第67話
欝展開注意!
伏線は散りばめてきたつもりですが覚悟してお読みください
リティアと合流して竜車に揺られた。ガハ区でクランシャルデさんに指定されたお菓子を購入して再び乗車する。
窓の向こう側に見える店舗が視界の隅に流れた。
「今さらだけど水竜ってお菓子好きなのか?」
「私は好き。どうして?」
「いや、竜って聞くと肉を食い散らかすイメージがあるから」
「私そんなことしないもん」
リティアが小さくほおをふくらませる。
俺はあわてて両手をかざす。
「他意はないんだ。水竜って魚を主食にしてたんだろ? 人間と同じ趣向なわけないよなと思ってさ」
「お菓子は好きだよ。両親も甘いものは好きだと思う」
「そ、そうか」
紫の瞳が窓の向こう側に向けられる。
すねられてしまった。これからリティアの両親に会うのに困ったな。
何か関心を引ける話題はないだろうか。
視線を右往左往させて、座席に乗っかっている細長いものが映る。
透明感のあるリティアのしっぽ。そういえばまだ触ったことなかったな。
「このしっぽってさ――」
言いながらぎゅっと握る。
「ひゃっ⁉」
ひんやりとした感触に遅れて華奢な体が跳ねた。反射的にしっぽから腕を引く。
しっぽがリティアのひざ上に乗っかる。
変な声を上げたからか、リティアの白いほおが紅潮する。
「そんな乱暴にしないで」
「ごめんごめん。竜のしっぽってがんじょうなイメージがあったからつい」
「この姿の時は繊細なの。普段誰かに触らせないし、急に触られるとびっくりする」
「以後気をつけるよ。触らないようにするから許してくれ」
「そっとなら、いいよ」
思わず目をぱちくりさせる。
上目づかいの視線が左に逃げた。小さな横顔が見る見るうちに赤みを増してうつむく。
何だか変な気分になってくる。しっぽを触るだけなのに、数段階スキップしたことをするみたいじゃないか。
運転席の方でコホンと咳払いする音が上がった。
俺は我に返って、照れ隠しに窓の外に意識を向ける。
「今日はいい天気だな!」
「そ、そうね! いい天気!」
竜車の移動の音だけが聴覚を刺激する。
結構な時間が経ったのにいまだ頭の中は真っ白だ。
何か、何かないのか? 話題になりそうな何か!
思考をめぐらせる内に竜車が止まった。
いつの間にかグラネのすぐ近くまで来ていた。竜車から降りた正面には立ち入りを警告する看板が立っている。
竜車が元来た道を引き返す。
荷車が小さくなって、やがて見えなくなった。
行こうか。
そのたった一言が口にできない。視線を合わせることもできずに時間が過ぎる。
どうしようこの空気。こんなことならしっぽに興味を示さなきゃよかった。
「外明るくなってきたね」
リティアが言葉を振ってくれた。
乗るしかない、このビッグウェーブに。
「そうだな。雲でも晴れたのかもな」
……雲?
あっただろうか。今までの道のりでそんなもの。
屋敷を出た時も、菓子を買って店舗を出た時も青一面の快晴だったような。
見間違いだったか? そう思いながら天を仰ぐ。
雲があった。
すごく大きい。立ち入りを禁止する看板の向こう側でじゅうたんのように広がっている。
あふれ出る光が雲を割いた。隠し切れなくなった輝きが雲を薄れさせて自身の存在を主張する。
「何だあれ」
太陽じゃない。大きな球体が空で輝いている。
嫌な汗が背筋を伝う。
あの球体、すごく見覚えがある。
いや、でもまさか。
だってここは魔王領だ。民に向けてあんなもの撃つわけが……。
雲からもう一つの球体が顔を出した。回り込むようにしてカーブして、その先でまた雲に隠れる。
「リティア!」
確信して同伴者に飛びかかった。
説明している時間はない。きょとんとするリティアを地面の上に押し倒す。
振動が響き渡る。
一瞬で視界が濁った。響き渡る爆発音に混じって破裂音が連続する。万能反応装甲が何かに反応して俺たちを守っている。
どれだけ時間が経っただろう。震動と破裂音が収まって空間が静まり返る。
俺は立ち上がって魔法で風を巻き起こした。渦を巻く強風が視界を握らせる要因を吸って景観をクリアにする。
「大丈夫かリティア」
「う、うん」
繊細な腕を引いて同伴者を立たせた。
「一体何、が」
振り返って目を見張る。
グラネの街が瓦礫の山に変わり果てていた。
無事な建築物なんて一つもない。植物も、地面も、何もかもがその原型を失っている。奥の方は濁ってよく見えない。
「なに、これ……」
リティアが口をわななかせて走り出した。
「リティア!」
あわてて追いかけるものの、小さな背中が少しずつ遠ざかる。
さすがに身体能力が高い。とても生身じゃ追いつけない。
魔法で膂力を強化した。つむじ風を先行させてせき込むリティアと肩を並べる。
光景が変わりすぎて自分がどこにいるか分からない。これは本当に現実なのか?
信じたくない。
夢であってくれ。
願いながら走り続けること数分。リティアが目じりに消えて反射的に足を止める。
振り返るとリティアが左方に視線を向けている。
「あ、ああ……っ」
「リティア?」
彼女の視線を目で追って息を呑む。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
リティアの口から絶叫がほとばしる。
紫の瞳が凝視する先には、彼女の父の頭部があった。




