第10話
俺はデバイスを用いて術式の構築に取りかかる。
あっちこっちに逃げ惑う冒険者に、逃げるなと怒声を上げる指揮官。この場はもう収拾が付かない。
俺が失敗したらニーゲライテ領はでっかい足に地均しされる。
噴き上がる焦りに全力でふたをして、せっせと術式を構築する。
「できた!」
すぐに石だたみを蹴ってエンシェントドラゴンとの距離を詰める。
魔物と目が合う。
すぐに視線が外された。
巨竜にとっては俺なんて道端の石ころ同然か。
それでいい。
それがいい。
道端の石ころじゃないとできないことだってある。
十分に距離を詰めて魔法を発動した。虹色の光が空間をまばゆく染め上げる。
遠目から見たエンシェントドラゴンの背中は日焼けしていた。
日焼けは火傷だ。熱くてヒリヒリする。軽度であっても火傷はしない方がいい。
光属性に耐性があるなら火傷なんてしない。
でもエンシェントドラゴンの鱗は焼けていた。
この魔法なら当たるはずだ。
「【光の荊】!」
光が物質化して巨大な荊の壁を形作る。
鈍く光るトゲが迎撃するように伸びた。竜頭を突いて、エンシェントドラゴンが大きな悲鳴を上げる。
鱗が少し欠けただけだ。大したダメージは入ってない。
それでいい。
血気盛んな連中は討伐を叫んでいたけど、俺たちの目的はあくまで領土を守ることにある。
傷なんて負わせなくていい。
進むと不快な目に遭う。そう思い込ませるだけでいいんだ。
誰だって荊に塞がれた道を進もうとは思わない。知能ある生き物なら荊の壁を回り込んで歩く。
ドラゴンは知能の高い魔物だ。
エンシェントドラゴンも例外じゃない。光る荊を避けるように進行方向を変える。
のしのしと地面を均して、エンシェントドラゴンがニーゲリッテ領とすれ違った。
「進行方向が逸れて行くぞ……」
「あの荊のおかげか?」
残った冒険者が次々と戸惑いの声を上げる。
声が集まって、次第に歓声がわき起こる。
俺の周りに人が殺到した。
やるじゃないか少年!
今のどうやったんだ⁉
俺を労う言葉をよそに地響きが遠ざかって、この領土防衛戦は幕を閉じた。




