12.勇者の初体験
「フウ……」
十分に酔いを醒ましたリオンは孤児院の一室で横になっていた。
安物の固いベッドの感触に背中が痛くなるが、気にすることなくぼんやりとした眼差しで天井を見上げている。
「…………」
声を発することなく、リオンはただ虚空を見つめる。
明日には村を出ると決めたはずなのに……不思議とそのまま眠りにつく気にはなれなかった。
百年ぶりの帰郷を果たし、両親の弔いを済ませ、幼馴染の子孫らしき二人の女性の手助けをした……新たな旅立ちを止める理由は何も無いはずなのに、何故かやり残したことがあるような気がしてならない。
(いけないな……これは未練だ。久しぶりの故郷、幼馴染とよく似たメイナとアルティと過ごす時間の心地良さのせいで、後ろ髪を引かれてしまっているみたいだ)
この村で過ごしたのは二日に満たない時間だったが、驚くほど安心する一時だった。
特別な何かがあったわけではない。それなのに充実した時間を過ごせたのは、やはりここが生まれた故郷だからなのだろう。
(できることなら、もう何日か滞在をしたいところだけど……それは許されない。私情のために世界の命運を揺らがせるわけにはいかないな)
リオンは大きな町に出て、そこで子供を作らなくてはいけない。
勇者の子孫を残すことこそが女神から与えられた使命であり、リオンが復活した理由なのだから。
リオンが私情を優先させて使命を放り出してしまえば、甦った邪神によって世界が滅亡に追いやられてしまう。
自分と仲間が命を捨てて守った世界が邪悪に滅ぼされるなど、絶対にあってはならないことである。
リオンがそんなふうに自分に言い聞かせていると……ふと、ギシリと床が軋む音がした。
「……誰だ!?」
素早くベッドから身体を起こして音がした方向を確認すると……廊下に繋がっている扉がゆっくりと開いた。
「…………は?」
「こ、こんばんは。失礼いたします……リオン様」
そこに立っていた人間の姿を目にして、リオンは目を見開いた。
扉を薄く開いて申し訳なさそうにこちらを窺っていたのは、この村で出会った姉妹の片割れ……メイナである。
「少し、お話できませんか? その……お邪魔でなければ」
「……あ、え、ああ。それは別に、ええっと……いいんだけど……?」
思わずどもってしまったのは、夜半に思わぬ訪問を受けたからではない。
現れたメイナの姿形……身にまとっている服装が理由である。
(な、何でこんなエッチな格好をしているんだよ!?)
リオンは心の中で叫んだ。
部屋に入ってきたメイナは紫色の絹のネグリジェを着ており、開いたボタンからは胸の谷間がしっかりと見えていた。
どうやら、メイナは着やせするタイプらしい。服の上から見たよりもサイズの大きな乳房がハッキリと自己主張しており、誘うようにフルフルと揺れている。
田舎の村、貧しい孤児院には似合わない淫美な下着であったが……それはかつて、孤児院の院長であるレジーナが行商人から買い、姉妹に与えた勝負服である。
『いくら貧乏だからって、最初の夜くらいは着飾らないとねえ。その時が来たら、しっかりとやるんだよ!』
そう力強く力説したレジーナの言葉を当時のメイナは理解できなかった。
しかし、今ならばはっきりとわかる。
女には後先考えずに、本気にならなければならない時がある。今こそがメイナにとって、最初で最後のその瞬間なのだ。
「リオン様は……私のことをどう思っていますか?」
「ど、どうって……」
「私はリオン様のことをお慕いしております。貴方に命を救われて、貴方が剣と魔法を振るっているところを見て、胸がドキドキしてお腹の奥が熱くなって……もう苦しくて、耐えられないんです……」
「へ、へえ……それはいったい……」
メイナがジリジリと近寄ってきて、とうとうベッドの上にまで侵入してくる。
リオンは人生で一度として味わったことのない事態に直面して、激しく混乱しながら端に追い詰められてしまう。
明らかに一歩引いた様子のリオンを見て、メイナが悲しそうに瞳を濡らす。
「……やはりご迷惑でしたよね。私のような平凡な村娘がリオン様に触れるなんて、そんなことは許されませんよね」
「い、いやいやいやっ! そういうことではなくて、その……急なことでわけがわからないというか……」
「妻にしてくれなどと言うつもりはありません。ただ……私はリオン様が旅立つ前に、ほんの一晩だけで良いので情けを与えて欲しいのです」
「ッ……!?」
メイナがリオンの手を取り、自分の胸元へと誘導する。
薄い下着越しに感じるたわわな感触。人間の身体にこんなにも柔らかい部位があるだなんて、リオンは人生で知らなかった。
「リオン様……どうか、私を哀れと思うのであれば抱いてください。卑しいこの身を、どうか一夜だけでも……」
「ちょっと待ったあああああああああああああっ!」
「うわあっ!?」
突然の怒鳴り声に、リオンが一番驚かされてしまった。
心臓を跳ねさせて声の方向に目を向けると……開け放たれた扉の前にアルティが仁王立ちをしている。
「お姉ちゃん! どうしてリオンお兄さんに迫ってるのよ!」
「ブッ!」
そこにいた少女の姿を見て……リオンは思わず吹き出した。
メイナよりも一回りは小柄なアルティであったが、彼女もまた下着姿だったのである。
アルティが着ているのはメイナとは色違いでピンク色をした半透明のネグリジェ。胸の膨らみは小さめなものの、健康的な太腿がよく締まった腹筋がどうだとばかりに自己主張をしている。
「お、お前もか……」
「抜け駆けはズルいよ! 私だって、リオンお兄さんに抱いてもらいたいんだからね!?」
「フフッ……それじゃあ、姉妹で一緒にご奉仕をいたしましょうか。私達を救ってくれた恩人に身体で御礼をしましょう?」
メイナに続いて、アルティもまたベッドに乗ってきた。
顔を朱に染めた二人の女性。かつて恋した幼馴染によく似た容姿の姉妹がエッチな格好をして、リオンに迫ってくる。
「リオン様……」
「リオンお兄さん!」
「う……」
そんな状況にリオンは脳みそが茹で上がりそうになりながらも、どうにか覚悟を決めて姉妹を両手で抱き寄せる。
「お……勇者の子供を産んでくれ……!」
リオンの腕の中で、美しい姉妹が嬉しそうに嬌声を上げたのであった。
〇 〇 〇
数時間後。
太陽が昇るかどうかという時間帯になって、リオンはトボトボと暗い森の中を歩いていた。
「……やってしまった。抱いてしまった」
メイナとアルティ。
かつて同じ村で生まれ育った幼馴染とよく似た姉妹と身体を重ねてしまった。
朝になって村を旅立ったリオンであったが……姉妹には別れの挨拶はしていない。
まるで夜這いを果たした間男が逃げるように、夜明けと同時にリオンは村を出た。
リオンに抱かれたばかりに二人はクッタリと果てており、目を覚ます様子は少しもなかった。
リオンにとっては初めての情事である。
勇者の底無しの精力を……解放されたばかりで、暴走する雄の衝動を正面から受けることになった姉妹は、完全に体力を使い果たしてしまったようだった。
「もしかして……二人は俺の子を孕んでしまったのだろうか?」
森の中をトボトボと肩を落として歩きながら、リオンは表情を曇らせる。
仮に孕んでいたとしても、今回の件についてリオンが悪いかと聞かれるとそうではないはず。
先に迫ってきたのは二人だし、同意の上で行為に及んだ。
ついでに言うのであれば、リオンは女神から子供を作るようにとのミッションを受けている。
リオンが子供を作らなければ世界は破滅。十分な大義名分は持っていた。
むしろ子供ができた方が良いのであって、気に病むようなことではない。
それでも逃げるようにして村から出てきたのは、やはり未婚の女性の処女を散らしてしまったことへの罪悪感があったからである。
罪滅ぼしだとばかりに、昨日、魔窟で採掘したオークの素材を置いてきた。
魔窟の魔物の素材はかなり高値で売れる。あれだけの量があれば一財産だ。二人が子供を産んだとして、成人するまでの養育費には十分だろう。
「……俺はこれからもこんな気持ちを抱えて、女性と行為に及ばなければいけないのか? 百人も子供を作るまで、続けられるのか?」
落ち込んだ様子のリオンであったが……この自己嫌悪はいわゆる『賢者タイム』と呼ばれるものである。
初体験を経たことで禁断の果実の味を知ったリオンは、これからも多くの女性と肌を重ねることだろう。
そして、女神の狙い通りに多くの子供を作るはず。
リオンは気がついていない。
復活した自分の身体に、女神がとある細工をしていることに。
勇者として女神の加護を生まれ持ったリオンの肉体には、新たな力が付与されていた。
リオンに抱かれた女性は、リオンに対して強い感情を持つほどに妊娠する確率が高くなる。
月経の周期や種族ごとの肉体の違い、『妊娠』という概念を持たないはずの存在にすら強制的に子を孕ませることができる能力。
その名も……『子宝繁栄』。女神がリオンに与えたもうた新たな加護である。
百人の子供を作る。
そんな使命を抱えたリオンの旅路、勇者のアフターストーリーはまだまだ始まったばかりなのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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