聖剣『サンライズ』
ビュンビュンッ!
私は、流れる水のごとき滑らかな動きで、聖剣を振り続けます。
剣を振るうたびに、光が軌道を描き、一瞬の残像となって消えるほどです。
「998、999、1000回! ふう。終わりました!」
私は、千回の素振りを終えて、太陽の光を反射し輝く、玉のような汗を拭います。
「むにゃむにゃ、ふわぁ。終わったかの」
振り向くと、草むらで寝ていたルーンさんが、身を起こすところでした。
「あー寝てましたね。ちゃんと見ててくださいよ」
私の神々しいほど美しい素振りのフォルムを見ないなんて信じられません。
「ニルナの素振りなんて、カキュルトの話より眠気を誘うんじゃが」
カキュルトというのは、私の国のゾンビ研究第一人者です。人々の為に、毎日ゾンビを使って研究をしてくれています。しっかり報告にきてくれるのですが、話がよくわからず寝てしまうこともあります。
「カキュルトの話は、仕方ないと思います。ですが、私の素振りは見ててください!」
カキュルトの話より眠いだなんて酷いのです。
「だから、ちゃんと起きたじゃろう。で、なんの修行をするんじゃ」
「もちろん。伝説の聖剣『サンライズ』を使いこなす修行です!」
私は、サンヴァーラの前身であるサンライズ王国の名を冠する伝説の聖剣『サンライズ』を掲げました。
太陽の光を浴びて、燦然と輝きます。
「どんな伝説が、あるか覚えているかの?」
「えーと、ソウが海の邪竜『リヴァイアサン』を倒したんでしたね」
「その通りじゃ。ソウがリヴァイアサンを倒すの間近で見てたがの。かっこよかったの。というのも、ソウの奴は……」
ルーンさんは気分よく昔話を始めました。
老人の昔話ほど、退屈なものはありません。
「伝説よりもこの聖剣のすごいところは、持ち主の魔力に応じて変形し、様々な魔法を放つところです」
「ニルナはいくつ変形できるんじゃ?」
私は指折り数えてみることにしました。
「えーと、グングニル、レーヴァティン、フレイソード、スルトソード、ウィ―ザルソード、ミョルニル、メギンギョルズ、ヤールングレイプル、ブリーシングネックレス、時空剣三種、すみません。指が足らなくなりました」
私が変形できるものだけでも、10種類以上あります。
「結構沢山あるの」
ルーンさんの言葉に、私はこくりと頷きます。
「いっぱいありますが、敵を見定めて、用途に応じて、変形させることが大切になります」
「そうじゃな。形態に応じた魔法は基本一種類だけじゃからのう」
魔法は、相性があり、じゃんけんのようなものです。
例えば、フレイソードの魔法効果は『自動迎撃』です。
物理攻撃には、無類の強さを発揮しますが、属性魔法には対処できず弱かったりします。
いろいろ使えたとしても、相手の魔法にあった形態で対応できなければ負けてしまいます。
「あとは、変形速度も大切です。見ててください」
私は、剣を構えると皆を守りたいという想いを高めました。
魔力解放『創生』
私の瞳が宝石のように光り輝き、世界を創り変えるほどの、煌びやかな魔力が私から放たれます。
聖剣変形「勝利の剣」
聖剣の紋章が赫赫と光り輝くと、シャキーン!と音を立てて変形し、燃えているかのような両刃の剣になりました。
「どうですか!」
私は自慢げにフレイソードを掲げてみせます。
「うむ。昔に比べると、随分変形速度が早くなった気がするの」
「はい。勇者ハーツと戦った時は、変形速度で負けて、苦戦しましたからね」
変形している間も、敵は待ってくれません。
聖剣で戦うときの一番の隙だと言っても過言ではありません。
「変形速度は、大切です!」
バトルでは、いかに、高速で変形し、魔法を放つかが重要になります。
聖剣を扱うものにとって、聖剣変形は基礎ということです。
「ということで、次は変形練習を行いたいと思います!」
シャキーンと私は、聖剣を構えました。
「どのくらいやるんじゃ」
「とりあえず、千回ですかね」
「千回、好きじゃな……。まあ、がんばるんじゃな」
「はい!」
ということで、なんだかまた呆れているルーンさんを尻目に、私は変形修行を行うことにしました。