7.とある夫婦の悩み
「……ふう、やれやれ」
湯船にしっかりと浸かり、リオンは深い溜息を吐いた。
スノーウィンド公爵家で夕食をごちそうになったリオンであったが、間を置くことなく入浴を勧められた。
風呂上がり後は、アルフィラとサフィナとの子作りについて話し合うことになっている。
少し前までは、どうにか子作りしてくれる女性を探すことに躍起になっていたのだが……今は誰と子作りをするか、どういう順番で子作りをするかなど、悩む余裕ができていた。
順調に進んでいるのだから良いことのような気がするが……男として、大切な物を無くしているような心境がある。
「いや、まあ、幸せな悩みだよな……うん」
アルフィラもサフィナ、いずれも類まれな美女と美少女である。
そんな二人を抱いて、子供を産ませる権利を獲得したのだ。
女神からの使命を抜きにしたとしても、男冥利に尽きる状況である。
「とにかく……二人とできるだけ誠実に向き合って、その上で子供を産んでもらわないとな。うん」
「妹達のことをしっかりと考えていただき、ありがとうございます。姉として礼を言いますわ」
「ああ、はい…………はあっ!?」
後ろからかけられた声に普通に返事をしてしまい、すぐに異変に気がついた。
振り返ると、そこにはバスタオルで身体を隠した美女が立っていたのだ。
「貴女は……マリアステラ嬢!?」
そこにいたのは、スノーウィンド公爵家の長女であるマリアステラ・スノーウィンドである。
マリアステラは楚々とした仕草で湯船に歩み寄り、桶で身体を流してから、リオンの隣に浸かってきた。
「ふう……良いお湯ですこと」
「ま、マリアステラ嬢……どうして、ここに……!」
「リオン様にどうしても相談したいことがありまして、来てしまいました」
マリアステラが頬に手を添え、微笑みながら言う。
「そ、相談とは……」
「はい、実は……妹達だけではなく、私にも子種を授けて欲しいのです」
「ッ……!?」
「リオン様の御子であれば、間違いなく強い子供になるでしょう。スノーウィンド公爵家の後継者として、相応しい子供が生まれますわ」
「ちょ、ちょっと待った!」
はんなりとした笑顔で話すマリアステラだったが……そこには彼女が話す内容には大きな問題がある。
「貴女は既婚者のはず。夫がいるんですよね!?」
そう……マリアステラは二人の妹達とは違って、すでに結婚しているのだ。
エドガーという名前の夫を、つい先ほど紹介してもらったばかりである。
「ああ、ご心配なく。もちろん、夫の同意は得ていますわ」
マリアステラが何気ない仕草で浴室の入口を指差した。
指の先を目で追うと、浴室の戸がわずかに開いていて、誰かが中を覗いているのがわかった。
「あれは……」
「エドガーよ。見学したいって言って聞かないから、連れてきたの」
「連れてきたって……」
「言ったでしょう? 夫の同意は得ているって」
マリアステラが心地良さそうに腕を上げ、グッと伸ばす。
たわわに実った果実が湯に浮かんだまま、フワリと揺れた。
「これは結婚してからわかったことなのだけど……どうやら、夫には子種がないようなの」
「え……?」
「子供の頃に熱病にかかった影響みたいね。子供が作れない体質なのよ」
マリアステラがわずかに表情を曇らせて、説明を始めた。
「もしも夫に種がないことがお父様に知られてしまったら、私達は離縁させられることでしょう。公爵家の跡継ぎが生まれなくなるのだから当然ね。私としては、妹達の子供に跡を継がせたら良いのだけど、貴族社会は面倒だから。どうしても、長子の子供が優先させられちゃうのよ」
「…………」
「だから、父にバレる前に、誰か代わりの男性に子種を貰えたらと思っていたのだけど……ちょうど良いタイミングで、貴方が現れた。せっかくだから、妹達のついでに私も孕ませていただけないかしら?」
「それは……旦那さん、エドガー氏は本当に了承しているのか?」
「もちろん、むしろ興奮するとか言っていましたわ」
「…………」
言われて見れば、浴室の扉の隙間から覗いてくるエドガーの目に敵意や殺意は感じない。
妻が別の男と入浴しているというのに、爛々と瞳を輝かせている。
「そういうわけで……長女として、先に頂かせてもらうわね。天井のシミを数えているうちに終わるだろうから、リラックスしてくれたら良いわ」
「わあっ!」
湯船に浸かったまま、マリアステラがリオンに覆いかぶさってくる。
リオンはのしかかってくるマリアステラの裸身を抱きとめ、大きな乳房に顔を埋めた。
風呂場ではしゃいだ二人が逆上せてしまったのは言うまでもないこと。
何故か、脱衣所で顔を合わせたエドガーもまた顔を真っ赤にして、鼻血を垂れ流していたのだが。
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