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お嬢様とわたし  作者: ふとん
お嬢様と彼の日々
3/19

クリスマスのこと 1

「明日、何か予定ある?」


朝食のコーヒーに舌鼓を打っていた僕に彼女はこう切り出した。

年末は目前の十二月も終わり。

暖冬だとニュースは告げるけれど、布団から這い出すには辛い。

少し重たい瞼の先に今日と明日のスケジュールを僕は思い出してみる。


会議に会食、帰社してデスクワークでまた会議。明日はデスクワークのあとに会議が二つ。

優秀な秘書が管理してくれている綿密な計画は今日も秒刻みだ。

けれど、


「ううん。特にはないよ」


期待と不安と、彼女特有の照れが入り混じった瞳に無粋なことは言わない。


「何時に帰れそう?」

「そうだなぁ……七時には帰れるかな?」

「七時?!」


最近はだいぶ砕けてきたが生粋のお嬢様の彼女が、普段はあまり大声を出さない。そんな珍しい素っ頓狂な声を上げると彼女は「嘘、そんなに早いなんて」と視線をさまよわせ、「どうしよう…そんなの予定にないわよ!」と独りごちる。


どうやら早く帰ってくるのは駄目らしい。

友達との約束でもあるのだろう。僕に遠慮なんかしてくれなくてもいいのに、彼女は普段まったくと言っていいほど夜遊びもしない。

大学生活は存分に楽しんでほしいのに。

もちろん、これからの人生も。


「ごめんね。麗子さん。七時とは言ったけれど、会議が二つもあるからちゃんと約束は出来ないんだ」


そういうと、慌てていた彼女は、ふ、と表情を沈めてしまった。

また僕は目算を誤ってしまったらしい。

僕は黙ってしまった彼女に気の効いた言葉をかけることはできなかった。


結局、出勤前に辛うじて「いってきます」とだけ言うことができた。




幾分、滅入った気分で秘書にあうと、彼は、

「クリスマス前なのにこんなに多忙だとは、不景気だと思えませんね」



そうか。クリスマス。

日本人はクリスチャンでもないのにクリスマスという行事をとても楽しむのだった。


彼女には、あまり家族と会える機会もない。

会えるのは盆と正月だけ。

なら、せめて。


「田上くん」

「なんでしょう?」

今日と明日はこの皮肉屋で善良な秘書に、少しだけ苦労してもらうことにしよう。



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