第44話
図書室にいる生徒に視線を向けられて、俺はリティアと廊下に出た。
がらんとした廊下を突き進んで食堂に足を運んだ。
誰にも聞かれない奥のチェアに座って、リティアから話を聞き出す。
リティアたち水竜族は、かつて魔王国で栄えていた種族らしい。
竜は大半の魔族と比べて戦闘方面に秀でている。
魔力の保有量も多く、その圧倒的な戦闘能力を活かして魔王国の領土拡大に大きく貢献した。
しかし竜には飛竜や海竜といった種族もある。
空から一方的に攻撃できる飛竜はもちろん、海竜も海上での戦闘や海路を使った運搬ができるという明確な強みがあった。
その一方で水竜が本領を発揮できるのは湖や川。
得意フィールドがせまく、湖や川がある場所も限定的だ。
一時期を境に功績が伸び悩み、他の竜族が出世する中でどんどん追い抜かれていった。
やがて親族が罪を犯したことで、水竜族の没落は決定的なものとなったらしい。
「事情は分かったけど、あいつらに勝てる見込みはあるのか?」
「ない。だから協力して」
「めちゃくちゃなことを言うなぁ。まだ連中がどんな戦い方をするかも分からないのに」
「魔法を使うだけだと思う。腕っぷしならきっと私が勝つから」
リティアがぎゅっとこぶしを握りしめる。
腕は大して太くないけど、竜だけあって腕力があったりするんだろうか。
普段は消費エネルギーを抑えるために人型に化けていると聞く。
腕力は竜のまま据え置きなんだろうか。
「それで何かない? 使うだけで私が勝っちゃうような魔法」
「ないよ。あったら俺が使ってるし」
「そうだよね」
リティアが小さな肩を落とす。
そんな都合のいい魔法があるわけないし、あったとしても俺が人に教えることはないだろう。
使えば誰でも勝てる時代の到来。兵士市民関係なく戦場に駆り出される。
人はそれを地獄と言うんだ。広めたら俺が罪悪感に押し潰されてしまう。
「リティアは二つの属性を使えるじゃないか。複合魔法を使えば大半の生徒に勝てるだろ」
「私複合魔法使えない」
「練習して物にすればいいじゃないか。本番までにはまだ時間があるんだから」
「でも私にできると思う?」
「ノーコメントで」
リティアが子供っぽくほおをふくらませる。
むっとされても困る。
俺は教えられることを教えたつもりだ。
でもリティアはいまだ複合魔法をマスターできていない。
竜という種族が繊細な魔力制御を苦手とするのか、リティア個人の問題なのかは分からない。
ともかくこれだけは言える。
合同訓練までにリティアが複合魔法を修得するのは無理だ。
「カムル、使ったら勝つ魔法の開発がんばって。私のために」
「君もがんばるんだよ?」
リティアとイキリ魔族の問題なのに、何で俺ががんばる方向性なんだ。
俺にできることと言えば、せいぜい術式をリティアが使いやすいように改造することくらいだ。
「いや待て、その手があったな」
「どの手?」
きょとんとするリティアをよそに、俺は思考をめぐらせる。




