第21話
「おいやべーぞ!」
「避難所へ急げ!」
街中が騒がしさを帯びる。
通りかかる人に向けて声を張り上げた。
「この鐘の音はなんですか?」
「知らねえのか⁉ 魔物が迫ってんだよ! スタンピードだ!」
「スタンピード?」
「魔物がとにかく大群で押し寄せてくるんだ! いいから早く逃げろ!」
男性が走り去る。
人々が向かう方向はバラバラ。避難所は複数あると推測される。
避難所に向かうのもいいけど、大群が押し寄せるってことは領土の安全が保障されないってことだ。
それは困る。
フランスキー伯爵には貸しがある。回収してないのにおさらばなんて損だ。
俺は冒険者ギルドへと急いだ。
街中に鐘の音を響き渡らせるほどの緊急事態だ。今頃は報酬が高めに設定された依頼が貼り出されているはず。
思った通りギルド内は騒がしかった。耳を澄ませると、領土から逃げようと主張する声もある。
俺は構わずカウンターに走った。依頼を受注して詳細を耳にする。
現場への案内は騎士団が行うようだ。メンバーが集まるまで待機する。
その間に子供は逃げろみたいなことを言われた。
冒険者になった時から死ぬ覚悟はできていると告げた。その年でその覚悟、大したものだと褒められた。名前を聞かれたけど、もうこの人と会うことはないだろう。
募集が締め切られて移動を始めた。
領内と外を隔てる壁が見えた。
門に亀裂が走る。見るも無残に砕け散って瓦礫を散弾のごとくまき散らす。
巨大な人型が映った。足元には小さな魔物がわらわらしている。
パッと見てもその数に圧倒される。
周りがどよめく中で、俺は嘲笑する小宇宙の先端を向ける。
大軍を相手する時の備えはできている。図書館で作り上げた術式を用いて空高くに火球を作り上げる。
火球が爆ぜた。方向性を持った火の礫が魔物の頭上に降り注ぐ。
巨人は痛そうに腕を振るだけだ。大して効いているようには見えない。
小型の魔物はそうもいかない。広範囲で連続する爆風に吹き飛ばされて隊列が大きく崩れた。
即死しなかった個体も腕や脚を負傷して動けずにいる。
俺はすーっと深く空気を吸い込んだ。
「数的不利は解消されました! 大型を囲みましょう!」
周りの反応を待たず追撃の魔法を放つ。
狙いは大きな魔物の頭部。目の当たりを攻撃して、せっせと距離を詰める味方を援護する。
門があった場所から新手が顔をのぞかせる。
大きな魔物は領土の内側に踏み込んでいる。
さすがについさっき放った魔法は使えないけど、入る前なら対処は容易だ。
「光の荊!」
光るトゲ付きの壁で壁の穴を埋めた。これで大型の魔物に集中できる。
数十対一。戦う前から結果は見えていた。




