第48話
馬車に揺られながら話を聞いた。
リザードマンの集落が何者かに襲撃を受けたらしい。命からがら中立国家にたどり着いた個体に助けを求められて、ロードメデブルクが急遽現場へ足を運ぶことになった。
リザードマンの集落は中立国家ジマルベスが認可している。
以前俺が受けた依頼の件で抗議も行われた。あれ以来再発は起きていないと聞いていたけど、今回ついに被害が出た。現在は他国と連携して調査を進めているようだ。
報告によるとリザードマンの大半が死に絶えたと聞く。
実際に現場を目の当たりにして、俺は息を呑んで目を見張った。
文字通り台風が過ぎ去った後のようだった。あちこちに散らばっている瓦礫が、この場で行われた破壊のすさまじさを物語っている。
残骸の中には炭化して黒ずんでいる物もある。中には何かの腕や脚を思わせる物体が混じっていて、俺は口元を両手で覆った。魔物を討伐して生計を立てていた経験がなければ嘔吐していたかもしれない。
「一体、誰がこんなことを」
「魔族や魔物に恨みのある者のしわざだろうな」
後方からロードメデブルクが歩み寄る。
声は微かに抑揚しながらも表情は変わらず引きしまっている。
「ロードメデブルクは冷静ですね。こういった現場には慣れているんですか?」
「慣れてはいる。だがそれ以上に分かるからかもしれない。人は未知のものを恐れて、憤るものだからな」」
「何の話ですか? 一体何を分かると?」
「魔族に対する憎悪だよ」
思わず振り向いて目を見開く。
告げられた言葉が、あのロードメデブルクから出てきたなんて信じられない。
思考が漂白されている間もロードメデブルクが言葉を紡ぐ。
「私の伴侶と子供は魔族に殺された。この場にいる仲間の中にもそういった境遇の者がいる。魔族の横暴が不幸を生んで、それが新たな不幸を引き起こす。ある意味この惨状は起こるべくして起きたものだ」
「俺が言うのもなんですが、そんな発言をして大丈夫なんですか? ジマルベスはそういう発言に厳しいと聞きましたけど」
「理想論を掲げたところでどうにもなるまい。表現の規制がなすのは表向きな平穏だけだ。互いに裏で憎悪を募らせ、やがて一線を越えて破綻する。対症療法など繰り返したところで満足する現状の限界だ」
ロードメデブルクが瓦礫から視線を外して俺を見すえる。
「君はどうだ? 今まで生きてきて、魔族や魔物さえいなければと思ったことはないのか?」
ない、とは言えない。
フランスキー伯爵領では、魔物のスタンピードで危うく大きな被害が出そうになった。
たまたま俺がいたから悲劇は防げたものの、何十男百と犠牲者が出ていたらさすがに思うところはあっただろう。
「正直思ったことはあります」
でもと続けて、俺はロードメデブルクと視線を交差させる。
「悲劇を振りまくのは魔族だけじゃないでしょう。魔族の中にも人間に家族を手に掛けられた物はいるはずです。何より俺は魔族にも良い人がいるのを知っています。今回の被害者たるリザードマンも話してみたら温厚でした。少なくとも彼らをこんな目に遭わせた連中には罰があるべきだと思います」
思ったことを言い切った。
ロードメデブルクは口を開かない。黙して俺と視線を合わせ続けている。
交差していた視線がまぶたで隔たれた。
「そうか、君は魔族が好きなんだな。変なことを言ってすまなかった。私はあっちに行っているよ」
ロードメデブルクが背中を向けて遠ざかる。
何だろう、この微妙な空気。俺たちは調査のためにここまで来たはずなのに。
気を取り直して、リザードマンの集落だった場所を練り歩く。
犯人につながる証拠を求めて、五感を研ぎ澄ませて土の地面にいくたもの靴跡を刻む。
視界内に変なものが映って足を止める。
白い線が空に向けて伸びていた。
「何だあれ。つむじ風か?」
地面が暖められて発生した上昇気流。小規模な風の渦が砂を巻き上げて空高くに送っている。
リザードマンは爬虫類に近い性質を持つ魔族だ。日中には日向ぼっこをして活動のエネルギーを得ると聞く。
温かいこの場所はリザードマンが集落を構える条件に適していると同時に、つむじ風の発生条件を満たしている。
上昇気流が発生すること自体は不思議じゃないけど、何かが脳に引っかかる。
これはそう、ひらめきだ。俺の脳がつむじ風にインスピレーションを得た。
「そうか」
パーッと幸福な気分にひたって、次の瞬間には罪悪感にさいなまれる。
この場所でリザードマンがたくさん命を落としたのに、俺は何を考えているんだろう。




