第1話 売れない配信者 日向メグル
「――と、いうわけで今回の配信は以上です! もし良ければチャンネル登録お願いします! ご視聴ありがとうございました!!」
俺、日向廻メグルの声が静かなダンジョンに反響する。
いつものように配信端末を閉じ、その間際に同接を確認。
0、悲しみを誘う数字。
「今日も0人かぁ……」
ゴロン、と脱力しながら仰向けになる。
ダンジョンがこの現代に出現するようになり早20年。
ダンジョンから得られる資源は、かつての地球上で存在しない物ばかり、瞬く間に一大産業として台頭した。
『冒険者』という職業が定着するまでにさほど時間はかからなかったようで。
特に、ダンジョン内を生配信しながら攻略していく戦い人『ダンチューバー』は、子供のなりたい職業で常に上位。
そして、このしがない男子高校生の俺も、そんな人気ダンチューバーになる夢を持つ一人だ。
ただ、そんな人気ダンチューバーになるには欠かせない条件がある。
俺はダンチューブ(ダンジョン配信専用サイト)を開き、切り抜きを漁る。
光り輝く大剣を持った男性冒険者が、モンスターに巨大な斬撃を浴びせ、見事討伐する。
『――列波、光雷刃んんんんんん!!!!』
『すげええええ!!』
『やっぱ一味違うわ!』
『神神神神神神神神神!!』
流れるコメントは皆、男冒険者を讃える物だ。
続いての切り抜きでは、魔導士の少女が巨大な火の玉を頭上に顕現させる。
『――死の大火球!!』
モンスター目掛け火の玉が直撃、その圧倒的火力で消しズミにした。
『激ヤバい!!』
『もうやりすぎだろwwwww』
『モンスターに同情するわ』
そして最後の切り抜き、お坊さんのような見た目の冒険者が、数珠を強く握りしめ叫ぶ。
『――なんかすごいやつ破あああああああっ!!!!』
瞬間、お坊さんの手から光線が放たれる。
モンスターはマトモに喰らい、爆散する。
『何が何だか分からんw』
『無茶苦茶だよこの人!』
『もうお前だけいればよくね?』
ひとしきり切り抜きを見て気付いただろうか?
いずれのダンチューバーの配信もとにかく派手な戦技、魔法が炸裂している。
群雄割拠のダンジョン配信、人はどんな動画を見たいだろうか?
答えは簡単、人並みを外れた技を持つダンチューバーの配信がみたいに決まってる。
俺だってそう思うくらいだ。
「盾役も良い職だと思うんだけどなぁ」
仰向けのまま、装備したシールドを天に掲げる。
俺の職は『盾役』、敵の攻撃を防御しながら気を伺い、ジリジリと攻めていく前衛職。
ちなみに、引くぐらい不人気な職として知られている。
その戦闘スタイルと、ダンジョン配信の相性がとにかく悪いためだ。
ガン盾を決め込み、ねちっこくモンスターと闘う動画を人はいちいち開かない。
少なくとも、俺の配信が見られない要因の一つにはなっているだろう。
「やっぱり無理なのかなぁ……」
端末をスクロールすると、とあるダンチューバーのチャンネルが目に入る。
銀髪ロングのストレート、和服を思わせる冒険者服、透き通る流紋の刀を携えた女子冒険者。
――姫路トウコ。チャンネル登録50万人『姫路道場』のアカウント主、今最も勢いのある現役女子高生ダンチューバーだ。
『前衛女子ダンチューバーランキング第1位』『冷静沈着なダンチューバーランキング第1位』『ゴミを見る目で踏まれたいダンチューバーランキング1位』など、様々なランキングで首位を獲っている。
そして、俺の通う高校の同級生でもある。
クラスは違えど、一度廊下ですれ違ったことがある。
刀にも負けない鋭い目付き、凛とした佇まい。
ああいう人間が特別なんだろうな。
オーラがあるっていうか、普通じゃないって感じが漂ってた。
あんな風になれたらなぁ、って何度思ったことか。
「クヨクヨしてたらダメだ、俺は俺だ」
俺は起き上がり、来た道を戻っていく。
この新宿ダンジョンは新宿駅の如く複雑、ましてやここは下層、迷子は命取りだ。
◇
「うーん、いっそのことバチバチのクール系でいくか? いや、俺にそんなことは無理だな」
頭を悩ませながらダンジョン内を歩いて行く。
俺の手によって倒されたモンスターたちがそのまま残ってるので、帰り道の目印となる。
その時、遠くの方から僅かに声が聞こえた。
「……女の子の声?」
微かにだけだが、間違いない。
あれは悲鳴だ。
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