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人間嫌いの転生貴族 ~散々恋破れたので美少女に言い寄られてもなびきません~  作者: 監色共色


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第84話

 

 俺は王立クフト魔法学園の寮を後にして馬車に乗り込んだ。半年もいなかった校舎をしり目に流して次の目的地へ向かう。


 王立魔法大学前に到着した。校舎と寮の大きさはクフト魔法学園とは比べ物にならない。それでいて質素な外装には一種の威厳すら感じられる。


 大学は知識や技術を応用する場所だ。大きな建物の中には魔法の技術を研究するための機材が設置されているに違いない。


 俺は期待に胸をふくらませて入寮式に臨んだ。


 大学に入っても終わりじゃない。さっさと飛び級して研究室に入るんだ。


 頭の中にある術式を現実に落として惑星魔法の対抗策を作り上げる。そこまでしてようやく俺はおのれの責務を果たせる。


 そして迎えた登校日。俺は周りより小さな体で校舎の廊下を歩く。


 俺は十代前半。


 片や周りは十代後半。中には二十歳を超えた人もいる。巨人に囲まれた気分で教室の席についた。


 王立クフト魔法学園の一年生が飛び級してきたのは、大学設立以来初めてのことらしい。俺の存在は大いに在校生の注目を集めた。


 講義中でもひそひそ話が聞こえた。


 休み時間には男女問わず声をかけられた。


 みんな基本的には優しかったと思う。


 でも大学に通うのは貴族の子息だ。彼らが成長したらいずれ俺の知る貴族になるんだと思うと、心の小人がせっせと壁を形作り始めた。


 呼びかけられても素っ気ない返事をした。


 話を聞かれても一言二言で済ませた。


 気取っている。


 小ばかにしている。


 あれこれ言われて一週間もしない内に腫れ物あつかいが完成した。


 天才は変わってるなんて良い方だ。一部は生意気、いずれ分からせてやると意気込んでいた。


 だから俺が分からせてやった。


 実習の時だ。訓練場で実戦形式で魔法を撃ち合う際に、俺は分からせマンとペアになった。


 実習内容は魔法の早撃ちだ。


 魔法大学は研究者や学者を育てるための教育機関だが、構築した魔法を使う者の大半は軍人だ。軍人が何を考えてどう動くか、それを知らないと現場に適した魔法は作れない。


 そういった理念のもとに行われる実習だが、俺たちにとっては分からせる場でしかない。無詠唱魔法で早々に優劣をつけてやった。


 俺を分からせるはずだった男は有望だったらしい。彼に分からせた俺の名はそれまで以上に広まった。


 つまらない。


 いくら有望だろうと所詮はぬくぬく育った連中だ。実戦帰りの俺に敵うはずもないだろうに。


 大学に在籍する学生の一部は将来領地を持つ。勝ち目のない相手に喧嘩を売って領民を危険にさらすつもりか。他者の命よりも自身のプライドの方が大事なのか。


 それが貴族か?


 それが人間か?


 どうしてそうなる。他者にも感情があることを想像できないのか?


 人は辛い目に遭えば泣く。痛い目に遭っても泣く。


 それは他人も同じなのに、どうしてどいつもこいつも自利のために相手の権利を踏みにじろうとするんだ。


 やってしまった後悔を知らないからか?


 時間を戻したくても戻せない。あの無力感と絶望感、そして大切な人相手にやらかした罪悪感を植えつけてやれば少しは自重できるのか?


 俺は渦巻く感情を胸に抱いて講義に臨んだ。


 その課題としてレポートを書いた。


 内容は今の時代に必要な術式の考案。コンセプトからその理由、実現に至るまでの過程と参考文献を記載する。


 他者に疑似的な人生体験をさせる魔法。はっきり言ってオーバーテクノロジーもいいところだ。


 日本にいた時代ですらVR技術は実現されてなかった。


 双方向通信すら普及していない時代でVRは無謀だ。俺はそう思いつつも感情に身を任せてペン先を走らせた。


 俺は後日研究室に招かれた。とある教授がレポートの内容に興味惹かれたらしい。


 その人物はロッテンライター伯爵。どこかで聞いたことのある名前だけど、果てさてどこで知ったんだったか。


 どうでもいいか、貴族の名前なんて。


 俺がつらつらとレポートについて説明しているとゼミ生に驚かれた。


 彼らいわく、ロッテンライター伯爵は魔法の研究者を志す者なら誰でも知っている権威らしい。大抵の生徒は彼を前にすると落ち着きをなくすのだとか。


 そんな肩書きはどうでもいい。VRもどきに興味を示すくらいだ、どうせ俺の目的の役には立たない。


 そう思ったのもつかの間。俺はロッテンライター伯爵に研究生として活動しないかと誘われた。


 彼は俺の企画ではなく発想力に目をつけたらしい。研究の方向性も兵器運用を考えた術式の構築だ。俺が作りたい物に適している。


 俺は二つ返事で了解した。 


 放課後まで通常の講義に励み、日が沈んでからは研究室に足を運んでゼミ生の活動に混ざった。


 自由時間には魔法学関連の論文に目を通した。


 ゼミ生による研究の進捗報告はもちろん、発表会が開かれるたび積極的に質問して新たな知識の収集に努めた。

 

 休日は部屋にこもって研究企画書をつづった。


 作業がはかどらない時は公園まで散歩した。


 それも最初だけだった。ベンチが視界内をかすめるたびに白いワンピース姿の少女が脳裏をよぎって、もはや気分転換どころじゃなかった。最終的には逃げるように走って自室に戻った。


 俺は義務と責任感を奮い立たせて、何とか研究計画書を書き上げた。

 

 俺の計画書はあっさり採用された。


 ロッテンライター伯爵はちょうど大規模な破壊魔法の術式案を欲していた。


 最近遠方で魔族が大規模な破壊魔法を発動したらしい。目撃した者いわく、神の天罰にも等しい見た目と破壊力だったそうだ。


 危機感を覚えた王や諸侯に術式の完成をかされている。そんな状況での俺の計画書は渡りに船だったようだ。

  

 その日から術式の開発が始まった。ゼミ生の一部が研究を中断して、俺の術式開発をサポートする側に回った。


 研究中断を余儀なくされて疎まれるかと思いきや嫌な顔はされなかった。卒業論文さえ完成すれば後はどうでもいいのだろう。


 仮に術式の名をストラクトとした。魔法のコンセプトは長距離射撃だ。


 もちろんこのコンセプトは嘘。本当の狙いは惑星魔法の発動妨害にある。


 俺が危惧するのは惑星魔法による一方的な蹂躙じゅうりん。逆を言えばそれさえ防げれば何でもいい。 


 ストラクトに地形を変える威力は必要ない。惑星魔法の発動を妨害できれば虐殺は起こらないんだ。魔王国も侵攻に対して及び腰になる効果が期待できる。


 俺は重力魔法に反応する術式を編み上げた。


 魔族は闇属性の魔法をあつかう。闇属性に反応する術式では誤作動が頻発して本命を止められない。


 そこで俺は惑星魔法の特性に目をつけた。


 惑星魔法は惑星と衛星の箇所を持つ。


 衛星箇所は大気中をぐるぐる回って、時間を経るごとに多くの魔素を吸収して巨大化する。


 巨大化すれば魔素自体の重みも無視できない。大量の魔素をつなぎとめるために、術式が衛星の魔素を自動消費して重力魔法の出力を引き上げる。


 重力魔法は燃費が悪い。魔族でも高出力の重力魔法を行使することはめったにない。


 そこで一定以上の出力を感知した際に、その重力魔法があるポイントを自動で砲撃する。衛星箇所を破壊して惑星魔法を不発に終わらせる仕組みだ。


 重力魔法の行使は禁忌。魔法大学でもデータが足りていない。


 知見がなければ権威のある教授もただの人。俺が秘密裏に組み込んだ術式は誰にもばれない。


 やがて術式のプロトタイプが完成した。


 俺は試射に備えて研究室で待機した。教授と論議しながら待ち人を待つ。


 ストラクトは表向き大規模な破壊をまき散らす魔法だ。重力魔法による魔素収集が行えないから発動者は相当量の魔力を消費する。


 簡単に試射できる術式じゃない。魔王国での試運転にはリティアに協力してもらったが、今日は何十人の軍人を迎えることになるのやら。


 胸の奥がチクッとする。


 最近はよくリティアのことを思い出す。当時のように術式研究に勤しんでいるせいだろう。


 視界の隅で黒いものが揺れる。


 俺自身の髪だ。長らく切ってないから柳の葉じみて映る。


 最後に見たリティアもこのくらいの長髪だった。彼女はまだ軍人をしているんだろうか。両親を殺された復讐に燃えて、血眼ちまなこになって俺を探しているだろうか。


 俺は何をしたら彼女に償えるんだ。


「ニーゲライテ君。君は本当に優秀な子供だな」


 ロッテンライター教授に呼びかけられて、俺は思考を中断した。


「教授のご指導のたまものですよ。教授が俺のレポートに注目してくださらなければ今はありませんでした」

「そのわりに全く嬉しそうじゃないな。魔法を探求する者としては、せめて自分の研究成果は笑顔で発表してほしいものだが」

「無理ですよ。嫌いな物を笑顔で発表するなんて」

「興味深いな。魔法が嫌いならば何故この道を志した」

「今の人類には必要だと考えたからです。それ以上でも以下でもありません」

「そうか。ではニーゲライテ君、ストラクトを完成させた後はどうするつもりかね」

「とりあえず大学は卒業します。その後は……そうですね、故郷の風景でも拝みに行きましょうか」

「君はニーゲライテ領出身だったな。魔法学園に入る前は放浪していたと聞いたが、さぞ家族も心配しているだろう」

「してませんよ。俺は親不孝な子供ですから」

「そうか。だが親不孝でも親のことは気になるのではないか? 近辺で物騒な動きもあると聞くしな」


 物騒? 


 その疑問が口を突く前に、ドアの向こう側でノック音が三回鳴った。


「お、来たか」


 教授がチェアから腰を浮かせてドアに歩み寄った。開かれたドアの隙間から廊下に立つ人物が顔をのぞかせる。


 息が詰まる。


 まるでそびえ立つ崖を目の当たりにしたような圧迫感。魔法学の権威にすら興味を持てなかった俺でも否応なしに視線を引きつけられる。 


 この男を知らねばならない。俺の本能がけたたましく警笛を鳴らしている。


 恐怖は無知から生まれる。そう言い残した哲学者は誰だったか。


 俺はまさしく、入室して敬礼する男性に恐怖していた。


「術式開発の要請を受けて参上した。王認勇者ヴァラン・アストレイカーだ」


 顔に火傷の痕を残した掘りの深い顔が、聞き捨てならないワードとともに名乗りを上げた。


満を持して勇者登場です!


ちなみに初めてロッテンライター伯爵の名前が出たのは5話です

出ていたのは名前だけなので覚えていた方はすごい!

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