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人間嫌いの転生貴族 ~散々恋破れたので美少女に言い寄られてもなびきません~  作者: 藍色黄色


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第35話


 制服が仕上がった。


 学校に指定された服を着込むのは久しぶりで、つい鏡の前に立ってしまった。


 入寮をすませて学生寮の建物に私物を持ち込む。

 

 そして迎えた登校初日。気分を弾ませて学び舎の門をくぐった。


 教務室に立ち寄って軽くあいさつをすませた。担任のホガンダ先生と廊下を踏み鳴らして教室に向かう。


 五属性の魔法を使えるなんて勇者以来だ。


 期待している。


 そんな言葉を投げかけられる内に教室前にたどり着いた。


 ホガンダ先生が一足先にドアを開けて教室内に踏み入った。のぞき窓から教室内の様子をのぞき込む。


 人と魔族が混ざっている。魔族によっては違った装いをしている個体もいる。


 いずれも衣装には校章がついている。制服の規定は緩いのかもしれない。


 ドアが開いた。ホガンダ先生に請われて室内に足を踏み入れる。


 自己紹介を経てホガンダ先生が補足説明をした。


 やっぱりみんな光属性の魔法に興味があるらしい。ショートホームルームが終わって周囲のクラスメイトが席を立った。


 光属性の魔法の使い勝手は?


 五属性の魔法が使えて便利なことは?


 質問攻めは終わらない。


 俺が割り振られた教室は特進クラスだ。魔法や戦闘能力など優れたものを持つ生徒が集められている。


 優秀ゆえに貪欲なのだろう。成長の取っかかりを見つけて無視などできない。


 一時間目の授業が始まってようやく解放された。


 魔法学園というだけあって授業は魔法関連だ。


 術式のあれこれや、それによりもたらされる魔法の性質。


 とっくに知ってる内容だけど、教師が経験により得た補足で授業の内容がふくらむ。


 人間と魔族が入り混じる環境ゆえの幅広い知識。人間だけの環境では得られない充実感があった。


 特待生は資格関連でも優遇される。


 中立国家は人間または魔族を絶対とする国々ににらまれている。スタンスを守るためには力が必要だ。


 それゆえに優秀な人材を育て上げることに余念がない。生徒をサポートする体制が整っている。


 俺が取得したかった上級魔法師の資格も例外じゃない。


 ただでさえ学費が免除されているのに、資格の取得にかかる費用も学校側が支払ってくれる。


 最高かよ、中立サバン魔法学園。


「あの」


 図書室で資格取得のために勉強していた時だった。


 振り向くと上目づかいがあった。


 色素の薄い水色の幻想的な髪、アメジストを思わせる紫紺の瞳。


 貴族の令嬢にも負けない端正な顔立ちながらも、頭から伸びる黒い角が種族を明確に表している。


「君は?」

「リティア。あなたはカムルで合ってる?」

「合ってるよ。俺に何か用か?」

「魔法教えてほしい」


 リティアなる少女がとなりのチェアに座った。おしりの辺りから伸びる尻尾がくびれのある腰に巻きつく。


「教えるのはいいけど意外だな」

「何が?」

「魔族って言うくらいだから全員魔法が得意なんだと思ってた」

「それ差別発言。気をつけた方がいい」


 声色は平坦。怒っているようには見えない。


 でも確かに不用意な発言だったかもしれない。


「ごめん。俺この国に来てから日が浅いからさ、色々教えてくれると助かるよ」

「じゃあ私がジマルベスでの振舞いを教えるから、カムルは私に魔法を教える。それでいい?」

「いいよ。それで何が聞きたいんだ?」

「私は水と風属性の魔法に適性があるの」

「ってことは雷属性も使えるわけか」

「そう。カムルは雷属性の魔法も使えるって聞いた。コツを教えてほしい」


 コツって言われても、特に何かを意識して行ったわけじゃない。


 俺が最初に行使した複合魔法は光の荊(ホーリーソーン)


 つまり子供の頃だ。技術や知識がない状態でもできた。


 俺にとっては息をするようなもの。他者に説明するにはまずロジックを固めないと。


「少し時間をくれ。明日からまたここで落ち合うっていうのはどうだ?」

「分かった。待ってる」


 話が一段落しても少女は動かない。


 こういう時何を言って間をつなぐんだっけ。


「リティアさんって何組に所属してるんだ?」

「五組」


 思わず目を見張る。


 中立サバン魔法学園では徹底した実力主義の体制が敷かれている。


 クラス分けもその一つ。生徒における将来性や成績を踏まえて、優秀な順に一組から配属される。


 複数の基礎属性に適性のある生徒は少ない。特進クラスですら多くて三つだ。


 二つの属性を持つリティアが五組に配属されたなんて信じられない。


「おい、お前らそこどけよ」


 荒い呼びかけを耳にして振り向く。


 声が上がったのは離れたテーブルだった。三人の魔族が二人の人間を見下ろしている。


 テーブルを譲るように要求したのは分かるけど言葉が荒い。口論とはいかないまでも難色を示されるのは確実だ。


 何よりこの国は人間と魔族の調和を図っている。片方の種族が一方的に要求を通すのは体裁が悪い。


 そう思ったけど、女子の方はそそくさと道具を片づけ始めた。


 文句どころか嫌な顔一つしない。むしろ小さく頭を下げて小走りで図書室を出て行った。


 魔族が何事もなかったようにチェアに腰かける。


「なあリティア、今のって問題にならないのか?」

「どうして?」


 思わずリティアを見る。


 あどけない顔立ちがきょとんと傾げられていた。


「どうしてって、今のは問題にならないのか?」

「ならない。成績の悪い生徒が優秀な生徒に席を譲るのは当然」

「それは魔族が人間より優れてるからってことか?」

「違う。あとそれ差別発言だから気をつけて」


 何でも制服の左胸箇所につけたバッヂが、その生徒の優秀さを表しているらしい。


 入学の際に学園から送られてきたバッヂ。今さらながらその意味に気づかされた。


 前世でいう軍の階級章を思い出す。

 

 上の人間に逆らってはいけない。将来卒業生の多くが軍属になることを考えれば、学園の在り方は理にかなっていると言える。


 でもそれでいいのか? こう思うのは、俺が前世の価値感を捨てきれていないからか?


 この学校、俺が想像していたよりも面倒くさいかもしれない。

 

長いようで短い学園編の始まりです。


この章を読み終えるとこの作品に対する印象は多少なりとも変わると思います。


良くも、悪くも。

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