第34話
翌朝宿を出て街の中を歩いた。
全部宿のサービスを活用すると費用が高くつく。
現状は稼ぐ手段を確保できていない。湯水のごとくお金を使うのは避けたい。
生活に必要な物を買いそろえつつ、ショップや飲食店の分布を頭の中に入れた。
欲しい物は徒歩で行ける場所で揃った。おすすめの宿というのは間違いじゃなかったらしい。
後日一通の手紙が俺の手元に届いた。
それは中立サバン魔法学園の推薦状だった。
ロードメデブルクが俺の功績をジマルベス王に報告して、魔法学園に入れてみてはどうかと提案したらしい。
俺が中立国家に来たのは前日。何の信用もない俺を学園に推薦するなんて、ふところが広いのか不用心なのか分からない。
考えてみれば、人間と魔族では価値観や文化が違う。
魔族の国にも教育機関はあるだろう。入学にあたっての手続きが人間と違っても不思議はない。
下手に手続きを細かくして、人間と魔族のどちらかが入学できなかった、なんてことになったら最悪差別問題に発展する。
そういった事態を防ぐために、あえてそこら辺を緩くしているのかもしれない。
俺は承諾の返事をしたためて返送した。
数日して送られてきた書類には、学園入学に必要な試験の日程と場所が記されていた。
つけ焼き刃の勉強をこなして本番の日を迎えた。
試験が行われる場所は、学園の敷地内にある訓練場だ。これまた徒歩で行けなくもない距離にあった。
意図されたものを感じる。
俺が雷属性の魔法を披露した時から、学園に入学させる算段だったのだろうか。ロードメデブルクは中々にくせ者みたいだ。
校舎は山のようにそびえ立つ建物だった。
横幅も広い。前世の大学に匹敵する大きさだ。
訓練場に足を運んだ。
試験官は人間だった。
試験の内容はいたってシンプル。指定された魔法を指定されたように使うだけ。
全属性に適性があることを伝えると大いに驚かれた。
「素晴らしい!」
「天才だ!」
実技で光属性の魔法を披露したらそんな言葉が飛び交った。
自慢じゃないけど、もう合格した気分になっちゃうくらい絶賛だった。
後日。想像に違わず合格通知が来た。
制服は自分で用意しなきゃいけないらしい。仕立て屋の場所を探すべく青空の下に身をさらす。
歩を進めると高そうな衣装をまとう人影が映った。
「ロードメデブルク、おはようございます」
男性が俺に気づいた。ロードメデブルクと談笑していた男性が背を向けて歩き去る。
邪魔をしてしまっただろうか。
そんな考えがやわらかな微笑にかき消される。
「おはようカムルさん。今日はいい天気だね」
「そうですね。絶好の散歩日和です」
「聞いたよ、魔法学園の入学試験をパスしたんだってね。おめでとう」
「ありがとうございます。合格は嬉しいんですけど、制服を仕立て屋さんに作ってもらわないといけないんですよね。この辺りで制服をあつかう仕立て屋を知りませんか?」
「それならいい場所を知っている。案内しよう」
ロードメデブルクに続いて石だたみの上を歩く。
歩く途中で先程立ち去った人について聞いてみた。
友人らしい。人見知りらしく、俺が来ると知って逃げたんじゃないかと推測を告げられた。
談笑する内に目的地に到達した。
伯爵が懇意にしているだけあって、仕立て屋の外装はしっかりしていた。
派手ではなくとも品がある。そんな様相に期待が泉のごとくわき上がる。
店内に足を踏み入れる。
すぐに違和感を覚えた。
中には人間しかいない。客も、従業員も、誰一人として魔族がいない。
「このお店は人間しか雇わないんですか?」
「いいや、そんなことはない。ただ魔族は喧嘩っ早い連中が多いんだ。ある程度値段が張る場所になると、従業員も客も人間が多くなるのさ」
「なるほど」
前世でも似た話を聞いたことがある。
あっちでは、生まれに恵まれないとチャンスすらない環境に原因があった。
魔族も似たようなものなんだろうか。
メデブルク伯爵がカウンターに向かって親し気に言葉を重ねる。
軽いあいさつを経て俺のターンがやってきた。学園から送られてきた書類を手渡して制服作りを申し込む。
編入が認められたなんてすごい! と褒められた。
人間魔族問わず門を開いている一方で、試験の難易度は高いことで知られるらしい。一発合格する生徒はまれなのだとか。
ロードメデブルクも、まるで教え子を誇るように賛辞を口にした。
リップサービスなんだろうけど、目の前で褒められるのは恥ずかしいから止めてほしい。
手続きを終えて仕立て屋を後にした。
何かお礼でもしたいところだけど、伯爵相手に何を渡せばいいのか分からない。
迷っているとカフェに誘われた。
断る理由もなくロードメデブルクとカフェに立ち寄った。
顔が知れた人らしい。他のテーブルから人が寄ってきた。
伯爵に対するあいさつや賛辞が空間をにぎわせる。
誉め言葉ばかり上がるせいだろうか、たまに混じる異物がはっきりと耳に残る。
シュバルさんの方が偉い、すごい。そんな感想が離れたテーブルでささやかれる。
大半は魔族だ。ちらほら人間も見られる。
シュバルさんはメデブルク伯爵と違って世襲貴族じゃない。一から戦果を挙げて、それが評価されて爵位を得た。
爵位を得ても領土と臣民を持たない。元が平民と言うこともあって親近感を抱きやすいのだろう。
ロードメデブルクが席を立った。
「失礼、用事を思い出した。料金はここに置いておくよ」
「俺も出しますよ?」
「いいよ。誘ったのは私だ、ここはおごらせてくれ」
置かれた通貨がテーブルの天板を鳴らす。
ちょっと気まずく思いながらもお茶とスイーツを口に運んだ。




