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5.三女降臨


「サフィナ、はしたないですよ!」


「あ……ごめんなさい、マリアお姉様」


 姉の叱責を受けて、サフィナが消沈したように肩を落とす。

 しかし、リオンの姿を見つけると、すぐに飛び跳ねるようにして、その腕に抱き着いた。


「わっ!」


「リオンお兄様! ああ……会いたかったですっ!」


 サフィナが身体を密着させ、キラキラとした眼差しで見上げてくる。

 リオンは真っすぐな好意をぶつけられて、困惑してマリアステラに目を向けた。


「ちょ……これはいったい……」


「ああ、ごめんなさいね。サフィナってば本当にお転婆なんだから……」


「いえ、そうじゃなくって……」


「サフィナだけどね、その子……どうやら、眠っていた間の記憶があるようなのよ」


 マリアステラが頬に手を添えて説明する。


 身体に呪印を刻まれて意識を焼失させていたサフィナであったが、その脳は活動を停止していたわけではなかったらしい。

 理由は不明だが……自分の姉、アルフィラとマリアステラと五感を共有していたそうだ。

 二人の姉の目を通して物を見て、音を聞いて、舌で味わって……姉達と一体化したような感覚を経験していたとのこと。


 そんなサフィナはアルフィラの目を通して、リオンが蜘蛛の怪物となったリズベッドと戦っている場面も見ていたらしい。

 自分を救うために戦っている勇者の姿を目にして……サフィナはすっかり、惚れこんでしまったようである。


「目を覚ましてから……ずっとずっと、会いたかったんです! だけど、まだ身体が治り切っていないからって、お父様に止められてしまって……!」


「あー……なるほど?」


 もしかすると、スノーウィンド公爵が激怒していた理由の一つは、それだったのだろうか?

 アルフィラだけではなく、末娘であるサフィナにまでちょっかいをかける害虫だと判断されたのかもしれない。


「お兄様が戦っているところ、ずっとずっと見てました! すっごく格好良くて、強くて、私……たくさん感動しちゃいました!」


「そ、それは良かったね?」


「はい、良かったです!」


 サフィナが同じソファに座って、リオンの腕に抱き着いてくる。

 小柄で子供っぽい容姿のサフィナであったが、年齢以上に身体は発育しているようだった。

 ムニュリと柔らかな感触が押しつけられる。


「レオバードのことは残念です。彼は友達だったから、出来れば死なないで欲しかったんですけど……」


「サフィナ嬢……」


「でも……良いんです! アレは仕方がないことだったと思いますし、友達を助けてくれたお兄様には感謝しかありませ! それと……私のことはサフィナで大丈夫です。もっと気安く呼んでください!」


「うっ……」


 サフィナがキラキラとした目で見つめてくる。

 さあ、呼べ。

 名前を呼べ。呼ばないと許さない。

 そんなふうに、視線だけで催促してくる。


「サフィナ……」


「はい! リオンお兄様!」


 仕方がなしに名前を呼ぶと、サフィナが弾けるような笑顔でさらに抱擁を強める。

 人懐っこい子犬に懐かれたような気分だ。

 マリアステラと話していたときとは別の居心地の悪さに襲われる。


「サフィナ、リオン様を困らせてはいけませんよ」


「ごめんなさい、マリアお姉様……ところで、お兄様と少しお時間を頂きたいんですけど良いですか!?」


「……良いでしょう。もちろん、リオン様がよろしければですが」


 マリアステラが扇で口元を隠して、小さく溜息を吐いた。


「私もリオン様にお願いすることがあったんですが……またの機会にしましょう。先に妹の用事を聞いていただけますか?」


「それはもちろん、構わないが……」


「やったあ! それじゃあ、リオンお兄様! こちらへどうぞっ!」


 サフィナがリオンをソファから立たせて、応接間の外に連れていこうとする。


「それじゃあ、いきましょうか! リオンお兄様!」


「行くって……いったい、何処にかな?」


「もちろん、私の寝室に決まっています!」


「寝室……?」


 訝しげな顔になるリオンに、サフィナが太陽のように輝く笑みで爆弾を投下する。


「一緒に子供を作りましょうっ! 勇者の子供を産ませてくださいっ!」



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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