第49話
結局リザードマンの集落を壊滅させた犯人は分からなかった。
焦げた瓦礫や地面を大きくえぐった後から察するに、何かしらの魔法が使われたのは明白だ。
でも魔法なんて人間魔族の両種族があつかう。犯人を断定するに至るような証拠じゃない。リザードマンをひどい目に遭わせたやつはいまだ野放しのままだ。
俺は憤りを感じつつも、頭は現場で得たインスピレーションを形にしようと動いていた。
きっかけはリザードマンの集落跡で見たつむじ風だ。
砂や落ち葉を吸い込むようにして旋回する突風。全てを巻き上げんとうなっていたあれを見てピンときた。
簡単なことだったんだ。枯渇するなら周りからかき集めればいい。
早速術式の改良に取りかかった。
魔素は風を起こしさえすれば勝手に集まる。惑星箇所を台風の目にするだけで問題は解決だ。
俺は風属性の魔法ハリケーンに目をつけた。
魔物の群れの中心に放って、弱い魔物を巻き上げて効率よく処理するための上級魔法。
そのままじゃ使えない。俺はハリケーンの術式から攻撃性に関する情報を取り除く作業にいそしんだ。
必要な情報と不要なものを選り分ける。
簡単なようで難しい。無駄な式を取り除いて満足したら別のところでバグが発生する。
無駄がそこに在ることで安定する情報もある。何がどこに影響をもたらすのか吟味する必要性に駆られた。
研究チームの人にも協力してもらった。クランシャルデさんにも相談して考えを聞かせてもらった。
後日参考になりそうな論文を取り寄せてもらった。時間の経過も忘れて、他の研究者がつづった文章を読みふけった。
週が変わる頃には答えを出した。
無駄と断じているのは研究者の俺たちだ。術式から外せないなら別の用途を探して役立たせればよかった。
その手法は他の研究者たちが編み出している。
外せないなら役立つように式を配置すればいい。
魔素が特定の場所にとどまらないように配置することで、魔力を注いだ際に術式全体の安定化につながった。
そそいだ魔力が集中して負荷がかかる箇所には、結びつきの強い式を置くことで発動不全を回避した。
その他の工夫を積み重ねて、ついに惑星魔法のプロトタイプが完成した。
クランシャルデさんたちは祝ってくれた。
惑星魔法はその仕様上破壊力が絶大だ。街中で使おうものなら周囲に多大な迷惑をかける。
惑星魔法の試運用は遠出した先で行うことが決まった。
魔法の実験は来週の休日に遠出してピクニックがてらに行う。
その日に何を持って行こうか。遠足を楽しみに待つ小学生のようにわくわくして平日を過ごした。
惑星魔法の試運用をひかえた休日が迫ったある日。街中にけたたましい警報が鳴り響いた。




