第57話
俺はクランシャルデさんやクラスメイトと一緒に出発した。
ジマルベスに戻って道具を調達する余裕はなかった。俺たちは魔王国へ向かう道中で食物を調達した。
野草のスープと狩った獣の肉を焼いてお腹を満たす。
同行者の表情は終始暗い。
ジマルベスに移住して間もない俺と違って、他のメンバーは年単位で居ついていた。避難した人の中には仲のいい相手もいたはずだ。
そんな人たちを、彼らは置き去りにしなくてはならなかった。
無抵抗な魔族を悪いようにはしないというのは、あくまでクランシャルデさんの推測だ。
奴らは、中立国家にすら攻め込んでくるほどの乱暴集団。一般紙民にも手を出す可能性は大いにある。
見殺しにした。俺たちの胸の奥には、少なからずそれへの罪悪感が根づいている。払拭されるまでにはしばらく時間がかかるだろう。
夕食をお腹に収めて、見張りの当番を決めた。
俺はクラスメイトとクランシャルデさんに見張りを任せて、一足先に眠りについた。
……起きよ。
誰かが呼びかけている。
意識を取り戻して息を呑む。
辺り一帯がほのかな金色に包み込まれている。寝る前視界に映した樹木や土の類は一切見られない。
荘厳な空間に人影があった。
「久しぶりだな人間」
「あなたは……」
忘れもしない。俺をこの世界に無理やり転生させた自称神だ。
ただこの前と違って表情は引きしまっている。俺の前世で大ポカをやらかした存在なのに、頭を低くしなきゃいけないような焦燥感を覚える。
衝動に耐えて視線の交差を維持する。
「何だ、わしの顔を忘れたか」
「いえ覚えています。ずいぶんと久しぶりですが、こっちの世界にも干渉できたんですね」
「ああ。どちらも私の管轄だからな」
「そうでしたか。それで、あなたはどうして俺をこんなところに召喚したんですか?」
「厳密にはわしがお主の夢に干渉しているだけだが、まあよい。単刀直入に言う。魔王国に行くのはやめろ」
「どうしてですか?」
「言われなければ分からぬのか。魔族は人類の敵だぞ? 人間のお主が行ってどうする」
「人間も魔族も大して変わりませんよ。むしろこの世界じゃ人間の方がごうまんなくらいです」
「知ったようなことを。何故奴らが魔族と呼ばれているか分かるか? 魔道に身を落とした種族だからだ。身に備えた暴力性は人間の比ではない」
「魔族には理性があります。その暴力性をコントロールできるんですよ。あなたが光の属性を与えた勇者と違って」
「ほう、ヴァランと会ったか。奴は人格者だ。困った時は頼りにするとよいぞ」
思わず奥歯を噛みしめた。
「だから、その勇者に困らされたんですよ俺は」
「魔族と共同生活などするからだ。お主に自覚があるかは知らんが、人間はものに愛着を持つ生き物だ。例えそれが害虫や害獣であろうともな」
「魔族も同じだと言いたいんですか?」
「ああ」
言いよどみもしなかった。小さなため息が口を突く。
もはや言葉を交わすだけ無駄なんだろう。
「とにかく俺は魔王国に行く」
「後悔するぞ」
「このまま元いた領に戻るよりは後悔しないと思います」
「予言しよう。お主は必ず人間側に戻ってくる。必ずだ」
「そうならないように立ち回りますよ」
視界内が黄金一色に染め上げられる。
次に意識を取り戻すと、俺は見張りの交代を理由に揺り動かされていた。
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