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 ルーンさんが、逃げ出してしまったので、午後からは王都のパトロールをすることにしました。


「王都のパトロールも、大切な魔王の勤めです!」


 私は、城下町に出ると元気いっぱい言いました。


「皆さん、こんにちは!」


「わぁ、ニルナ様だ。こんにちは」


「今日も元気ですね。ニルナ様」


 みんな、ニコニコ笑顔を向けてくれます。

 国の王が護衛もつけずに、歩いているのは国が平和な証拠です。


 実際は、私がものすごく強くて、仮に勇者が奇襲してきても簡単に倒せるだけだということを、ほとんどの人は知りません。


「今日も不届き者の気配はしますが、相手は夜してあげましょうか……むっ」


 私は、肌に雨粒を感じて空を見上げました。


「ああ、雨ですか」


 私は、雨宿りするため、慌てて軒下に駆け込みました。

 街角の石畳が濡れて光り、かすかな土の匂いが漂います。こんな日は、昔のことを思い出すのです。あの子供の頃、お花畑で遊んでいた雨の日を。


◇◇◇


 お花畑で楽しそうに遊んでいると、突然雨が降り出して、ドレスが泥だらけになってしまいました。冷たい雫が肌に染み、悲しい気持ちでいっぱいになると、兄様が傘を持ってやって来ました。


 空を見上げながら、兄様がいいます。


「今日は、いい日だね」


「いい日ですか、お兄様?」


「だって、ニルナの大好きなお花たちが、こんなに喜んでいるよ。ほら、見てごらん」


 私はドレスから目を上げて、周りを見回しました。花たちは、雨のシャワーを浴びて生き生きと葉を広げ、にこにこと微笑んでいるようでした。


「本当ですね」


 しばらくすると雨がぽつぽつと止み、雲の隙間から柔らかな陽の光が差し込みました。湿った花の香りが辺りに漂い、頬に残る雫がひんやりと冷たくかんじます。ふと空を見上げると、七色の虹が静かに弧を描いていました。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫――まるで空が微笑んだかのように、輝く光が雨上がりの空に溶け合っていたのです。


「うわぁ」


 私は思わず声を上げました。心がふわっと軽くなり、さっきまでの悲しみが虹の光に溶けていくようでした。この虹を見逃していたら、きっと気づかなかったでしょう。兄様の言う「いい日」の意味を。


「いい日ですね、お兄様」


「そうだろう? ほら、城に帰って暖かいシャワーを浴びよう」


「はい!」


 それからというもの、雨の日も私にとっては素晴らしい日になりました。


◇◇◇


 あの日の雨のように、街角の雨さえ輝いて見えます。石畳に跳ねる雨粒が、街灯の光を受けてキラキラと踊っています。湿った空気に花の香りが漂い、まるで過去と今が重なるようでした。


「とはいえ、今日はなかなか止みませんね……」


 雨足は、少しずつ強くなるばかりです。

 私は、覚悟を決めて城に濡れて帰ろうかと思ったところで。


「ニルナ様、こんなところにいたんですね」


 いつもの優しい声が聞こえてきました。


 振り向くと、私のフィアンセであるフィルクが大きな傘を差して立っていました。


「ああ、フィルク、こんなところにどうしましたか?」


「どうしましたか、じゃありませんよ。雨が降るって言ったのに、帰ってこないから、心配だったんです」


「なにいってるんですか? 私が本気を出せば、雨雲だって吹き飛ばせますよ!」


「やめてください。ニルナ様。王都まで吹き飛んじゃいますよ。さ、城に帰りましょう」


フィルクが、傘を傾けて私を招き入れる。私は、その傘の下に滑り込むと、フィルクの腕に自分の腕を絡ませました。


「今日は、どんな日でしたか?」


 フィルクが、私に尋ねてきました。

 私は、笑顔で答えます。


「もちろん。今日もいい日でしたよ!」


 私は、街角を二人で歩きながら、どんな雨の日も輝く素敵な日になるのだなと思うのでした。


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