第46話
俺たちは勝利した。合同訓練を終えてリティアと訓練場を後にする。
リティアの足取りは軽い。鼻で歌いながらスキップを踏んでいる。
「機嫌良さそうだな」
「うん。機嫌いい」
「嫌な奴を倒せたからか?」
「それもあるけど、複合魔法を使えたことが嬉しいの。ずっと上手く行かなかったから、撃てた時はすごく気持ちよかった」
「術式で属性複合を強制してるだけだ。本当に使えるようになったわけじゃないぞ」
「でもすごい威力だった。出力を抑えられてるから狙いもつけやすかったし、何かもうすごかった!」
普段は平坦な声色が聞くからに抑揚する。
リティアは感情にとぼしいから微かな笑みでもギャップがある。
普段からそうしていればもっと友だちができるだろうに。
「周りにも複合魔法を使えなくて冷遇されてる友だちがいるの。術式を教えてあげたらきっと喜ぶ」
「あれ、リティア友だちいるの?」
「それどういう意味?」
「いや何も。友だちのことを想うのはいいけど、あの術式は広めないでくれると助かる」
「どうして? みんな喜ぶのに」
「言っただろ? あれは設定した出力以上の威力を出せないんだ。仕様がばれたら、またあのイキり魔族たちがイキり出すぞ」
「え、それは困る」
「だろ?」
納得してくれてよかった。
実のところ目的は別にある。
俺がリティアに渡した術式は、属性複合の技術習得をスキップする代物だ。
広まれば複合魔法をあつかう者が増える。術式の仕組みに気づいて出力を向上させる魔法師も出るだろう。
そういった相手が将来敵に回らないとも限らない。
複合魔法を受けると万能反応装甲は魔喰いを出力する。魔喰いは闇属性の魔法だ。中立国家の外で発動すると教会が敵に回りかねない。
術式を開示するのは、俺が複合魔法に対する解答を導き出した後だ。
時刻はお昼休み。今日はリティアと二人で食堂に足を運んだ。
昼食時だけあって食堂は多くのチェアが埋まっている。
がやがやした空間を突っ切って、空いている席にハンカチを置いてなわばりを主張する。
カウンター越しに自身の昼食を受け取って元来た道をたどる。
テーブルの上におぼんを置くと、リティアが一人席を離れた。
時間を置いて戻ってきた。俺の前にジュースの容器が置かれる。
「これ今日のお礼。術式をくれてありがとう」
「ああ」
リティアがとなりの席に腰を下ろす。
心なしか、先日よりも間にある距離が近い気がする。
居心地の悪さをごまかすべくジュースを一口含む。
甘酸っぱい果汁の味が口の中に広がった。
「その魚フライのサンドおいしいか?」
リティアの前にある上には、魚のフライがはさまれたパンが載っている。
フライもパンも、俺が知ってるサイズの倍以上はある。
対してリティアの体は細身だ。どこにパンが入るのやら。
リティアが目をしばたたかせる。
何を思ったのか、右手でパンを持ち上げた。
「あーん」
「ん?」
「あーんして」
あーんって、いきなり何言ってるんだこの子。
「いいよ別に。俺には自分のカツサンドがあるし」
「あーん」
口にでかいパンを押しつけられた。仕方なく口を開いて歯を突き立てる。
衣がサクッと音を立てた。
「おいしい?」
「おいしい」
どちらかと言えば肉派だけど、魚は魚でいいものだ。
「よかった」
あどけない顔立ちが微笑んで自身のパンと向き合う。
「リティアは魚好きなのか?」
「うん。水竜族は大体魚が好き」
「へえ。やっぱり魔族にもそういう趣向があるんだな」
「それ差別発言。気をつけて」
「おっと失礼」
悪意はないのについ言葉が口を突いてしまう。他種族との共存って難しい。
「リティアは中立国家で生きづらくないか?」
「多少は思うよ。でも人間が考えたご飯おいしい」
「そうかい」
唐突にご飯の話を出されて思わず苦笑いする。
戦闘面では人間よりも魔族が秀でている傾向にある。それは成績優秀者の大半が魔族であることからも明らかだ。
でもフィジカルに関係すること以外では人間が秀でている。料理もその一つだ。
何か一つでも得意なことがあれば存在を求められる。結果を出せば認められる。
そこから始まる相互理解もあるだろう。




