第6話
レイシア先生に魔法を教わって一年が経った。
特殊な設備なしでの構築魔法はあらかた覚えた。ここから先を覚えるには学園の設備が必要だ。
もっとも育成は完成した。目的通り魔力回路に負荷がかかって、総合的な魔力量と出力は向上した。
当分は新しく術式をこねくり回す必要もない。
満を持して中級魔法師認定試験を受けた。
結果は合格。レイシア先生が体の前で手の平を打ち鳴らす。
「お見事です。認定魔法師の権限で、カムル・ニーゲライテに中級魔法師の資格を与えます」
すらっとした腕がバッヂを差し出す。
俺は作法にのっとってバッヂを受け取った。
「これで私が教えることはもうありません。今日までよく頑張りましたね」
「今までありがとうございましたレイシア先生。本当は上級魔法の方も教えてほしいんですが」
「私にその資格がありませんからね。君ほど覚えのいい生徒を教えたのは初めてですよ。初級魔法を教えて終わるつもりだったのに、まさか中級まで教えることになるなんてね」
レイシア先生が肩をすくめる。
元々は初級の資格だけ修得する予定だった。構築魔法のある中級を学んだのは俺のわがままだ。
宙が鈍く光った。レイシア先生が光に腕を突っ込む。
特別に教えてもらったから俺にも使えるけど、レイシア先生と比べると収納できる量が少ない。まだまだ修練が必要だ。
光から抜かれたレイシア先生の手には長方形の箱が握られていた。
「これは合格祝いです。受け取ってくれますか?」
「はい! もちろんです!」
包装を解いて箱を開ける。
腕にくくりつけるタイプのデバイスが入っていた。
「これは?」
「持ち運び型の構築デバイスです。中級魔法程度の術式ならそれでいじくり回せます」
「ありがとうございます! すごく嬉しいです!」
これで今までいじくり回せなかった術式を改造できる。
魔法の幅が広がるぞ!
「この一年間で一番嬉しそうですね」
「すみません、嬉しかったもので」
「分かってますよ。授業中よりも術式をいじってる方が楽しそうでしたから。では私はこれで失礼します。機会があればまたどこかで」
「はい。お元気で」
レイシア先生が背中を向ける。
小さくなる背中を見送って、早速デバイスに左腕を伸ばした。
スイッチを押すなり半透明な長方形が浮かび上がった。
構築術式を拡張するタイプの魔導具。
この世界の技術レベルは大したことないけど、魔法や魔導具が一部の技術レベルを跳ね上げている。
もはや持ち運び型のパソコンだ。わくわくを抑え切れず指先でアイコンを弾く。
半年前からずっと考えていた。
【育成】では負荷が軽い。これから先を望むならより強度を増した物が必要だ。
この世界には魔物がいる。一年の間で領土内でも何度か事件が起こった。
俺にとっても他人事じゃない。
常時防御魔法を展開するとはいかないまでも、攻撃される瞬間に防御魔法を展開できれば身の安全は保障される。
作るべきは攻撃に反応する反射装甲。風纏の術式を展開して指先でパネルをなぞる。
「きゃあああああっ!」
術式の改造に熱中していると悲鳴が聞こえてきた。