第4話
屋敷に許嫁が来るらしい。
婚約者の名前はロールレイン伯爵のお嬢さんことレベッカ。俺が生まれた時から結婚が決められていたようだ。
日本に許嫁制度はなかった。自分の足でパートナーを見つけなきゃならなかった。
俺は失敗した。無能な神によって散々な目に遭った。
生まれた時からパートナーが決まってたらあんな思いをしなくて済んだ。許嫁の制度にあこがれたことも一度や二度じゃない。
でもいざ自分のことってなると現実味に欠ける。何と言うか、また失敗する気がするんだ。
せめて許嫁が屋敷にいる間はうまくやらないと。
あれこれする間に許嫁が屋敷を訪れた。
俺は貴族の作法に従ってあいさつする。
許嫁の少女は俺を無視して談話室に踏み入った。使用人にお菓子や紅茶を出すように指示して、一人ソファーの上でふんぞり返った。
俺はめげずに正面のソファーに座った。思いついたことを言葉にして談笑しようと試みた。
無駄だった。
へえ、そう。素っ気ない反応の果てに、ライデリットはどこと問われた。
さすがに察した。
何しろ恋愛経験だけは豊富だ。レベッカの目的が次男のライデリット兄さんにあることを知った。
せっかく転生したのに、また駄目だった。
幸か不幸か、今日はライデリット兄さんが学園から戻る日だ。
間をつなぐこと数分。玄関の方が騒がしさを帯びてレベッカが立ち上がった。
今日一番の笑顔。もはや追う気にもならない。
でも追わないと使用人がうるさい。しぶしぶソファーから腰を浮かせて玄関に足を運ぶ。
レベッカとライデリット兄さんが談笑している。
胸の奧は騒めかない。
仮にも許嫁なのに。何ならかわいい子だと思っているのに不思議だ。
度重なる失恋で、知らない内に女性不信になっていたのかもしれない。
俺は微笑を作ってライデリット兄さんに歩み寄った。簡単なあいさつを交わして三人で談話室に戻る。
お手洗いを理由にして一人談話室を出た。
きっとレベッカは戻って来るなと思っている。優しいライデリット兄さんは、きっと客を放って自室には戻らない。
所詮は政略結婚。家同士の結びつきを強めるだけの関係だ。
客人を喜ばせるのが貴族の仕事なら、むしろ俺は談話室にいるべきじゃない。
一人階段を上って自室に入る。
ああよかった。前世の内に感情鈍麻になっておいて。
涙なんてとうに枯れ果てた。この人生は泣かずにすみそうだ。