第33話
俺は高台に下りて軍と合流した。
合流するなり兵士の人たちに労われた。
全属性を使えるから価値観が麻痺するけど、一つの属性を使えるだけでも魔法の才ありと判断される世界だ。
雷属性は風と水の複合魔法。彼らの目には俺が魔法の天才に映っているに違いない。
彼らは馬車でこの場におもむいたそうだ。
巨大な魔物に変身していたのはシュバルを名乗る軍人。魔族には大型の魔物に化けるすべもあるらしい。
彼らが戻る先は中立国家ジマルベス。これ幸いと馬車に乗せてもらえないか頼み込んだ。
二つ返事で了承が得られた。
馬車に乗り込んで木々を目じりに流す。
一服できると気を抜いたのもつかの間。汗臭い空間で質問攻めにされた。
人影の中には魔族もいる。
とがった耳。
顔や腕がうろこに覆われた人型。
他にも口に収まり切らない牙や鼻など、人間に似つかわしくない特徴を持つ兵士であふれている。
中立国家の名はだてじゃないってことだろう。
人じゃない存在を前にして気分が高まる。貴族のあれこれから解放されることを願うばかりだ。
関所を通過するなり人や魔族が入り乱れる。
石だたみの地面を進むのは人間や魔族だけじゃない。馬だけじゃなく大きなトカゲも荷車を引っ張っている。
国外では憎み毛嫌う存在が笑みを向け合う。苦しい坂を上り切った先で壮観を見た時に匹敵する感動だ。
予算を告げておすすめの宿はないか聞いた。
ロードメデブルクに勧められた宿はお高めだった。貯金を続けた俺でも数日で財布の底が見える額だ。
伯爵なりの冗談だったらしい。シュバルさんに肩をバシバシ叩かれてツッコミを入れられていた。
二人は身分が違うみたいだけどすごく仲がよさそうだ。
何でも二人は中立の守護者なる異名を得ているらしい。
軍略に秀でた人間のロードメデブルク。
純粋な武勇に優れた魔族のシュバル・ドランギルト。
種族を越えたつき合いの長い戦友。中立国家の顔として広く知られ、民衆から尊敬を集めている。
宿は庶民の味方枠で手を打った。
おすすめの宿前で下ろしてもらって、兵士たちと別れのあいさつを交わす。
宿に踏み込むと、カウンターの向こう側に魔族が立っている。
フレンドリーな笑顔に迎えられて手続きの話をした。お金を払って部屋のカギを受け取る。
指定された部屋はきっちりと整理整頓されていた。
人間と魔族の文化が入り混じっている影響なのか、よく分からないオブジェが室内を飾っている。
不快感はない。目にするもの全てが新鮮で心がおどる。
ここでの生活はきっと楽しくなる。
根拠はないけどそんな予感がする。




