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人間嫌いの転生貴族 ~散々恋破れたので美少女に言い寄られてもなびきません~  作者: 藍色黄色


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第28話


 初めて依頼に失敗した。


 受付嬢には驚かれたけど苦笑いで通した。


 リザードマンを殲滅するだけなら簡単だったと思う。


 人数差があっても俺には絶対防御の魔法がある。範囲攻撃もある俺に数の差は意味をなさない。


 でも俺にはできなかった。


 敵意を感じさせないリザードマンたちを滅することは、俺の中の何かを壊す気がした。


 ラピアに魔法を教える日々に戻った。


 屋敷での暮らしは不自由がない。食べ物もおいしくて優しい人たちに囲まれている。


 でもどこか斜めに構える自分がいる。無償の善意がうさんくさく思えて仕方ない。少なくともフランスキー伯爵はいちもつ抱えていそうだ。


 大方想像はつく。

 

 俺の両親やロールレイン伯爵と同じだ。勲章や爵位を持つ俺に投資価値を感じて結びつきを作ろうとしているんだろう。

 

 そもそも淑女の部屋に男性と二人きりは、貴族のエチケットとして大いに問題がある。


 一度指摘したことはある。


 その時は俺のことを信用しているからと軽い口調で告げていた。


 屋敷に長居するとろくなことにならない気がする。


 とりあえずは契約の三か月をやり切ることにした。


 ラピアに魔法を教える片手間で、フランスキー伯爵領を出る前提で次の目的地を考えた。


 今一番興味があるのは中立国家ジマルペスだ。


 敵対しているはずの魔族と人間が同じ街中を歩く。そんな光景があるならこの目で見てみたい。


 どのみちラピア嬢の家庭教師だけじゃ食べていけないんだ。準備するなら早い方がいい。


 冒険者としての活動を隠れみのにして準備を始めた。


 地図を用意して遠出する依頼を受注し、途中立ち寄った街で情報を集めた。


 必要な書類を入手して、入国後に気をつけるべきことも事前に調べた。


 ジマルベスは軍事力に秀でた国のようだ。


 周りを見渡せば魔族滅ぼせ! と語る国ばかりだ。隙あらば周辺国が味方につけと押し迫るのは目に見えている。


 そういった要求を跳ね除けるために軍事力が必要だった、ということだろう。


 人間と魔族の混合ということで母数が多い。片方だけよりも適材適所に人材を配置できるから組織としてパワーがある。大国も表立って敵に回せないのが現状のようだ。


 軍事力自慢の国なら技法や書物もたくわえられている。停滞している俺を次のステップに導く情報が集まっているはずだ。


 ニーゲライテ領では結局上級魔法師の資格を得られなかった。


 フランスキー伯爵は父親じゃないし、俺はきっと彼の意に沿えない。上級魔法師の資格は中立国家で取得するとしよう。


 この日もラピアの部屋を訪れた。


 約束の三か月目。中庭に出てラピアを対象に試験を始めた。


 初級魔法師の合格ラインは、適性ある属性の基礎的な魔法を正確にあつかえるかどうかだ。


 ラピア嬢の適性は水属性。


 配置した的に水の弾を当てさせた。


 一定時間水の球体をはべらせるように命じた、


 結果は合格。俺は手の平を打ち鳴らす。


「お見事です。認定魔法師の権限で、ラピア・フランスキーに初級魔法師の資格を与えます」


 先日取り寄せたバッヂを差し出す。


 ラピアが表情をパッと輝かせて腕を伸ばした。


「ありがとうございます!」


 細い指がバッヂを受け取って胸元につける。


「どうですか? 似合いますか?」

「ああ。すごく似合ってるよ」


 こういうのが正解なのは知ってる。


 華やかな衣装にバッヂって明らかにミスマッチだけど、この状況で似合わないって言える奴はある意味大物だ。


「じゃあ屋敷に戻ろうか。フランスキー伯爵に報告して祝ってもらおうよ」


 身をひるがえして靴裏を浮かせる。


 最初から三か月の契約という約束だった。これでもうフランスキー伯爵領でやり残したことはない。


 屋敷でお世話になったお礼の品は取り寄せた。口でお礼を伝えると引き止められそうだから領土を出たことは手紙で伝える。不義理だと思うけど、そこは大人の余裕ってことで許してほしい。


 出発はいつにしよう。今晩か、それとも翌日の早朝か。


「待ってカムル」


 考えていると左腕に感触を覚えた。細い指が俺の左そでを握っている。


「どうしたの?」

「その、少し中庭を歩きませんか?」

「いいけど、試験の合格を知らせなくていいの?」

「それは後でいいです。今はカムルとお話したいので」


 妙なことを言い出すものだ。雑談なんて屋敷内でいくらでもできるのに。


 荷造りは終わってるし、別にいいんだけど。


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