9.疑惑の王太子
オーガ退治の翌日。
リオンのところに、スノーウィンド公爵家からの使いが来た。
『新しくわかったことがある。できるだけ急いで、公爵家の屋敷に来てくれ』
用件すら省いた簡素な手紙に従って、リオンはアルフィラがいる屋敷へと訪れた。
「ああ、すまない。さっそく来てくれたんだな」
リオンが顔を出すや、アルフィラが出迎えてくれる。
穏やかな笑みを浮かべたアルフィラであったが……その表情はどこか疲れているようで、以前とは様子が違っている。
「お嬢様……大丈夫ですか?」
「体調不良……?」
ミランダとティアも主人を心配した様子である。
二人に気遣わしそうに訊ねられ、アルフィラがゆっくりと首を振る。
「何てことはないさ……ただ、少し気になっていることがあって、寝不足なんだ。詳しくはいつもの部屋で話そう」
アルフィラに連れられて、リオンは応接間に通される。
メイドが紅茶と茶菓子を置いて、すぐに部屋から出ていった。
「さて……私はこの一週間、友人をあたって王太子殿下の女性関係について調べていた」
紅茶を一口、飲んでからアルフィラが口を開く。
「王太子殿下は年頃の令嬢何人かに後宮に入って、側妃になるように求めていたようだ。話を受けて、後宮に入る準備をしている令嬢もいるようだが……何人かは断って、王太子殿下との婚姻を拒んだようだ」
「それで……その令嬢は……」
「呪われていた……調べた限り、一人残らず全員だ」
「…………!」
確定した。もはや偶然だけでは済まされない。
王太子との婚約を拒んだ女性だけが、狙ったように呪いをかけられている。
呪いをかけたのが王太子であるかどうかまでは断定できないが、無関係ということはあるまい。
これまで、王太子との縁談を断った令嬢が呪いにかかっているという事実は、表沙汰になっていなかった。
それは令嬢の家族がひたすら隠していたから。
娘が呪いにかけられたなんて家の恥だし、話が広がってしまえば、他の縁談だって失われてしまう可能性がある。
アルフィラが直接、「娘が呪いにかけられていないか」と問い合わせたからこそ口を開いたが、そうでなければ永遠に秘密にしていたに違いない。
「呪いの程度はそれぞれだった。サフィナと同じように心を失っている者もいれば、四肢が動かなくなっている者、言葉を発せなくなっている者……フェリエラという女性と同じように、呪印が浮かんでいるだけで目立った実害がない者もいた。共通しているのは、身分や爵位が高い令嬢ほど症状が重いということか」
「アルフィラ……」
「わかっている……こうなった以上、王太子殿下を突き詰めないわけにはいかない」
アルフィラが顔を上げる。
毅然とした公爵令嬢の表情。Aランク冒険者の強い眼差し。
「実のところ……調査の途中で、私と同じように王太子殿下を怪しんでいる御方と出会うことができたんだ。彼女も同じように呪いについて、調査をしていた」
「その『彼女』とは、いったい……?」
「セントラル王国第一王女……シュエット・セントラル殿下だ。詳しい話をしたいから、王都まで来て欲しいと提案してきた」
「王都……」
セントラル王国の王都にはリオンも訪れたことがある。百年も前のことだが。
「私は真相を確かめるために、シュエット殿下にお会いしたいと考えている。リオンは……」
「同行させてくれ」
「……そう言ってくれると思っていた。心強いよ」
アルフィラが微笑んだ。
その笑みからは、先ほどよりもわずかに硬さが抜けている。
「王都。それに王女殿下か……緊張しそうだな」
「ははは……シュエット殿下は今は王宮から離れていて、修道院に入っておられる。別に悪さをして入れられたわけじゃない。勉強と社会奉仕のためだ。身分にこだわる御方ではないから、緊張する必要はないよ」
「そうか。それなら良いんだけど……」
シュエット王女に会えば、王太子のことが……呪印のことがわかるかもしれない。
リオンとアルフィラは何人かの供を連れて、王都へと向かうのであった。
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