第11話
後日ニーゲライテの屋敷に王直属の近衛兵が訪れた。
エンシェントドラゴンを退けた功績をたたえたいらしい。父と迎えの馬車に乗って王都を目指した。
たどり着いた王城には、派手な衣装をまとう王様や枢機卿といった面子が待っていた。
彼らの前で叙爵が行われた。派手な勲章とともに、俺には騎士爵の位が与えられた。
晴れて俺も貴族の仲間入りを果たした。
宿に泊まって夜を明かした。
宿ですれ違う父はどこかそわそわしていた。
レベッカの件で、父は俺への当たりをきつくした。
冷遇していた相手が勲章と爵位を得たんだ。どうあつかっていいか迷っているのだろう。
男爵はそれほど高い位じゃない。俺の歳を考えれば近い将来越される。それこそ伯爵令嬢との婚約がなくたって家は安泰だ。
父もそう考えたのだろう。ニーゲライテ領に戻る馬車の中では、父が発した声色は気持ち悪いほど優しかった。
気持ち悪くても父親は父親。俺は適当に流してニーゲライテの屋敷に戻った。
◇
「レベッカ。今からニーゲライテ領に行ってきなさい」
「どうして?」
「カムル君とよりを戻してくるんだ」
レベッカが目をぱちくりさせた。
「何で? 私はライデリットと許嫁になったのに」
「カムル君は勲章と騎士爵の位も得た。ライデリット君よりも将来有望なのだ。分かるだろう?」
「分かんない! そんなのライデリットにも取らせればいいじゃない」
「取ろうとして取れるようなものではないんだ。まだ幼いお前には分からないだろうが、これからカムル君のもとには縁談の話が殺到する。そうなる前に早く行ってきなさい」
「分かんない! なんで私がお話をしに行かなくちゃいけないの⁉」
「わがままを言うな! もとはと言えば、お前が許嫁を解消したいと言い出したのが悪いんだろう!」
大声に驚いてレベッカが身をびくっと震わせた。
「な、なによ、お父様も納得してたじゃない!」
「これはロールレイン家全体の問題なのだ! あの年齢であの実力。カムル君は男爵の器にとどまらない。下手をすれば侯爵の位に到達するかもしれん。そうなった時、理不尽にいちゃもんをつけて許嫁を解消した我らの立場はどうなる⁉」
「分かんない、分かんないよ」
「いいから行け! いいか? 必ずカムル君との仲を修復してくるんだ。セバス! お前も一緒に行ってサポートしてこい!」
「承知いたしました。さあお嬢様、参りましょう」
執事に手を引かれてレベッカが書斎を出る。
この時確実に、父と娘の間に亀裂が走った。




