央くんは優しく微笑んでから帰って行った。




甘く柔らかなキスの後、唇が離れて瞼を上げると整った顔が目の前にある。このとき、どこを見ていいのかいつもわからない。その眼前の端正な顔が思案するような表情をした。


「たまには実晴(みはる)からキスしてみろ」


玲央(れお)くんの言葉に固まってしまう。俺からキスをする? 玲央くんに? ぶわっと顔が熱くなった。


「そ、そんなの恥ずかしいよ……」


思わず俯いてしまう。みんなの憧れの玲央くんと付き合えていることだって恐れ多いのに、俺からキスをするなんて……。


「嫌なのか?」

「い……や、じゃない、けど」


嫌じゃない。全然嫌じゃない。嫌なわけない。でも――。


「いつも俺からだろう。というより俺からしかしたことがない。俺は実晴からのキスが欲しい」

「っ……」


顎を持たれてくいっと上を向かされ、また玲央くんと目が合う。まっすぐ見つめられると恥ずかしすぎて落ち着かない。


「そもそも、付き合って半年も経つのにキス止まりだからな」

「ま、まだ五か月だよ……」

「あと一週間と一日でちょうど半年だ」


こういうところ、昔から変わらない。つい笑ってしまうと、玲央くんの片眉が上がった。


「余裕だな」

「えっ」

「それならしてみろ」

「してみろって……」

「ほら」


玲央くんが目を閉じる。その顔がすごく綺麗で見惚れてしまう。ぼんやりと見入っていたら、瞼が上がって睨まれた。


「なんでしない?」

「だって」

「実晴」

「……恥ずかしすぎるよ」


想像しただけで頬が熱い。今すぐ逃げ出したいくらいだ。でも玲央くん逃がしてくれるはずがない。唇を指でなぞられてびくりと震えてしまう。玲央くんの表情が色っぽすぎて見ていられない。本当に同い年かなと思うときがある。


「実晴は昔から思いきりが足りないな」

「……」


玲央くんは幼馴染で、恋人。

色素の薄い髪が陽の光に当たるとキラキラするのが綺麗だといつも思っていた。その明るい茶色の瞳に特別に映るのは誰だろうと思っていたら、俺だった、なんて夢のよう。

ぼけぼけした俺をいつも助けてくれる、しっかり者の玲央くんがずっと好きだったし、今も大好き。同じ高校に行けたのも、玲央くんが勉強を見てくれたから。玲央くんは、「実晴と同じ高校じゃないと嫌だから勉強を見るのは俺のためだ」と言っていたけど、そんなのは絶対俺に気を遣わせないために決まってる。本当に、どんなに感謝しても足りない。


玲央くんから高校に入ってすぐに告白されて、すごく嬉しかったけど付き合う勇気がなくて……どう返事をしていいかわからないから悩んでいたはずが、気がついたら付き合っていた――不思議。

付き合って二か月の日に初めてキスをした。ぴったり二か月だと玲央くんが言っていたからそうだ。

誕生日や記念日を大切にする玲央くん。いつかはうちのお父さんとお母さんが結婚記念日を忘れていたのに玲央くんが覚えていたということもあった。

初めてのキスの日からもう数えきれないくらいキスはしているけれど、いつも玲央くんから。それが彼には不満だったようだ。


「実晴」

「はっ、はい」


低い声で名前を呼ばれ、ぴんと姿勢を正す。玲央くんが声変わりしたときのことを突然思い出してしまった。あのときはどきどきした。俺よりはっきり声が低くなって、“男の子”じゃなくなったとわかった。


「キスしろ」

「……」


しろ、と言いながら顔を近づけてくる玲央くん。わ、と思ったら唇が重なった。


「真似してやってみろ」

「そ、そんな……できないよ、玲央くん」


恥ずかしすぎる。頬が熱い。俺が頬を両手で押さえていると、またキスをされた。びっくりして飛び上がりそうになる。


「……仕方ない。今日は可愛い実晴が見れたことで満足ということにする」

「玲央くん……」

「送ってく」


玲央くんが俺の通学バッグを取る。もうそんな時間か。ふたりでいると時間が経つのが早い。たぶんカーテンの向こうは暗くなっている。


「隣だからひとりで帰れるよ」


わざわざ送ってもらう距離じゃない。玲央くんからバッグを受け取ろうとすると、ひょいと隠された。


「一秒でも長く一緒にいたいのは俺だけか?」

「……」


嬉しくて口元が緩んでしまう。玲央くんのこういうところ、本当に大好き。


「ううん。俺も玲央くんと少しでも長く一緒にいたいから、やっぱり送ってくれる?」

「言われなくても送る」


もう一回キスをもらってから、ふたりで玲央くんの部屋を出る。階段を下りて、玄関を出て、うちの前まで。


「また明日」

「うん。ありがとう、玲央くん」


手をぎゅっと握り合って、明日までお別れ。この後もメッセージアプリでやり取りをするんだけど、今日会えるのは最後だから。

握り合った手をじっと見る。この手を離したら、玲央くんは帰っちゃうんだよな、と思うと離したくない。でも、いつまでもこうしているわけにはいかない。玲央くんの手を見つめる。


「実晴」

「えっ」


おでこをくんっと指で押されて顔が上がる。そこには玲央くんの不機嫌顔。


「どこを見てるんだ」

「ごめん……」


頬を軽くつねられる。手が離れて、指の腹で唇をなぞられた。


「明日は期待している」

「えっ」

「じゃあな」


玲央くんは優しく微笑んでから帰って行った。




明日は期待って、俺からキスってことだよね……?

自室で真っ赤になりながら、玲央くんにキスをするところを想像してみる。

玲央くんが目を閉じて、俺から玲央くんに顔を近づけて、そっとキスを――――だめだ。想像だけでくらくらする。恥ずかしすぎて倒れそう。玲央くんはいつも簡単にするけど、すごすぎる。


カーテンを開けて窓の外を見ると、玲央くんの部屋の窓が見える。カーテンが閉まっているけど、玲央くんが確かにそこにいるんだと思うとまたどきどきして頬が熱くなる。カーテンが開いたらいいな、と少しそのまま見ていたら本当にカーテンが開いた。玲央くんが俺に気づき、驚いた後に微笑んでくれる。


「気づかれちゃった……」


これも恥ずかしい……。

玲央くんが口をぱくぱく動かしてなにか言っている。なんだろう。俺が首を傾げると、もう一回口をぱくぱく動かす。わからないので首を横に振ると、玲央くんは手元でなにかを書くような動きをして、ノートを俺に見せた。『す』と大きく書かれたページがこちらに向けられる。


「す?」


次に大きく『き』と書いてあるページを見せてくれる。


「き……」


“好き”……。

頬がかあっと熱くなる。そんな俺の反応に玲央くんは笑っている。そしてなにか思いついたような顔をしてから、もう一回『す』を見せてくれた。


「す」


それから『き』をこちらに見せてくれる。


「き」


“好き”、かぁ……。

嬉しい、と思っていたら、玲央くんがちょっと意地悪に見える微笑みを浮かべて、今下ろしたばかりの『き』をもう一回見せる。


「き?」


次に『す』をこちらに向ける。


「す……」


“キス”……!

頬だけじゃなく、耳まで熱くなる。真っ赤になった俺に、玲央くんは笑いながら手をひらひらと振っている。悔しいけど勝てない。俺も手を振ってカーテンを閉める。本当に同じ高一なのかな……?






翌日、放課後になったらどきどきでおかしくなりそうだった。玲央くんと一緒に学校を出て、電車に乗って、玲央くんの部屋に。


パタン


「わっ」


ドアの閉まる音に変な声を上げてしまう。俺の声に玲央くんが笑っている。


「実晴、来い」

「え……」

「こっち来い」


手を広げてくれる玲央くんに近づくと、きゅっと抱き締められた。玲央くんの優しいにおいがする。どきどきは落ち着かなくて、むしろもっと心臓が飛び跳ねてしまうくらいだけど、それでも心地いい。玲央くんの背中に腕を回してぎゅっと抱きつく。


「玲央くんの“好き”、嬉しかった」

「そうか」

「またやってほしいな」

「実晴がそんなに喜んでくれるならいつでも」


甘くて優しい玲央くん。ちょっと意地悪なときもあるけど、そこも大好き。


「それで、実晴も俺を喜ばせてくれると嬉しいんだが」

「え?」


顔を覗き込まれてどきりとする。ふに、と不意打ちのキスに頬が一気に熱くなる。


「実晴からのキスは?」

「えっ、えっ!?」


逃がさない、と顎を持たれてまっすぐ見つめられる。頬の熱がどんどん高まっていって、火が出そう。


「あの……」


どうしよう……。キスをしたくないわけじゃない。だけど恥ずかしくてできない。俺だって玲央くんが好きだからキスしたい。キスしたい気持ちはある。でもやっぱり恥ずかしい気持ちが大きくて……。


「……実晴は俺が好きか?」

「大好き!」


即答すると、玲央くんは俺の勢いに驚いた後に笑い出した。くしゃくしゃと髪を撫でられる。


「それならいい。実晴の心の準備ができるまで待つ」

「ほんと?」

「ああ」


よかった……。

ほっと息を吐くと、おでこを指で押された。


「でも、心の準備ができたらしてくれ」

「……頑張る」

「今すぐでもいいぞ」

「それは無理!」


真っ赤な俺の頬を玲央くんが指でつつく。優しい玲央くん。玲央くんの期待に応えたい。俺ばっかり喜ばせてもらっているんじゃなくて、玲央くんにも幸せをあげたい。恥ずかしさを乗り越えて、キスしたい。






あれから玲央くんは俺を急かさない。そして一週間経っても俺はキスをできていない。しようと思うけれど、するぞ、と思うと緊張で身体が動かなくなってしまう。そうすると玲央くんがキスをくれて、今日もだめだった――となる。その繰り返し。


でも!


今日は絶対する。だって、今日は玲央くんと付き合って半年の記念日。記念日とかは玲央くんのほうがしっかり覚えているから、今日キスをしたらすごく特別な感じがする。だからとっておいたわけじゃなくて、たまたま今日になってしまっただけなんだけど。


記念日だからと、帰りに駅前のケーキ屋さんでケーキをふたつ買って玲央くんの部屋へ。どきどきがすごいことになっている。指先が震えているし、たぶん真っ赤だ。最近の俺、ずっと真っ赤な気がする。


「実晴、あーん」

「え?」

「あーん」


玲央くんがケーキを食べさせてくれる。嬉しくて俺も玲央くんにケーキを食べさせてあげる。ケーキを食べ終わって、少しお喋りをして。いい雰囲気。玲央くんにくっつくと、肩を抱かれた。心臓がすごい動きをしている。


「玲央くん……」


玲央くんを見上げたら目が合った。玲央くんが瞼を下ろすので、俺もぎゅっと目を閉じて顔を近づける……。


した!


と思ったけどちょっと感触が違う……?

そろりと瞼を上げると顔の位置が少しずれていて、玲央くんの唇のすぐ横にキスをしていた。


「!?」


そんな……。

顔を離して項垂れていると、くくくっと笑う声が聞こえるので顔を上げる。玲央くんが笑っている。散々待たせてこれかと思われているんじゃないか。


「最高だ」


髪をくしゃっと撫でられ、唇にちゃんとしたキスが落ちてきた。俺もこういう風にしたかったのに……。玲央くんに抱き寄せられて、寄りかかる。


「ごめんね、玲央くん……」

「謝る必要なんてない。嬉しかった。ありがとう、実晴」


キスも満足にできないなんて、情けない。でも玲央くんはすごく嬉しそうにしている。玲央くんが嬉しそうだと俺も嬉しい。

その後は玲央くんからキスをたくさんもらって、ふわふわする気持ちで幸せな記念日を過ごした。






昨日は幸せだったな、とまだふわふわしながら玲央くんが待つ教室に戻る。俺は委員会の集まりがあったから、その間玲央くんは待ってくれている。少し足早に廊下を進んで教室に入ると、玲央くんとクラスメイトの山原くんが楽しそうに喋っていた。


「実晴」

「あ、実晴くん戻ってきたね。じゃあ俺は帰るかな」


まず玲央くんが俺に気づく。山原くんは俺が戻ってきたのを見て、通学バッグを持ち、教室を出て行ってしまう。山原くんは玲央くんとたまに喋ったりしていて、仲がいいと言えばいい、かもしれない。


「邪魔しちゃった?」

「いや、実晴を待っていると言ったら付き合ってくれていただけだから大丈夫だ。帰るか」

「……うん」


なんだかもやもやする。玲央くんが俺以外といたことが、俺以外と楽しそうにしていたことがあまり面白くない――なんて、すごく心が狭い。さっきまでのふわふわな幸せ気分が一気にしぼんでしまった。風船から空気が抜けたみたいだ。


「実晴? どうした」

「ううん。なにもないよ?」

「そうか?」


玲央くんにこんな醜い気持ち、知られちゃいけない。なんでもないようにして玲央くんと一緒に帰る。いつものようにお隣にお邪魔して、玲央くんの部屋に行く。

隣り合って座ったら抱き寄せられた。まだちょっともやもやがあったけれど、どきどきにかき消されてただ玲央くんの体温を感じる。


「そういえば、山原がさっき――」


山原くん……?

玲央くんの唇が俺の名前以外の形に動き、もやもやが復活する。ちょっとした話をしているだけなのに、お腹の中に黒いものが溜まっていく。


「実晴?」


玲央くんが俺の様子がおかしいことに気がついたようで、小さく首を傾げる。少し高い位置にある肩に手を置き、唇を重ねて動きを強引に止めた。俺以外の名前を呼ばないで。顔を離して玲央くんを見つめる。


「実晴……?」

「あ……」


キスしちゃった……。しかもこれ、完全に嫉妬でのキスだ。初めて俺からしたキスが嫉妬からしたキスなんて、そんなの嫌だ。

驚いた顔をしている玲央くんにぎゅっと抱きついて、もう一回、えいっとキスをする。顔を離したら、後から頬が熱くなってきた。


「……昨日のリベンジか?」

「今のは、リベンジ」


すごい勢いで顔が熱くなっていく。どこまで熱くなるんだろう。頬を手で押さえると、その手を玲央くんが取ってぎゅっと握られた。


「じゃあ一回目のは?」

「……」


言いたくない……。山原くんに嫉妬してキスしたなんて、嫌われちゃうかも……。

つい俯くと、玲央くんが握った手の先にキスをして俺の顔を上目遣いに見る。


「教えてくれ、実晴」


……そんな顔、ずるい。かっこよすぎてくらくらする。


「……一回目のは、嫉妬」

「嫉妬?」


上目遣いのまま玲央くんが聞くので目を逸らす。その角度と表情は心臓に悪すぎる。どきどきがどんどん加速していく。


「玲央くんが山原くんと楽しそうに話してたときから、嫉妬してた。それでさっき、玲央くんが山原くんの名前呼んだのが……嫌で……」

「……そうか」


呆れられたかな。嫌われたかもしれない。ぎゅっと目を閉じて俯くと、握られていた手が離されて、かわりに頬が温かい両手で包まれた。


「目を開けて俺を見ろ」

「……」


ゆっくり瞼を上げて玲央くんを見る。穏やかな瞳をして俺を見ている。呆れられていない、みたい……?


「リベンジは、昨日のリベンジか?」


問いかけに首を横に振る。


「……初キスリベンジ」

「初キスリベンジ?」


頷く。呆れられていないみたいだから、ちゃんと説明しよう。


「……俺からの初めてのキスが嫉妬からのキスなんて嫌だから、リベンジ」

「それで初キスリベンジか」


玲央くんが笑い出す。なにかおかしかったかな、と見ていたら、わしゃわしゃと髪を撫でられて抱き締められた。苦しいくらいぎゅうっとされる。


「れ、玲央くんっ」

「嫉妬する恋人はこんなに可愛いんだな」


ぎゅうぎゅう抱き締められて、玲央くんが力いっぱい喜んでいるのが伝わってくる。まさか可愛いなんて言われると思わなかった。顔が見たくなったからもぞもぞと動き、身体を少し離して玲央くんの顔を見る。


「嫉妬なんてしたら玲央くんに嫌われちゃうかと思った」

「俺が実晴を? 嫌うはずないだろう」


両頬を指で軽くつままれてふにふにと上下に動かされ、今度は俺が笑ってしまう。


「もう……玲央くん、やめて」


手が離れて、玲央くんがまっすぐ俺を見つめてくれる。


「ごめんな、嫉妬させて。話してくれてありがとう」

「ううん。俺こそ、嫉妬してごめんね」

「謝ることじゃない」

「玲央くんこそ」


なんだかおかしくてふたりで笑っていたら不意に目が合って、玲央くんが真剣な顔になる。


「実晴、嫉妬でもリベンジでもないキス、してくれるか?」

「え……」

「無理にとは言わないが」

「……」


俺も……したい。

どきどきしながら玲央くんの手を握ると、握り返してくれた。


「じゃあ……目を閉じて?」


玲央くんが目を閉じてくれる。どきどきしながら顔を寄せて、ゆっくり唇を重ねた。嫉妬でもリベンジでもない、ちゃんとしたキス。唇を離して瞼を上げると、俺より少し遅れて玲央くんが目を開ける。


「好きだよ、玲央くん。大好き」

「俺も実晴が大好きだ。実晴からのキスは幸せだな。また欲しい」

「うん……玲央くんみたいに簡単にはできないけど」


俺の言葉に玲央くんが笑うので、なにかおかしいことを言ったかな、と首を傾げる。


「俺が簡単にしていると思っていたのか?」

「? うん」

「毎回心臓がおかしくなるくらい、どきどきしているぞ」

「えっ、本当!?」


玲央くんがどきどき!?

顔にも態度にも全然出ていないけど……。


「本当だ。実晴にキスをするのに、簡単になんてできない」


頬を撫でられる。玲央くんも俺と同じなんだと思ったら嬉しくなった。


「じゃあ、どきどきしながらいつもたくさんキスしてくれてるの?」

「実晴が好きだからキスしたいんだ」


柔らかなキス。今も玲央くんはどきどきしてるんだ、と玲央くんの左胸に触れる。確かにどきどきしてるかも。でも絶対俺のほうがどきどきしてる。


「俺も、玲央くんが好きだからキスしたい……」


もう一回玲央くんに顔を近づける。どきどきして恥ずかしいけど、俺からのキスは玲央くんの幸せだから。

そっとキスをした。



END

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