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人間嫌いの転生貴族 ~散々恋破れたので美少女に言い寄られてもなびきません~  作者: 藍色黄色


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第68話


 リティアの両親の遺体が見つかった。


 リティアが落ち着いてから手分けして遺体を集めた。埋葬して黙とうし、グラネを出てリティアを宿舎まで送った。


 本当は一緒にいてあげたいけど、俺には話を聞かなきゃいけない人がいる。じっとしていると腹の底が煮えくり返りそうだった。


 リティアからのお礼を作った微笑で受け取って、玄関のドアが閉められるなり床を蹴った。

 

 竜車に揺られるよりも魔法の補助を受けて走る方が速い。リッチが全力疾走するのは不自然なんて理屈をかなぐり捨てて、ひたすらに腕と脚を振り乱した。


 目的地までたどり着く頃には日が落ちかけていた。


 風魔法を応用して大きな門を飛び越えた。玄関の扉を勢いよく開け放って階段を駆け上げる。


 執務室のドアをノックせずに開け放つ。


 普段通りの笑みがチェアの上にあった。


「あら、お帰りなさいカムル。お菓子は買って来てくれた?」

「買いましたよ。爆風で吹っ飛ばされましたけどね」

 

 俺は変装用途の仮面を投げ捨てて距離を詰める。


 我ながらすごい顔をしている自覚はあるのに、クランシャルデは微笑みをくずそうともしない。


 それがさらに神経を逆なでする。


「クランシャルデさん。今日のこと、知ってたんですね」

「ええ」


 言いよどみもしなかった。


 胸の奥で噴き上がったものが言葉となって口を突いた。


「どうしてグラネを砲撃したんですか⁉ あの場所にはたくさんの魔族が住んでいたんですよ!」

「勘違いしないでほしいわね。砲撃を行ったのは軍よ。私じゃないわ」

「どうして教えてくれなかったんですか」

「教えたところで間に合わなかったから。本来今日は試射の予定じゃなかったの。ただあまりにいい天気だったから、試射するなら今日しかないって軍が強行したの。快晴だと魔法の威力を視認しやすいからね」

「だからって何でグラネなんですか⁉ 海面とか人類軍とか、試射対象はいくつもあるでしょう!」

 

 そうすればリティアの両親は死ななかったのに!


 グランシャルデが深く息を突く。


 バツが悪そうにすると思っていたから意表を突かれた。


「実はねカムル君。軍は前々からグラネに住む魔族の一掃を画策していたのよ」

「は、どうして」

「やりすぎたのよ彼らは。グラネに追いやられた魔族を哀れむ魔族もいる。けれどそれ以上に憤りを感じている魔族の方が圧倒的に多いの。当然よね。平気で物を盗むし、法を犯しても悪びれもしないし、あげく他者の善意を削り取って私腹を肥やそうとする。そんな連中は国のガンよ。消し飛んでよろこぶ魔族はたくさんいるわ」

「グラネにだって優しい個体はいましたよ! 事情があってあの場所にいた魔族だっていたのに!」


 他の連中がどうだったかは知らないけど、少なくともリティアの両親は虐殺されるべき魔族じゃなかった。


 他の魔族だって、不幸で心が擦り切れていただけかもしれない。手を差し伸べれば真っ当な生き方に戻ろうとする個体もいたはずだ。


「そうね。個々で事情はあったでしょう。悪い魔族ばかりではなかったかもしれない。でもそれがどうしたの?」

「は?」


 すっとんきょうな声が口を突いた。


 クランシャルデさんが落ち着いた様子で言葉を紡ぐ。


「あなたがグラネの住人に肩入れしているのは分かる。義憤に駆られるのも理解はできるわ。けれどその感情は無意味で無価値なものよ」

「そんなこと」


 クランシャルデさんが体の前で手の平を打ち鳴らした。


「分かった。じゃあったかもしれない未来を思い浮かべてみましょうか。グラネに住む魔族を助けたいと発して募金が集まったとする。目的をなすには人手と費用が圧倒的に足りないけれど、奇跡が起こって天からお金と働き手が降り落ちたとする。それでどうするの?」

「どうするって、まずは人数分食料を運んで、いやその前に運ぶための道を確保するのが先か。えっと……」

「じゃあそこも摩訶不思議まかふしぎパワーでどうにかなったとするわ。食料が生き渡って環境が整った。後は職をあっせんできれば満足?」

「え、ええ」

「浅いわね」


 冷たい声色にピシャリと告げられて口をつぐむ。


 ここで引くわけにはいかない。俺は負けじと口を開く。


「浅いって、何がですか?」

「先見性の話よ。生活水準が上がったところで彼らは目についた物を必ず奪う。公共物だろうが他人の所有物だろうがお構いなし。銅や鉄が売れるなら器具を壊すし、木材が売れるなら木造の建物を破壊する。当然よね、彼らはそうやって生きていたんだもの。森羅万象は自らの欲を満たすためにある。本気でそう思い込んでいるから害することに迷いがないし、思考パターンが違うから言葉が意思疎通のツールにならない。分かるかしらカムル君。本当に救いが必要な者はね、私たちが救いたい形をしていないのよ」


 元いた世界でも聞いたことのある話だ。


 外国のどこだったか。支援が必要ということで世界各国が寄付を募った。発展に必要なコストを負担して工事に勤しんだ。


 まさに無償の善意。そんな施しに対して、原住民はどんな対応をしただろう。


 はっきり覚えている。彼らは作られた先から壊して金目の物を換金した。何度注意してもそういった行為が止まらなくて、工事を進めてもすぐ破壊されて形にならなかった。


 他にも横行する賄賂や不安定な政治など発展を妨げる要素は枚挙にいとまがない。発展にはお金が必要なのに、リスクが高いとして投資家から敬遠される始末だ。


 多くの人々は盗みや破壊行為を嫌う。かわいそうと思っていた人々も駄目だこりゃとさじを投げる。


 救いたい形をしていない。その言葉の意味が少し分かる気がして俺は反論できなかった。


「ごく少数を助けるために多数のバケモノを受け入れたら間違いなく治安が悪化する。受け入れるべきと主張した者は恨まれるし、許可を出した魔王に不満を持つ者も現れる。好機と見た派閥がクーデターを企てて国が乱れるかもしれない」

「可能性の話でしょう」

「残念ながら実話よ。少し前まで、この国のトップはあなたみたいな優しい王様だったの。彼はグラネの人々にも生きる権利はあるとして色んな政策を行った。でも多くの民が不満を募らせて、ある日クーデターが起きた。優しい王様は処刑されて、過激派の心を射止めたカリスマがトップに立った。それが今の魔王よ」


 ハッとして目を見開く。


「まさかあなたは、惑星魔法を作らせるために俺を魔王国に誘ったんですか?」

「それも理由の一つね」


 俺はくちびるを噛みしめてうつむく。


 バカだった。認められたからうれしくなって、この人を疑う視点に欠けていた。

 

 人類を敵対視する魔族が、何の見返りもなく人間に良くしてくれるわけないのに。


「何も自身を責めることはないわよ。あなたのおかげで長年この国を悩ませてきた問題が解消されたんだもの。それに彼らは、最期の最期で魔法の開発に役立った。誰からも疎まれる彼らがみんなの役に立てたのよ。これは一種の救いと言えるんじゃないかしら」


 グラネの惨状が想起される。


 救い?


 建物も、住んでいた人も、何もかもが消し飛んだあの光景を見て救いだって?


 分からない。この人の言ってることが分からないし分かりたくもない。


 気持ち悪い。

 

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いきもちわるいきもちわるいきもちわるいキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイ――。


「うっ」


 喉奥から込み上げる物を感じて駆け出す。


 この世界に来て初めて嘔吐した。


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― 新着の感想 ―
これはつらい…。 クランシャルデさんの言っていることは一つの正論ですが、それを別種族の、しかも精神的に安定しているとは言い難い学生を騙すとは言わないまでも、良いように転がして連れてきてやらせるのは邪悪…
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