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お嬢様とわたし  作者: ふとん
お嬢様と彼の日々
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クリスマスのこと 2

私は、クリスマスが大嫌いだった。

派手な装飾もパーティも、以前の我が家に集っていた人々も。

参加させられていた頃はいつもなくなってしまえと思っていた。


けれど、いざ本当になくなってしまうと、何だか落ち着かない。

なぜかクリスマスを指折り数えてカレンダーを眺めている。


そう、たとえば大きなケーキだとか、プレゼントをもらって喜ぶ弟の姿だとか。

そういう、もう見られないだろう景色が思い出される。


山坂吉之助という男とマンション暮らしを始めて、半年が経とうとしていた。


いつもヘラヘラしていて、どうしてこんなヤツが社会で働いていけるのかと思うほど頼りない男だけれど、仮にも独身の若い男の家に、一人娘を置かせているのは、やはりそういうことで。

けれども、わかっているのかいないのか、吉之助は手にも触れようとしない。

家政婦のように扱われているといえばその通りだと思う。でも、彼は私をお嬢様として扱う。それは、私が本当に世間知らずなお嬢様、ということもあるけれど、大勢のお手伝いがいた頃よりも丁寧に扱われているような気がしてしまうときがある。


気を、使われているのだろうか。


彼は朝が弱くて、私がいつも起こしに行く。冬は布団を剥ぎ取らないと彼は起きない。

跳ねている髪を整えることも、食事の支度をするのも、掃除や洗濯をするのも、買い物だって私の日課だ。この家で生活はほとんど私が仕切っているに等しい。感謝されるのならまだしも、と思うのだが、


「明日、何か予定ある?」


朝食の席でこんなことを聞いてしまった。

吉之助という男は、年間行事には疎い。というのも日曜祝日はもちろんゴールデンウィークにも仕事が入る多忙を極めているからだ。本人だけを見ているとそう忙しそうにも見えない若造に見えるというのに一度だけ秘書が持ち込んだ書類の束は、私が今まで持ち帰ったことのある資料よりも多かった。

きっと、クリスマスも仕事で忙しい。

そう期待したのに。


「ううん。特にはないよ」


ワイシャツのとうへんぼくは、にこやかに言った。

何言っているのかしら!

秘書の田上さんが悲鳴あげるわよ!

それに、クリスマス用に何か特別な料理やケーキを用意するとなると今から大変だ。


けれど、私の内心を勘違いしたのか、彼はちゃんと帰れるかはわからないと付け足した。


そうだ。

ちゃんと定時に帰れる保障はない。

いつだって、忙しいときは午前様なのだ。

朝、起こしに行ってもベッドにいないときだってある。


そして、新年はきっと、この家にいない。



新年は家族と過ごして良いといわれているけれど、弟とも話して大学卒業まで家族とは会わないことにしている。

私は、たぶん、人身御供にされたことを許せていないのだ。


押し黙ってしまった私に、彼は「いってきます」とだけ言い残して、家を出て行った。


結局その日、彼は帰ってこなかった。




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