第73話
俺は翌朝になって散歩に興じた。
夫妻いわく、あの三人組は早朝から警備に当たるらしい。
俺はあいさつの体で接触を図った。
前衛二人に杖持ちが一人。後から加わった男性はツメを模した武器を身に着けていた。
「面白い武器ですね」から始めて話をふくらませた。男性は当初得意げに語っていたものの、試しに振らせてくれと頼んだら秒で断られた。
俺はわざといぶかしむような言動を取った。がんばってくださいと言い残して場を離れる。
次に夫妻から聞き出した場所に足を運んだ。
初めて死人が出た現場。血や遺体は噴き取られている一方で、建物に残ったツメ痕は残っている。
背中越しに視線を感じながら痛々しい痕跡をじっと観察した。
民家には戻らない。熱い視線を受けながら先日購入した硬いパンをもぐもぐした。
お腹を満たしてから獣が出ると言われる山に立ち入った。
樹木を視界の隅に流すこと数十分。後方で小さな詠唱が始まった。
「ストーンバレット!」
破裂音が鳴り響いた。
万能反応装甲が反応した証だ。俺は襲撃者たちの顔面を見すえる。
三人組はぽかんとしていた。
「な、何だ今の爆発。確実に不意を撃ったはずなのに」
「お、俺が知るかよ! いいから早く撃ち殺せ!」
あわてふためく三人を前に嘆息した。
「必死だな。マッチポンプが村人たちにばれるのはそんなに怖いか」
「な、何のことだかな」
「魔法で獣に化けたんだろう? そこのツメ使いがさ。武器の形状と現場に残っていたツメ痕が完全に一致してたぞ」
変化の魔法は自在に変化できないものの、自身を獣に置き換えることはできる。リティアやその両親がやったことの逆をしたわけだ。
ツメ使いに魔法をかけて二人が村に入り、獣を装った男性が襲撃した。
それを追い返せば晴れてヒーローの誕生だ。後は隙を見て変化の魔法を解除し、遠くから呼び寄せたと言って合流すれば事足りる。
獣は怪我のリスクがある狩りを避ける。この三人がいるから獣に襲われないと信じ込ませるのは容易い。
「そこまで知られたからには、何が何でもここで死んでもらうしかねえな」
残る二人もそれぞれの得物を構える。
獣に襲われたふうを装う気もない。明確な悪意がピリピリと空気を緊張させる。
悪意を向けられたのはグラネでゴロツキと遭遇した時以来か。こんな辺境でずるい真似をしているくらいだし、大して強くもないんだろう。
手始めに氷のかたまりを飛ばす。
杖を握る男性の首から下が氷で固定された。
「てめえ!」
残る二人が駆け寄る。
さすがに速い。魔法で身体能力を上げているようだ。ツメ使いの方は獣のふりをしたわけだし当然と言えば当然か。
俺は瞳の辺りに薄い膜をイメージしてまばたきする。
妖精の眼。魔王国での格闘訓練では多用したが、命を懸けた状況でこれを使うのはリッチと戦った時以来か。
尋常ならざる身体能力を誇る相手は例外なく魔力を行使している。魔族ですらも妖精の眼で見ると体内に魔力の流れが映る。
逆を言えば魔力の流れを読むと動きを予想できる。
力を込めた箇所の筋肉には血が集まるように、魔力が集まる箇所を見れば攻撃手段を先読みできる。
俺は二人の攻撃をさばきつつ隙を探る。
攻めの空白を突いて急所に拳を突き入れた。一人目が武器を落として地面に両ひざをつく。
二対一でこの結果。残る一人を鎮圧するまで五秒とかからなかった。




