4.灰色の王家
フェリエラから話を聞いたリオンは娼館を出て、スノーウィンド公爵家の屋敷に戻っていった。
道中でミランダとティナから、娼館で何をしていたのか根掘り葉掘り聞かれてしまったが、二度手間になるから適当にあしらっておく。
「ああ、リオンか。丁度良いところに戻ってきたね」
公爵家の門の前でアルフィラがいた。
アルフィラはちょうど馬車から降りたところで、リオンを見つけると声をかけてくる。
「何かあったのか?」
「例のメイドについてわかったことがあってね。君も成果があったようだし……中で話そうか」
アルフィラを先頭に、リオン、ミランダ、ティナが続く。
四人が応接室に入って、アルフィラとリオンが向かい合ってソファに座った。
「「…………」」
ミランダとティナは壁際に立っている。
アルフィラに対して敬意を、リオンに対して敵意の視線を向けることを忘れずに。
「まずは、私から話そう。例のメイドについて調べていた」
アルフィラが座って一息つく暇もなく、説明を始めた。
「そのメイドは王都の郊外に暮らしていて、半年前、田舎の父親の介護のために帰郷すると話していた。しかし、そのメイドが暮らしていた家に行ってみたところ、彼女はすでに亡くなっていた」
「死んでいたのか……」
「ああ、近所の人間の通報で憲兵が死体を発見したらしい。何日も家から出てこず、異臭がしたために中を調べたところ、寝室のベッドで亡くなっていたそうだ。病死として処理されているので、私の方までは報告が上がっていなかったらしい」
「……口封じか」
何者かがそのメイドに依頼して、呪いの媒体としてぬいぐるみを盗ませた。
そして、用済みになったメイドを病気に見せかけて殺害したのではないだろうか。
「近所の人間の話では、公爵家をやめた直後から急に羽振りが良くなったそうだ。家に若い男が上がり込んでいたこともあるらしい。父親の病気というのは真っ赤な嘘のようだな」
「……確定だな。しかし、そのメイドからは辿れないか」
「リオンの方は何かわかったのか?」
「ああ……」
アルフィラの問いに、リオンは娼館で聞いた話について説明した。
「王太子殿下が……いや、まさか。そんな……」
アルフィラが沈痛な顔をしている。
偶然であって欲しい……そう顔に書いてあるが、やがてゆっくりと首を振った。
「……妹にも、サフィナにも来ていたんだ。王太子殿下との婚姻の話が」
「え……?」
「我が国では、国王や王太子は複数の妃を持つ。王太子殿下はすでに正妃となる女性が決まっていたが、側妃として後宮に入らないかとサフィナに王家から話が来ていた。もちろん、公爵家の令嬢が正妃ならばまだしも、側妃扱いなんてとんでもない。父が怒ってすぐに断っていた」
「フェリエラも側妃入りの申し出を断ったら、呪われた。王太子が自分との縁談を拒んだ女性に呪いをかけているということか……?」
「馬鹿な。王太子殿下はそのような人ではなかったはず……!」
「…………」
アルフィラが沈痛な顔になる。
フェリエラも同じことを言っていた。王太子が呪いをかけるような人間ではないと。
二人の言葉を信じるのであれば……王太子は信頼の厚い人格者のようである。
リオンとしては、そんな王太子の評価は複雑だった。
王太子……その祖先であろうルセルバード・セントラルは、リオンが成し遂げた邪神殺しの功績を奪い取った可能性があるからだ。
(子孫に罪はないのだろうが……正直、複雑な気持ちだよ)
自分や仲間の功績を奪い取り、繁栄を享受している者がいるということは。
あってもいない王太子を非難する気はないが、どうしても悪い印象を抱いてしまう。
「二人の人間が王太子からの求婚を断ってから、呪いに侵されている。俺は王太子と会ったことがないから滅多なことは言わないが……偶然とは思えない」
「それは……」
「これはあくまでも可能性の話だが……もしも、王太子が他の令嬢にも側妃になるよう誘っているのだとすれば、他にも被害者がいるかもしれない。その辺りを調べてみたら、真偽がわかるんじゃないかな?」
「なるほど……確かに、その通りだ」
アルフィラが頷いた。
先ほどまでは表情を曇らせていたが、すぐに毅然とした顔つきになる。
「すぐに調べてみよう。何かわかったら、君の宿泊先にも知らせたいのだが……宿を教えてもらっても良いだろうか?」
「あー……宿か。決めてないんだよね」
スノーレストの都にやって来てから、ずっと娼館で寝泊まりをしている。
決まった宿や拠点は決まっていなかった。
「うーん。ならばこの屋敷に……と言いたいところだが、他所の男を止めたりしたら、父がうるさいからな。紹介状を書くから、私の知っている宿屋に泊まると良い」
「ああ……金まで貰っておいて、重ね重ね申し訳ないな」
「構わないとも。私の仲間達がしたことを思えば、これくらいじゃ足りないくらいさ」
その後、アルフィラから紹介状を書いてもらってから、宿屋に向かう。
教えてもらった宿屋はリオンが想像していたよりも、二段階、三段階は高級な場所。
選ばれた上流階級の人間が利用する一流ホテルだった。
「クッ……屈辱だ」
「……好きにする、です」
そんな高級ホテルには……何故かというか、当然というか、ミランダとティナの二人がくっついてきた。
フカフカのベッドの上、リオンは敵意を剥き出しにする二人と向き合うことになったのである。
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