第16話
時は来た。
俺は妖精界を出て、元いた世界の地面を踏みしめた。
フェリアに教えてもらった場所まで足を進める。
一時間ほど歩いた先に洞窟があった。
魔法で光の球を作り出す。
光の球を浮遊させて視界を確保した。足を前に出して洞窟内の輪郭を暴く。
何も見えない。
確認してから瞳の辺りに膜を意識してまばたきする。
キン! と何かが切り替わった気がする。
おそらく気のせいじゃない。薄暗い洞窟なのに何かが鈍く光っている。
フェリアは魔力を映すフィルターと言っていた。
妖精の眼を開眼してから見えるようになったってことは、この煌めきが魔力か。
リッチの本体は魔力も同然とも言っていた。
魔力の流れを追った先にリッチがいるのかもしれない。警戒して歩みを進める。
アーマーは展開した。光の魔法も用意した。
万全は期した。後は可能なら不意打ちを仕掛けるだけだ。
「止まれ人間。ここを俺の居城と知っての狼藉か?」
右手でL字を作った。人差し指の先端を声が上がった方向に向ける。
【光弾】。基本属性を束ねた魔弾を闇に向けて発射した。
「ぐああああアアアアアアアアッ⁉」
光が視界内の闇を暴いて骸骨が浮き彫りになる。
紫のローブが焦げ付く。
骨の手に握られていたロッドがカランと地面を鳴らした。
「き、貴様ッ、何故光属性の魔法を使える⁉ 勇者以外に、光属性の魔法を使える者がいたというのか⁉」
勇者? この世界にはそんなのがいるのか。
考えてみれば当たり前か。
魔物がいれば、それらを統括する魔王がいる。
魔王がいれば、それを討たんと掲げる勇者がいる。
きっと勇者は神に選ばれた存在だ。闇以外の属性を備えていても不思議はない。
俺は第二射を準備する。
「ま、待て! やめろ!」
「待たない」
二発目の光弾が薄暗い空間を白く染め上げる。
光が収まると、視界内で流れていた煌めきが薄くなった。
「バカ、な……大国の軍を一人で壊滅させたこの我が、こんな子供ごときに……ッ!」
ぬわああああアアアアアアアアッ!
絶叫が洞窟内を駆けめぐる。
叫びが聞こえなくなると同時に魔力の流れが途絶えた。




