拝啓、小説家になろう様
作者が『小説家になろう』の利用を始めたのは、もう十年以上前の話になる。最初の投稿日は2010年だけど……登録前から読者として、利用していた時期もある。なので、もう少し手前から『小説家になろう』を知っていたと言えます。
今回のテーマは歴史と手紙。運営に対して作者は、自分自身の知る『小説家になろう』の歴史を振り返りつつ、手紙を送る形で本作を投稿している。が、自分目線だけでは少々『ルール違反』かもしれない。だから、『小説家になろう』そのものの歴史についても調べ、掲載してみようと思う。
サービス開始は2004年。今が2022年だから、なんと18年前が始まりらしい。人類史単位で見ると、大した事が無いかもしれない。が、これがインターネットの発展や、ネット文化の歴史として考えると、かなりの年月だと思う。
この年に何があったか……と言うと、ゲーム機のPSP・ニンテンドーDSが発売され、鳥インフルエンザが流行した年らしい。まだ『youtube』も『ニコニコ動画』も、サービス開始2年前と言えば、人によっては『古の時代』と思えるかもしれない。フラッシュ系のサイトも健在で、スマホだって影も形も無い。
つまり――『小説家になろう』が生まれた時代は、PCとガラケーの時代だった。その時代に生まれた本サイトは……最初は一個人が運営する、小さなサイトだった。
そう。最初期において『小説家になろう』は、今のように各種コンテストが行われる訳でもない。そこから書籍化デビューなんて話は、まるで存在しないサイトだった。あくまで民間による、民間のための小説投稿サイト。パソコン、ガラケー向けに調整された数ある小説サイトの一つに過ぎなかった。それがここまでの発展を成し遂げるとは、運営側も予想外だったに違いない。
その証拠があるか? と言われると……ちょっと『小説家になろう』運営には、触れられたくない話題に触る事になる。
『小説家になろう』は、いくつかの外部サイトも存在しているが、今は封鎖されたサイトの中に『にじファン』と言うサイトがあった。二次創作を専門とするサイトで、当時は特に制限も無かった。現在は、許可のある二次作品のみが『小説家になろう』で投稿を許されている。かくいう作者もかつての『にじファン』において『東方project』の作品を投稿していたが、封鎖に合わせて一旦、非公開にせざるを得なかった時期がある。数か月後だったかな……許可に合わせて復帰する形になった。
けれど、それも仕方ない。『小説家になろう』グループは、この頃大きく発展しつつあった。作者の登録IDは五桁番台ギリギリ。つまりこの頃、登録者は10万人を超え、書籍化のオファーが入る作品も現れつつあった。
『Re:ゼロから始める異世界生活』『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』『無職転生』などなど――今ではアニメ化を果たした作品たちが、連載中の時期です。評判と小説投稿数、登録者数は大幅に拡大し、もう一個人では回しきれない。株式会社ヒナプロジェクトを立ち上げて二年が経過し、『小説家になろう』からの書籍化作品が出版されるにつれて、二次創作を大っぴらに許可するのはマズい。ここは、元々著作権において黒よりのグレーゾーンですから……切るしかないと思います。
さて。そうした経緯で消えてしまった『にじファン』ですが……私はここで掲載されていた『東方project』の作品群と、今の『小説家になろう』で発展した『なろう系作品』――異世界転移、転生系の作品文化について、類似点があると考察します。少なくても『なろう系テンプレート』形成に、一役買った可能性を示したい。
現在調べた所……『小説家になろう』内部で公開されている『東方project』作品は1700を超えた程度ですが、これは本来の数ではありません。証明不能ですし、作者の記憶頼りなので曖昧な数字ですが……封鎖前は確か2500を超えていたと記憶しています。これは『小説家になろう』で許可が下りるまで、『にじファン』封鎖から多少のタイムラグがあった事。そして許可が下りた後に、ガイドラインで指定されたタグ設定を行っていない事が原因でしょう。
で、掲載されていた作品の中に――このようなパターンの話があったのです。
主人公が『東方project』の世界に迷い込み、その上で『能力』に目覚めて、本編中に在った出来事をなぞる。
似たような状況から『遥か古来の日本から歴史をなぞり、『東方project』の世界が完成するまでの時系列を表現する』――
この『能力』と言うのは『なろう系』における『チートスキル』と読み替える事の出来る要素です。中には『能力』以上に、本体性能が高かったりするパターンもありますが、そうした展開も含めて、異世界転移・転生系『なろう系』と呼ばれる作品群との類似点が見られました。
ここで気が付いた人もいると思います。主に『小説家になろう』で発展した異世界転移・転生系の作品群は――『その多くが西洋風・ヨーロッパ風』の文化圏で形成されることが多い。不思議に思った人もいるんじゃないでしょうか? 『何故日本の江戸時代・戦国時代風』の異世界系の作品が少ないのか……作者としての答えは『それをやるなら、最初から日本風異世界とも呼べる、東方二次創作で良いから』――だと思います。
その話の軸を転用したのか、それとも差分化、区別化したから『なろうの異世界転移・転生系作品はヨーロッパ風の異世界』として定着したのかもしれません。あの界隈にいた作者としては『にじファンで掲載されていた東方project』作品と『小説家になろうの異世界転移・転生系』作品に、全くの関連性、影響が無かったとは思えません。古い作品が埋もれてしまったので、証明が難しいですけどね。
それからも『小説家になろう』では、様々な改変がありました。例えば、ポイント評価の変遷です。今は『作品を評価する』時、星を1から5の間でつける事が出来ます。しかし昔は違いました。文章力とストーリーで、別々に1から5までのポイントがつける事が出来ました。
人によっては、今の『小説家になろう』のポイントシステムを、不思議に思った事があるかもしれません。なぜ星一つで、2ポイントが入るのかに。お気に入り登録も一人につき2ポイント。これなら最初から、全部1ポイントずつで良いのでは? と。
答えは『すべて1ポイントに圧縮してしまうと、古い作品とポイントが公平にできなくなってしまうから』です。古い作品の場合、このストーリ評価と文章力評価が5ポイントずつが最大。よって10ポイントになるわけですから、それを強引に引き下げては不公平になってしまう。だから星による評価も内部的には『星4が付いたのでストーリ4・文章4』と扱われているのかもしれない。ここは運営のみぞ知る。
なので、この星評価に簡略化される前の作品は、合計評価が奇数になっている事があります。これは『ストーリー4・文章力3』と誰かが評価をつけたのが、現在まで残っている証拠です。奇数の作品がいくつあるか調べようとも思いましたが、百万近い作品を調べるのは無理でしたハハハ……
さて、なろうの歴史について、こうして調べ、そして作者目線で語ってきましたが……小説家になろうは、果たして変わったか? について、改めて運営様へ。
少し捻くれた表現ですが……『小説家になろう』のサイトは、最初は無名の、インターネットの荒野に漂う小さな本棚だった。それがこの規模にまで発展し、有名小説投稿サイトにまで成長し、現在もその基盤を維持し続けている。
これは容易ではない。ネットの流行り廃り、成長と荒廃の波は凄まじく早い。本文において最初『ニコニコ動画』にも触れたが、かつて隆盛を誇っていたかのサイトも、現在はかなり苦しい。ネット環境の荒波の中生き残り、巨大な会社として根を張ったその姿は……ある意味『ネット社会において、無名から成り上がった』とも表現できるかもしれない。このサイトの成長そのものが……『小説家になろう』の中にある流行の一つ『成り上がり物』を体現したと言えるのかもしれない。
しかし――あなた方が当初の理念を失ったとは、私は全く思っていません。正直心配すらしていない。
ただ利潤だけを追求するなら……今回の企画を立ち上げる事は不要でしょう。ブランド力を得た『なろう系』を前面に押し出していればいい。毎年投稿される作品が、千を超えるかどうかも怪しい『夏のホラー』『冬の童話』を、さらに発展させて『春の推理』『秋の歴史』と開催する手間は、利益だけを求めるのなら不要でしょう。実を言うと、いつかこの企画も打ち切られるのではないかと、内心冷や冷やしていました。
私は、この企画に感謝しています。毎年では無いですが、何度か私は企画に参加させていただいています。お蔭で私は、表現力や文章力、創作者として鍛えられたと思うのです。
与えられたジャンルとテーマに沿って、期限内に小説を練り投稿する。この工程は、私が一部ジャンルにこだわり、純化、特化させる方面で小説を書いていた私を解き放ち、表現の幅を広げる助けとなりました。ゼロから物語を書くのは難しい所がありますが、企画やテーマなどの軸があれば、始めやすい。そして調査し、表現し、期限内に投稿する。一通り『やり遂げる』事が出来るなら、少なからず糧になる。あなた方の行動と活動に、作者も助けられたと断言できます。
時代の荒波が、どこに行くのかは分かりません。私もその内、投稿を止める日が来るかもしれない。私の同期の作家も、そのほとんどが小説を投稿する活動を、止めてしまいました。長く続ける行為は、何であっても難しいですから。
一年先の見通しも、誰も立てる事の出来ない状況です。世界は決して、安定してなどいない。それはネット界隈においても同じでしょう。
ですが出来れば、私はまだ、ここで活動を続けていきたい。登録せずとも小説を閲覧できる……この開かれたサイトが好きだ。願わくば……あなた達の歴史が、これからも続く事を、祈りたい。