第13話
レベッカたちを見送るなり手紙を書いた。
後日屋敷に届いた手紙には、よりを戻すことを許可する旨が記されていた。
伯爵の位が手に入るとはいえ、ライデリット兄さんもあんなわがまま娘は嫌だったのだろう。
正直期待していた。
レベッカは俺の女だ、例え弟にもやるわけにはいかない! なんてラブロマンス的な展開を待ち望んでいた。
しかし現実は俺が知る通り薄味だった。これじゃロマンスのロの字もない。
便りが来た以上はもう誤魔化しがきかない。
俺はよりを戻すとは言ってないけど、断ったらオイデインや父がうるさい。また冷ややかな目で見られる日々を想像するとおっくうになる。
いや待てよ。
そうだ、この手があった! 俺が家を出てしまえばいいんだ!
レベッカはニーゲライテ男爵との結びつくために婚約する。
ニーゲライテの名を捨てさえすれば、レベッカが俺と婚約する意味はなくなる。
よりを戻す件はのらりくらりとかわして、じっくり実力をたくわえたらニーゲライテ領を出る。それで貴族の面倒くさいしがらみとはおさらばだ。
後ろ立てがなくなるのは不安だけど、俺には勲章や爵位がある。
冒険者登録もすませてある。後はどうとでもなるだろう。
人生の方針を決めたら、より一層魔法の勉強に身が入った。
上級魔法の勉強は数学の応用問題を解くようで難解だけど、基礎ができているから取っかかりはある。
分からないところは家庭教師に質問して、毎日予習復習に努めた。
並行して新しい魔法の開発にもいそしんだ。
育成があれば魔力回路をきたえられるけど、どうせなら防御能力をつけた方がいい。
この前ちょうどいいものを見つけた。
エンシェントドラゴンが見せた、魔法を無力化する防御方法だ。
四大属性の魔法を無効化する防御。闇属性の魔法を修得できれば、光と闇の無力化も不可能じゃない。
魔法が当たった瞬間に発動するから魔力の消費も抑えられる。
作らない手はない。勉強以外の時間はこれに捧げた。
時折父やオイデインに邪魔をされた。
どうせロールレイン伯爵から圧でもかけられているんだろう。
レベッカはいい子だよ? 反省してるみたいだよ? そんなことを気色悪い笑顔で告げられた。
気の毒とは思わないでもないけど、俺は彼らにされたことを忘れていない。
俺から爵位や勲章がなくなれば、二人が手のひらを返して冷遇するのは目に見えている。今さらどうやって信用しろと言うんだ。
もちろん態度には出さない。
俺が二人に冷たく当たれば、いずれライデリッヒ兄さんにも俺を説得する任が課されるだろう。
ライデリッヒ兄さんは父に逆らえない。
学園の寮は王都にある。屋敷まで戻るにも相当な時間がかかる。こんなことで迷惑はかけたくない。
俺は当たり障りのない言葉を選んで事務的に対応した。
たまに屋敷を訪れるレベッカとも円満なふうを装った。
以前のような高飛車な雰囲気は鳴りを潜めた。言葉を発するにも俺の顔をうかがってきてやりにくいったらない。
やっぱり誰も幸せにならない。俺は屋敷を出て行くべきなんだと強く確信した。
上級魔法に関する魔導書とにらめっこして、新たな魔法の開発に励む。
レベッカとの復縁を迫る長男と父をいなして、時々屋敷に来るレベッカと適当に談笑する。
そんな日々を送る内に試作型の術式が完成した。




