第24話
「ねえねえ、カムルは何のハーブが好き?」
「うーん、ハーブはあまりたしなまないのでよく分かりません。それより」
「私はモミールの香りが好きなんです。部屋に置いていると穏やかな気持ちになれて心地良いんですよね」
「そうなんですか。ではそろそろ」
「ハーブと言えば勉強する時はズマーリが適しているみたいですよ? 街のハーブ店でも取り扱っているそうです」
結構しゃべるなこの子⁉ いつまで経っても授業開始のタイミングがつかめない!
「そうだ、今度お父様に頼んでカムルも一緒に――」
「ちゅうもーく!」
声を張り上げてラピアの声をかき消した。ラピアが目をぱちくりさせる。
すかさず手の平の上に魔力球を作り出した。
今日まで考えてきた。どうやったら子供でも授業を楽しんでもらえるか。
それがその答えだ。
「時にラピア。ニーゲライテ領で見せた花火は覚えてる?」
「覚えています。すごくきれいでした」
「あれを自分で使ってみたいとは思わない?」
「私でも使えるんですか⁉」
ラピアが身を乗り出す。
俺は首を縦に振った。
「もちろん。あれは一般的な火球の術式を改造して作ったからな。専用のデバイスがあれば誰でも作れる」
スキルビルダーを使って術式編集の画面を展開する。
赤い線が階段を描いている。
「これがあの時使った術式だ。爆発するタイミングを【命中時】じゃなくて【発射から5秒後】に変更して、その爆発をトリガーに新しい火球が飛ぶようになってる。そこで問題だ。今指定してる命令以外でも似た事象を起こせる命令がある。どこをどういじればいいか分かるか?」
「え? えーっと」
ラピアが半透明の長方形を眺めてうなる。
二度外して降参の意を示された。
「正解はこうだよ」
指を左右させて命令を変更する。
術式の改造を終えた頃には、赤い階段がEの亜種みたいなアルファベットを描いていた。
「これは使うとどうなるんですか?」
「ラピアに見せた花火とほとんど変わらないよ。最初の球だけ命令をそのままにして、二個目から順に五、十、十五、二十秒後に爆発するように設定したんだ」
「なるほど! それなら確かに似た花火を作れますね!」
「面白いだろ? 複雑な事象でも見方を変えるだけで簡単に再現できる。技術が発展して出せる命令が増えれば可能性はさらに広がるんだ」
さながら前世にあったプログラミングだ。
技術が発展するにつれてコードも増えて、やがては人工知能を作るに至った。
魔法でも同じことができるかもしれない。それを確かめるまでは人生に絶望しないと決めている。
「カムル! 私も早く魔法使ってみたい!」
早速やる気になってくれた。
焚きつけは大成功。授業を軌道に乗せるべく属性を調べる水晶を取り出した。




