メンテナンス
「さあ! 今日もはりきって修行をしていきましょう!」
私は、今日もお庭のお花にお水やりをした後、修業をしていました。
「いきますよ!」
私は、全力で魔力を聖剣に込めました。
聖剣変形「運命の剣」
エンブレムが光り輝くと、シャカカカと音を立てて、瞬く間に刃が煌めくウィーザルソードに変形しました。そのまま、かっこよく構えてみせます。
「うーむ」
いつも通り、魔法効果『軽量化』も発動していますし、振り心地も変わりません。
ただなんというか、コンマ1秒反応が遅かった気がします。
「調子が悪いというほどではありませんが、クミースに見てもらいましょうか」
聖剣は、剣でもありますが、魔導具でもあります。
しっかり打ち粉をして磨き上げて、毎日剣としてのメンテナンスは行っていますが、魔導具としてのメンテナンスは私ではうまく行うことが出来ません。
ここは、魔導技師(見習い)のクミースに見てもらうべきでしょう。
私は、そう思いいたると、お城に併設した魔導戦車の倉庫兼クミースの工房を訪れました。
「クミース? いますかー?」
私は、真紅のドレスをなびかせながら、ホコリまみれの工房を優雅に進みます。
「ニルナ、いらっしゃい」
魔導戦車の下から出てきたクミースが気さくに挨拶しました。
「どうしたの?」
「ちょっと、聖剣の調子を見てもらいたくて」
「うん? ちょっと貸してみて」
クミースは、聖剣をあれこれ触り始めました。
「誰か他の人に貸したりした? ニルナじゃない魔力が残留しているみたいだけど」
「シャルディア王に貸してあげたことがありましたね」
「あんまり、他の人に触らせない方がいいわよ」
クミースはそう言いながら、聖剣を機械にセットしてメンテナンスしてくれました。
どうやら、残っていた魔力を抜いてくれたようです。
私は、受け取った聖剣を掲げてみました。
カシャン、カシャン、カシャーン、シャキーン!
見違えるように、私の魔力に反応してくれます。
「完璧ですね! ありがとうございます」
「ふふーん! このくらいアタシにかかれば、朝飯前よ」
昔のクミースの口癖は『なんにもできないわ!』でしたが、魔導具の扱いに慣れてきて、自信に満ちあふれています。
聖剣が直ったので、私は疑問を口にしました。
「ところで、さっきは、どうして魔導戦車の下にいたんですか? 魔導戦車調子が悪いんですか?」
「ううん。そうじゃなくて、魔導戦車、空を飛ばそうと思って」
「空を?」
「そうよ」
魔導戦車は、今でこそ戦車と呼んでいますが、元は私が使用していた馬車です。
それを、ソウとボーレンが魔改造を施し、魔法の力で爆走する魔導戦車になったのでした。
それが――。
「空を飛ぶんですか?」
「しつこいわね。空飛ぶように、アタシが設計したのよ。ほら見てみなさい」
クミースが、図面を見せてくれました。
私には、難しくてよくわかりません。
「どのように羽ばたくのですか?」
「羽ばたくんじゃなくて、爆発の推進力で飛ぶのよ」
クミースが、魔導戦車の差込口を指さしました。
「ニルナ、魔力を充填してくれない。ほら、あの爆発する形態にして差し込んでくれたらいいから」
「スルトソードですね。わかりました」
私はさっそく聖剣をスルトソードに変形させると、剣を鍵の差し込み口のような所にさして、魔力を流し込みます。
魔力を覗き込みながら、図面を見ると気になる部分が1か所ありました。
「ここの×は何ですか?」
「それは、魔導戦車を爆発させる起爆装置よ!」
「起爆装置!? 魔導戦車を爆発させるんですかっ!?」
「もちろん 狙って爆発させるわ! 作戦はこうよ。ニルナが魔導戦車に乗り込み、敵国に突撃。爆発の中から、高笑いしながら出現して、敵国を侵略する。どう? 完璧でしょう?」
いろいろクミースは、誤解しているようです。
「えーと、ですね。私は別に、侵略したくて、しているわけではないのです……」
魔王を名乗ったら、勇者がどんどん攻めてくるので返り討ちにして、それでも暗殺者の数が減らないので、しびれを切らして、攻勢にでているだけなのです。
「侵略は、いざってときに、決まってるでしょう。基本は、アタシの作ったもので、ニルナを遠くに連れていきたいだけよ。昔のなんにもできなかったころのアタシとは違うんだから!」
「さすがクミースです! クミースは、私の一番の魔導将なのです!」
「勝手に変な役職つくらないでよ……バカニルナ」
私とクミースは、顔を見合わせると、いつものように笑いました。
「さっそく試運転してみるわよ」
◇ ◇ ◇
クミースと一緒に、王都郊外の丘にやってきました。
さすがの私も、いきなり魔導戦車……いえ、魔導飛行機に乗るのは、怖いので小さな模型を作ってもらいました。
クミースが持ってきたのは、手のひらサイズの、小さな魔導飛行機。
艶やかな銀色の機体に、小さな羽がピンと伸びていて、なんだかちょっと可愛い。
「ニルナ、魔力込めて」
「はい!」
私は、聖剣を早速変形させるとスルトソードにしました。
スルトソードの先端を模型に刺して、ずずずいっと魔力を注ぎました。
魔導飛行機が、魔力が満タンになると、ぴかりと光り輝きました。
「いい感じだわ」
私は、わくわくしながら、模型を草地の滑走路(自作)にセットしました。
「準備オーケーです!」
「発射スイッチ、オン!」
パチンとクミースが起動レバーを弾いた、その瞬間――!
ぶおおおおおおんッ!!
魔導飛行機の底から噴き出した魔力エネルギーが、轟音をあげて大地を焦がしました。
機体は勢いよく前へ飛び出し、滑走路を駆け抜け――!
「「とべぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
私とクミースの叫びに応えるように、模型は地面を蹴ってふわりと浮かび上がったのです!
ぎゅいーーんっ!!
まるで天に向かって突き刺さるように、真っ直ぐに、猛烈なスピードで、どこまでも上昇していきました!
「わ、わぁ……速すぎます!」
「いい感じね!」
予想をはるかに上回る加速力に、私たちはただ見上げるしかありませんでした。
そこで、ふと私は疑問を覚えました。
「クミース、ところで、どうやってあの魔導飛行機をコントロールするのですか?」
「あっ。考えてなかった」
飛んでいった魔導飛行機の模型は、クラウドラの国境の方にどんどん飛んでいきます。
そして。
ひゅるひゅるひゅる~~~~~~。
浮かびすぎた模型は、あっさりバランスを崩して、くるくる回転しながら――墜落しました。
次の瞬間。
ドッカ―ン!
空と大地を揺るがすほどの、巨大な爆発音。
超新星が生まれたかのような大爆発を引き起こすと、超巨大なキノコ雲が発生しました。
「うわぁ……」
自分の魔法の威力とはいえ、ドン引きしてしまうほどの破壊力です。
かなり距離があるのに、地形が変形してしまったのが目視できます。
「あの辺は、フィルクがクラウドラ軍に魔法を放った所で、人は住んでないはずだから」
クミースが冷静に言いました。
冷静なのは、口調だけで、視線は泳いでいます。
「そうですね……。とりあえず、フィルクに相談しましょうか……」
……それにしても、あんな小さな模型一つで、あの破壊力。
もし本物だったら、王都が吹き飛んでしまうかもしれません!
そんなわけで、フィルク様に相談したところ――。
「威嚇射撃には、ちょうどよかったのでは?」
ということで、小型版魔導飛行機は、『ミサイル』という新型兵器とすることになりました。
近隣諸国に、さらに私の悪名が轟いたのでした……。