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人間嫌いの転生貴族 ~散々恋破れたので美少女に言い寄られてもなびきません~  作者: 藍色黄色


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第75話


 前方に目的地が映った。


 テントが群生キノコのごとく設置されている。拠点を構えてどっしり戦っているようだ。


 馬車が止まって地獄の沈黙から解放された。土の地面に靴裏をつけるなり駆けて気まずい空間から脱する。


 キャンプの群生地に踏み入った。受付をすませて、目についた人にうかがいを立てて本部の場所をたずねる。


 俺は騎士爵の位を持っている。貴族として一応はあいさつしておかないと。


 すれ違う人々はいずれもどこかに包帯を巻いている。


 覚悟はしてきたけど生易しい戦場ではないようだ。獣や魔物からすれば住み家を侵略されてるわけだし、そりゃ死に物ぐるいにもなるか。


 俺は近衛兵との接触を経て辺境伯のテントに案内された。

 

 応対したのは髪に白髪の混じった男性。思ったよりも年を取っている。疲れた顔をしているからなおさらそう映るのか。


 辺境伯の地位は他の爵位と比べて荒事にまみれている。 


 名の通り辺境を治める貴族だ。境界線付近に位置することもあって戦争で前線になりやすい。


 それゆえに公爵にも等しい権力を持たされて国境を防衛する義務を担う。国によっては公爵よりも強い権限を持つと言うのだから驚きだ。


 しかし前線になることは落命のリスクが高いということでもある。平均在職期間は十年程度と言われる。


 歳月を重ねてもなお辺境伯である事実は、彼自体が猛者であることの証だ。


「お初にお目にかかります。ニーゲライテ男爵の三男、カムルと申します」

「よく招集に応じてくれた。辺境伯のクルエスタだ」


 男性が微笑む。


 思っていたよりも気さくな人物のようだ。貴族の中には格下を見下す者も多いけど、この人からはそんな傲慢さを感じない。


「ニーゲライテのカムルと言うと、エンシェントドラゴンを追い返したあのカムルか。ジマルベスにおもむいてから消息不明と聞いていたが、今までどうしていた」

「放浪の旅をしておりました」

「実になるものはあったか?」

「ええ、まあ」


 自然と視線が泳ぐ。


 ぼろを出す前に本題に入るか。


「カルヴァン辺境伯。現在の状況をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「よかろう。こちらへ来なさい」


 進んだ先には大きなテーブル。天板の上には大きな地形図が広げられている。


 俺は辺境伯のとなりで説明を受ける。


 目的は奥にある鉱脈。その障がいとなっているのはやはり魔物。

 

 王に開拓を命じられてから土地開発を進めているものの、森に住まう魔物が予想を越えて屈強だった。冒険者を駆り出してなお戦闘が続いていることからも戦況の難しさがうかがえる。


 中でもカルヴァン辺境伯の頭を悩ませているのは、魔法を行使する魔物と地形のシナジーだ。


 奥へ踏み込むためには高所へ進軍する必要がある。


 それは同時に、高所から攻撃してくる魔物を下から迎え撃たなければならないことを意味する。


 基本的に戦いは高所が有利だ。周りをよく見渡せる上に重力を味方につけられる。高所を取った側は岩を投げるだけでも強い。


 加えて魔物が飛ばすのは魔法。攻撃の余波で爆発した瓦礫がそのまま降ってくる。体勢をくずして転がり落ちれば戦闘不能待ったなしだ。


 前進すると軍や冒険者に多大な被害が出る。少しずつ遠くから魔法で撃ち抜く戦法に切り替えて今に至る。


「それは確かに難所ですね」

「ああ。高所を取られているせいで遮蔽物も使えない。多くの死傷者を出したのに戦果を持ち帰れない自分が情けなくなるよ。せめて地形ごと変えられるような魔法があれば話は早いんだが」

「地形を変える魔法、ですか」


 あるにはある。すさまじい威力を秘めた魔法だ。行使すれば状況は間違いなく変わる。


 でも、またアレを使うのか。


 意図せず両手を固く握りしめる。

 

「何か心当たりがあるのか?」

「それは……」


 言葉が続けられずにうつむく。


 相手は辺境伯。下手な態度を取ると立場を悪くする。


 それにカルヴァン辺境伯はすごく疲れた顔をしている。


 多くの被害を出してなお状況を変えられない現状にもどかしさを感じている。


 状況は違えど多くの死傷に関わった点は共通する。


 戦果を出せない申しわけなさ。


 大きな被害を出した慙愧ざんきの念。


 全て覚えがあるところだ。死傷者が魔族ではなく人間という点では俺よりもつらい立場にある。


 惑星魔法は使いたくない。


 でも力になってあげたいと思う気持ちもある。


「何か事情がありそうだな」


 納得したような声色を耳にして視線を上げる。


 怒鳴られるかと思ったものの、カルヴァン辺境伯の表情は変わらず微笑だった。


「分かった、無理には聞かない。だがここに来たからには作戦に参加してくれるんだろう?」

「はい。もちろん」 

「おそらく君はメイジ班に配置される。エンシェントドラゴンを追い返した君がいてくれて心強いよ。頼りにしている」

「痛み入ります」


 俺は一礼して辺境伯のテントを出る。


 戦場の状況を知ってもなお心は晴れない。


 早く依頼をこなして街に戻れますように。それだけを願う。

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