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人間嫌いの転生貴族 ~散々恋破れたので美少女に言い寄られてもなびきません~  作者: 監色共色


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第83話


 俺は重力に身を任せて落下する。同級生の顔が遠ざかって視界内が薄暗さを帯びる。


 俺は両手で耳をふさぐ。


 数秒遅れて破裂音が鳴り響いた。体がふわっと浮き上がってまた落下する。


 周囲の地面より低い位置に背中がついた。俺は上体を起こして、万能反応装甲の発動でできたクレーターから這い上がる。


 ズゥ……ンと鈍い足音が連続する。


 足音が迫ってくる。こちらの居場所がばれているようだ。


 地面を爆発させたから当たり前だけど。


「さて、始めるか」


 俺は嘲笑する小宇宙(コズミック・パワード)を構える。


 木々の倒壊をファンファーレにして毛むくじゃらの巨体が現れた。


 丸太のごとき両腕に異常発達した牙。目は薄紫に発光して生物味に欠ける。


「ビシェンドマルクか」


 膂力りょりょくに特化した調整がなされた魔物。生半可な攻撃は体毛と外皮に遮断されて通らない。

 

 だったら強力な魔法を当てればいい。俺は杖の先端を魔物に向けて、宙をいくつもの氷の砲弾で飾る。


 その数十発。幅一メートルほどの大きなかたまりが高速回転する。


 氷弾アイシクルショットを改善した氷砲弾(ブリザードシェル)。回転を受けて弾道安定と威力向上をなされた魔法が巨大な猿に殺到する。


 毛むくじゃらの腕が動いた。


 反応が早い。さすがに戦闘用の調整がなされた魔物だ。


 しかし腕による防御は四発でくずれた。残りの砲弾が連続で頭部を打ちすえる。


 巨体が仰向けになって地面を均す。


 第二射を準備するもののビシェンドマルクは動かない。


 耳を澄ませて呼吸の有無を確認すること数分。そーっと歩み寄って魔物の瞳孔を確認する。

 

 ビシェンドマルクは息絶えていた。俺は安堵の息をついて崖の上を仰ぐ。


 崖を登って戻るには高さがある。


 助けを待つにも俺の居場所を知ってるのはパーモルデたちだ。自力で上がれる道を探した方が賢明か。


 何なら魔法で地形を変えてもいい。森に住む生き物には悪いけど、俺にはやらなきゃいけないことがある。


 俺は上を目指して足を前に出す。





 歩いた先で坂を見つけた。上った末に同学年と合流できた。


 俺を見てパーモルデたちがぎょっとしていたけど、突き落とされたことを証明する証拠もない。


 俺は教官に魔物と遭遇したこと、それを討伐した場所と使用した魔法についてだけ報告した。


 実習があった三日後の昼頃。報告書に文字を書き連ねていると教員に呼び出された。学園の門前に立派な馬車が停まっているそうだ。


 待っているのが王の近衛と聞けば断れない。俺は学園を後にしていつぞやの騎士とあいさつを交わした。


 馬車に乗り込んで騎士といつぞやのごとく雑談にしゃれ込む。


 車両に揺られての移動をすること数時間。窓の向こう側にきれいで大きな建物が映る。

 

 なつかしい。王城を拝んだのは、まだニーゲライテの屋敷を拠点としていた頃に叙爵じょしゃくして以来だ。

 

 当時と違うのは後見人の父がいないことか。今なら俺一人でどうにでもなるから問題はないが。


 あの時と違って今回は陞爵しょうしゃく。強力な魔物をほうむった功績をたたえられて俺は男爵の位を得た。


 図らずもオイデイン兄さんと同じ男爵。ニーゲライテ領に戻ったらオイデイン兄さんからやっかみを受けそうだ。やっぱり実家には戻らなくていいや。


 ビシェンドマルクの遺体と引き換えに金貨もたくさん受け取った。


 魔物の亡き骸は研究に使われるそうだ。王に今後の予定を問われて、俺は術式の開発者として王国に貢献したいと告げた。


 王との謁見を終えた。俺は行きと同じ馬車に揺られて元来た道をたどる。


 その間物思いにふける。


 今回の件は何か引っかかる。心にもないことだが、あまりにも俺に都合が良すぎる。


 たまたま実習の場に強力な魔物が潜んでいた。


 たまたま崖から落ちたのが俺で、魔物と遭遇したからこれを討伐したらその功績で陞爵した。そんな偶然が連続して起こり得るのか。


 俺が崖から落ちたのはパーモルデたちのせいだ。


 連中に疎まれる理由には覚えがあるけど、俺とパーモルデの一味は名簿番号が離れている。そもそもあいつが俺との実習を望むわけない。


 学園側も俺とパーモルデが仲たがいしていることを知っている。


 伯爵子息と特待生の俺に嫌がらせをするメリットはない。俺とパーモルデが同じグループに押し込められたのは不自然だ。


 もしや狙ったのか? 

 

 それこそまさかだ。


 下手をすれば死人が出ていた。そこまでして俺との関係強化を図ったなんてうぬぼれにも程がある。


 でも一度考え出すと止まらない。


 父、ロールレイン、フランスキーの伯爵にクランシャルデ。貴族という生き物が物事をどう考えるか、俺はよく知っているじゃないか。


 俺はパーモルデを頭の悪い奴だと思っていたけど、彼も手の平の上で転がされた哀れな子供だったのかもしれない。






 俺は学園に戻るなり王立魔法大学への飛び級を提案した。


 日数を経て試験が行われた。テスト用紙に連ねられた問題は一年生じゃ答えられないものばかりだった。


 俺にとってはすでに習った内容ばかりだ。むしろ難しい応用問題がなくてあくびが出そうだった。


 後日王立魔法大学への飛び級が承認された。


 俺は寮を出るべく私物をバッグに突っ込む。


「もうお別れなんだね」


 ルームメイトの寂しげな声色を耳にして振り向く。


「ああ。お別れだ」

「まさか一年も経たずに大学へ行っちゃうなんてね。ニーゲライテさんがすごい人なのは知ってたけど、ここまでとは思わなかったよ」

「ここにいても仕方ないからな。授業も既知の事柄ばかりで退屈なんだ」

「そっか。なら仕方ないね」


 アドリアンさんが視線を落とす。


 予想外の反応だ。彼に対して恩を売った覚えはないのに、まさかここまでなつかれているとは。


 そんな顔されたら、まるで俺が悪いことをしたみたいじゃないか。


「アドリアンさん、パーモルデに伝言を頼まれてくれないか」

「うん。いいよ。何て伝えればいいの?」

「おかげで陞爵できたから気にするなって」

「おかげでって、実習の時にパーモルデさんが何かしたの?」

「ああ。俺の背中を押してくれたんだ」

「そうなんだ。意外だね、あの人が誰かを励ますなんて」


 嘘は言っていない。パーモルデに背中を押されたのは事実だ。


 言伝ことづてで役に立てると思えばアドリアンさんも気持ちの整理ができる。これでルームメイトとはお別れだ。


 俺はバッグを持ってドアに向かう。


「またねニーゲライテさん」


 俺は足を止めて振り向く。


 またねか。アドリアンさんに再会する日は本当に来るんだろうか。


 それでも期待のにじむ笑顔を壊したくなくて、俺は口角を上げてオウム返しした。

以下今回の裏話です

王は叙爵した時からカムルを小姓にする予定でいました

世界観的にこの誘いを断ることは非常に困難であり、これが成っていたならカムルは心が死んだまま生きる羽目になっていたでしょう

そうならなかったのは、カムルを養子にと考えたクルエスタ辺境伯のおかげです。いくら王でも国に多大な貢献をしてきた辺境伯の願いを無碍にはできなかったのです

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