第7話
「何だ⁉」
ウィンドウから顔を上げて周囲を見渡す。
声が上がった方向へと走る。
前方でうなり声のようなものが聞こえた。さっき作った魔法を使ってさらに足を進める。
進んだ先に半壊した馬車が転がっていた。鎧を着込んだ二つの人型と五匹の獣が地面に伏せている。
そのさらに奥には三つの影があった。
二つは四足歩行の獣。
もう一つは華やかな衣装を身にまとっている。金色の長髪がきれいだけど、その表情はおびえに染まっている。
助けなきゃ。
そう思った時には手をかざしていた。
「氷弾」
水色の閃光が起こる。
四足歩行の獣が振り向いた直後に一つの命が失われた。
「グルアッ!」
残った一匹が地面を蹴る。
せっかくだから寄らせてみた。獣が牙をむき出しにする。
鋭利な牙が迫った瞬間爆風が起こった。
一方向に向けられた魔法的な風が獣の突進を押しとどめる。
【爆発反応装甲】。周りに張りめぐらせた魔力のセンサーが反応して、一方向に【爆風】を放ったのだ。
距離が空いた隙に再度氷弾を放つ。
断末魔に遅れて二匹目の獣が地面に倒れた。
「完璧だ」
爆発反応装甲はしっかりと作動した。
魔法万歳! プログラミング万歳!
おっと、歓喜に浸ってる場合じゃなかった。
「大丈夫ですか?」
あふれ出る歓喜にふたをして少女に駆け寄る。
少女は無事だった。
最初は俺を怖がったけど、敵意がないと知るなり微笑んだ。
少女は馬車で移動中に襲われたらしい。
護衛が立ち向かったものの、連携の取れた動きに翻弄されて鎧の間を裂かれたそうだ。
俺は少女をお屋敷まで案内した。
両親はすごく驚いていた。
少女は伯爵令嬢ラピア・フランスキーだった。フランスキー伯爵の令嬢で、元々俺たちの屋敷を目的地にしていたらしい。
きれいな身なりをしていると思ったけど、まさかお嬢様だったとは。
それも伯爵の。俺は何かそそうをしなかったかと、道中の対応を振り返る羽目になった。
ショックを受けて休んだラピアに代わって、俺が父に森であったことを説明した。
父は首をかしげた。
父いわく、あの獣は普段人を獲物に定めないそうだ。
そうでなくとも知能が高く、群れに犠牲が出ると判断した狩りはしないのだとか。仲間が五匹死んでも狩りを続行なんて例がないらしい。
そんなことを言われても実際に襲われたんだ。獣の習性なんて知ったことじゃない。
でももしラピアの馬車を襲ったことに意味があるとしたら、そこにはどんな意味があるんだろう。