第22話
魔物の殲滅はすんだ。
大型の魔物をほうむってからは消化試合だった。光の壁を一部解除して魔物の流入を調整し、魔法や矢で安全に処理した。
魔物の流入が止まって光の荊を解除する。
領外のクリアリングを終えるなりワッと歓声が上がった。
冒険者や騎士が俺の元に殺到して、制止する間もなく胴上げが行われた。
胴上げなんて前世でもされたことはない。
最初は地面に叩きつけられる恐怖で気が気じゃなかった。
慣れると中々どうして楽しいもので、トランポリンの上でボヨンボヨンした時のことを思い出した。
下ろしてもらったのを機に宿に戻った。
即席で作った魔法だからか燃費が悪い。援護で魔法を連打したこともあってくたくただ。その日は衝動のままにベッドにダイブして眠りについた。
朝起きて湯を浴びた。心と体をすっきりさせて、この日は術式の改良に取りかかった。
即席で組み上げたから名前がない。
仮にクラスターとしよう。
原理としては大きな火球を作り出して、一か所だけもろくすることで内圧を集中させる。狙った方向にだけ火球を飛ばす仕組みだ。
だから消費魔力が多くなる。
内圧の強さが魔法の威力につながるものの、殻となる火球がもろいと内圧が高まる前に破裂する。下手をすると花火にすらならず霧散して終わりだ。
火球を頑丈にする分だけ魔力がかさむ。使い勝手が悪くなっては本末転倒だ。
先日行使した魔法の戦果を思い出しつつ出力を定める。
完成した。元々ベースができていただけからちょろいものだ。
予想より早く作業が終わってしまった。せっかくだし領内を散歩でもしてこようか。
身支度をしていると外が騒がしさを帯びた。
宿に出ると馬車。ドアが開いておしゃれな衣服の初老が現れる。
視線が合うなりあいさつされた。
フランスキー家の執事アスベルさん。フランスキー伯爵の命に従って俺を迎えに来たらしい。ちょっと派手に動きすぎたようだ。
俺は観念して馬車に乗り込んだ。街並みを後方に流しながら屋敷まで馬車に揺られる。
雑談を交わす内に屋敷の前に到着した。馬車から降りて敷地内に足を踏み入れる。
玄関の扉を開けるなり黒と白の装いをした使用人に迎えられた。
一人一人に自己紹介された。俺も礼儀にのっとって名乗りを上げる。
談話室に通されると赤服の男性が窓際に立っていた。
男性が振り向くなり目が合った。互いに微笑をたずさえてあいさつを交わす。
フランスキー伯爵。
以前リーゲライテ領内で助けたラピア嬢の父だ。
進められてチェアに腰かける。
廊下とつながるドアがノックされた。使用人がティーカートを押して歩み寄る。
テーブルの上がティーカップとお菓子で飾られる。
メイドが一礼して談話室を後にした。
「カムルくん、急な呼びかけに応じてくれてありがとう。領土の危機を救ってくれて礼を言う」
「俺はできることをしただけですよ。フランスキー領がなくなると食いっぱぐれちゃいますし」
「冒険者として活動しているんだったね。君の活躍は聞いているよ。時に、魔法はどれくらい使えるんだい?」
「中級魔法師の資格を取得したくらいには使えます」
「もしよければ娘に魔法を教えてやってくれないか?」
「俺がですか?」
思わず目を見張る。
明確なうなずきが返ってきた。
「ああ。君はラピアと面識があるだろう? きっとうまくやれると思うんだ」
確かにラピア嬢とは面識がある。
でもほんの数日の間だけだ。触れ合いと言えばパーティで花火を見せたくらいで、特別何かをしたわけじゃない。
「俺は誰かに魔法を教えた経験がありませんけど」
「誰だって初めてはつきものさ。君が経験を積むのに私の娘を使う、くらいの気持ちでいい」
「いや、それで困るのはラピア嬢ですよ? 魔法学校の入学試験に落ちても責任を取れません」
「そう言わないでくれ。これはラピアの願いでもあるんだ」
「ラピア嬢の?」
「ああ。魔法を教わるならカムルくんがいいと言っていた。娘のささやかな願いを叶えてやってくれないか? もちろん給料は出す。何なら住み込みでもいい。どうだ?」
俺はうーんとうなる。
教える行為は勉強になるとも聞く。フランスキー伯爵に恩を売れる。
ラピア嬢が試験に落ちるリスクを除けば悪くない話だ。
「提案があります」
「聞こう」
「まずは三か月お試しということでどうでしょう? それで成果が出たらその時は期間を延長するってことで」
「律儀だな。分かった、君がその条件でいいならそれでいこう」
そうして俺はフランスキー伯爵の屋敷で寝泊まりすることになった。




